第6話

 そこから家に帰る途中、私はたくさんのあるものを目にしました。それはお葬式です。

 この世界では、冬を越せずに春を目前として亡くなる、私のお母さんのような人が多いのでした。

 私はいつかお母さんと一緒に読んだ童話を思い出しました。

 春の神様は、人々から少しずつ元気をもらう代わりに、春を呼ぶのです。

 ですから、冬を越せなかった人々は「春の神様に全ての元気をあげてしまった人」と言うのでした。

 春になるとお葬式がよく行われているという光景は、何度も目にしたことがありました。けれども、私はいつも気づかないふりをしていました。そんな悲しみを知りたくはなかったのです。

 私はこの時初めて、春が内包する悲しみにしっかりと目を向けました。

 たくさんの人が死を悲しんでいます。

 それを見て、私のお母さんもこうだったら良かったのに、と思いました。私のお母さんのことは、誰も気にしてくれませんでした。

 最初の頃こそお見舞いに来てくれた人はいましたが、だんだん少なくなり、次第に誰も、気にも留めなくなりました。

 きっと、皆、お母さんが亡くなったことさえ知らないのでしょう。私は少し複雑な気持ちになりました。


 それからは地獄の日々でした。毎日、私は泣きました。お母さんが読んでいた本を全て読み、お母さんの匂いが微かに残るベッドで眠りました。そうしていると、お母さんに抱かれているような気持ちになったからです。しかし、朝になるとお母さんがいないことに絶望しました。


 次第に私は何もする気がなくなりました。仕事も辞めましたし、食事もあまり摂らなくなりました。一日の大半を寝て過ごし、時々目が覚めては泣きました。

 自分でも、私はおかしくなってしまったのだと思いました。それでも、生活はなかなか変えられませんでした。

 いつしか、私は早くお父さんとお母さんのもとへ行きたいと思うようになりました。そんなの、間違っているとわかっています。きっと、お父さんもお母さんもそんなこと望んでいません。

 ですが、一度思い始めると止められませんでした。

 私は毎日、お父さんとお母さんのもとへ行く夢を見ました。目覚めると大量の冷や汗をかいていて、心臓がどくどくと脈打っていました。その度、私はまだ生きていると実感し、ほっとしました。


 そんな毎日を繰り返し、やがて冬がやってきました。寒さが一際厳しいある日、私はふと思い立って、冬だというのにあの秘密の花畑に向かいました。

 花畑は真っ白な雪に覆われていました。まるで白い花が一面に咲いているようです。私は初めての光景に、息を呑みました。

 私はお母さんのお墓を探しました。雪に覆われてなかなか見つけられませんでしたが、何度か雪をかき分けていくうちに、春に立てた墓標を見つけました。


「お母さん……」


 この下に、お母さんが眠っています。私は手を合わせました。

 ふと隣に目をやると、もう一つ墓標が立っていることに気がつきました。春は気がずいぶん動転していたようです。全く気がつかなかったのですから。

 雪を拭ってよく見ると、そこに刻まれていた名前は、私のお父さんのものでした。

 お父さんとお母さんは、二人で仲良く眠っていたのです。

 私は少し微笑みました。

 これで思い残すことはありません。

 その時でした。


「ハル……?」


 振り返るとそこには、あの少年が立っていたのです。

 彼は、前もそうでしたが、ほとんど一年経つというのに、前と全く変わっていませんでした。

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