第8話 魔法
魔法の指導
魔力を育てる為に水を出し続けてから1ヶ月が経った。
その間、何度も魔力欠乏症になって倒れ、先生の魔法で起こされ、魔力を回復させる秘薬を飲まされまた魔力を放出し続けた。
朝から晩まで俺はそれを続けた。正直このまま死なないかなと思ったこともあった。魔力欠乏症になると酷い頭痛と体全体への倦怠感が伴う。それは秘薬を飲んでも収まることは無いので痛みなどに耐えながら水を出し続けたのだ。
「よし、じゃあ今日からは魔法を教えるね。ちなみに魔力はどこまで増えた?」
先生はいつものように庭先で杖にもたれかかって立っている。
俺はステータスを呼び出し、自分の魔力の値を見る。ちなみにレベルはまだ1のままだ。
「魔力は1570です」
「おお〜、だいぶ増えたね。この世界ではトップクラスと言っても加減じゃないね」
そりゃあれだけ死ぬような思いをしてこれが500とかだったら切れる。まぁ聞いた話によると、先生の師匠もこの方法で先生の魔力を増やしたらしい。そして、この方法は一般的に見ると頭がおかしいとしか思えないとも言っていた。その時の先生の目はどこか遠い目をしていた。
「それだけ魔力があればあとは知力だね」
「攻撃力と、俊敏性は…?」
「そんなものは必要ないよ。物理攻撃なんて無意味と思わせるくらいに魔法の腕を磨けばいい」
「なるほど…。確かに魔法が人よりも何倍も優れていたらいらないですね…」
「そう。だからこれから残りの間はずっと魔法の腕を磨いてもらおうと思う」
「はい!」
死にかけるような魔力増量のトレーニングが終了し、ついに魔法の指導が始まる。そのことに俺は胸を高鳴らせていた。世界最高峰の魔法使いから魔法を教えて貰えるのだ。
「さて、じゃあいつもの問答だよ」
いつもの問答。先生はこの1ヶ月間毎日、俺に問いをなげ答えさせていた。
「魔法はどうやって使うと思う?」
「杖をかざして、魔力を杖に送る?」
そんなもの分かるわけないので、いつも先生がやっていることを言ってみた。
「5割正解ってところだね」
「む」
思ったよりも低い。
魔力を変換する所までは分かったが何に変換し、どうやって出すのか分からなかった。
「魔法とはそもそも、自分の魔力に何かしらの効力を与え、発動させるものだよ」
「効力?」
「例えば何かを燃やすだとか、電流を流すだとかだね」
「それは変換と何が違うのですか」
「変換はただ、魔力を変換させて放出しているだけ。だから例えば…」
先生は右手を俺の方にだし、雷を放った。
「な」
俺はとっさにその場から飛び退きゴロゴロと地面を転がった。なんて危ないことをするんだと思ったが、転がる時に見えた雷は俺が元いた位置を通過することは無かったのだ。先生の手から出た瞬間、霧散してしまった。
「これが変換だよ。そしてこれが魔法」
続いて先生は杖を振って、雷の塊を発生させた。鳥のような形をしたそれは、先程のように消えることなく先生の周りを飛び回っている。
「違いは分かったかな?」
「はい。魔力の変換は本当に変換するだけ。そこには指向性はなく操作はできない。対して魔法は変換した魔力に指向性や役割を持たせ、自由自在に操ることができる」
「正解だね。そう、それが魔法と変換の違いだよ」
なるほど。効力を持たせるということはそういう事か。
しかし、肝心のどうやって発動するかが分からない。今までは魔力に水に変われと念じてきただけだ。
「で、だ。どうやって魔法を使うのかということだが、こいつを使う」
先生がなにやら指を鳴らすと、空間に穴が開き、とてつもなく分厚い本が出てきた。辞書なんかよりもっと分厚いそれは酷く古びていて、表紙はかすれていて何を書いているかさえ分からない。
「それは一体…?」
「魔力を記された形に変換し、魔力を導き、魔法を発動させる触媒。魔導書だよ」
魔導書? そんなものが魔法を使うためには必要なのか…。しかし、それに記されているとおりに魔力を通せば魔法を使えるならば非常有用性があると同時に誰でも魔法を使えることになる。
「魔導書は魔法を使うためには必ず必要であり、これがなくては魔法が使えない」
「ですが、それでは魔法を覚える意味は無いのでは?」
魔導書があれば魔法が使えるならいちいち魔法を覚える必要なんぞないのだ。
「まぁ、話は、最後まで聞きなよ。この魔導書が必要だと考えられているのは初歩の時だけさ。初めて魔法を使う者は魔法がどこで何を変換し、どのような効果を発生させているのか分からない。そのためのものだよこれは」
「じゃあ、ゆくゆくは要らなくなると?」
「ああ、いらないね。ついでに言うと、魔法は複雑な魔力回路を設計し、役割を持たせ、魔力を流すことで発生する。それを人が分かりやすいように落とし込んだのがこの魔導書だよ」
「ならばやはり覚える意味が分かりません」
やっぱり魔導書があるなら、ページをめくって魔法を見て、魔力を流して発動させる方が楽だ。
「なら、考えてみるといい。君がもし、剣士や魔物と戦闘をする時、いちいち魔導書を開くすき隙を与えてくれると思うかい?」
「……確かに」
「そう。戦闘時に魔法を使うと考えた時、魔法を発動させるまでのロス時間が命を奪い取っていくのさ」
「つまり、ツルギ先生がやっているように瞬時に使えないと意味が無いと」
「まぁ1人の場合はね。他に仲間がいるなら時間を稼いでもらってっていう方法をあるけど、僕はそんな魔法使いにするつもりは無いよ」
確かに、先生の言う通りだった。戦闘時に、いちいち魔導書を取り出して、目当てのページを開き、魔力を流して攻撃する。そんな流暢なことをやっていればあっという間に殺されてしまうだろう。
「さて、理解はできたかな?」
「あ、はい。ただ、知力を伸ばさなければ威力は上がらないって事でしたが……」
先生は俺の問にニヤッと悪い笑を浮かべたあと、これまでの1ヶ月で見たこともないような明るい笑顔を浮かべていた。
なんだその笑顔は…。まさか…。
「魔力と一緒だよ! 死にかけるまで魔法を使おう!」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
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