第7話 魔力を増やすには
次の日から指導が始まった。
朝早くから魔法によって起こされる。目を開いた瞬間から眠気など一切なく、まるで昼のように頭がスッキリしている。
「じゃあ、まずは魔力を感じようか」
外に出た先生は俺の胸に白樹の杖の先端をグッと押し付ける。そのせいで少し、よろめいてしまう。
「じゃあ、しんどいだろうけど、耐えてね」
先生がそう言った瞬間、杖の先から俺の体になにかが流れ込んでくる。目には見えない。見えないが確実になにかが俺の中へと入ってきている。
まるで、血液が一気に逆流しているかのような感覚。そして、そのなにかが俺の体の中で分かれていくのを感じる。胸から、手を通り、胸に戻り反対の腕へと流れていく。やがて、それが頭に向かって流れた時。
「うっ。うぐうううううう…! あがっ…」
感じたことの無い痛みが頭を突き抜ける。インフルエンザや例の感染症の時のような頭が割れるような痛み。しかし、その痛みの度合いは比べ物にならないくらい激しい。
立っていることも出来ず、頭を抱えて前のめりにかがみ込む。口をからヨダレが流れ出る。
壊れてしまう…! 頭が割れる!! 消し飛んでしまう!!
俺の脳はもう限界だと告げているにも関わらず、先生は俺から杖を離さない。今も俺の背中に押し付けている。
「うぐうう。うぁぁぁああああ!!……うぁ」
最後にこれまでの痛みなど生ぬるいと言わんばかりの痛みが体全身を突き抜けた。
「はぁ。はぁ。はぁ。…こ、これは、一体…」
痛みが全身を駆け抜けたあと、先生は杖を俺から離した。
それを確認した俺は、荒く息を吐きながら先生を見た。その表情は、いつもと変わらずにこやかである。
「今朝の君と、今の君。体の中になにか変化はないかい?」
変わったところ?
俺は体をペタペタと触る。しかし、特に変わったところは無い。指は5本だし、腕も2本。足も2本。
なんら変化は感じられなかった。
「体の外じゃないよ。君の体の中だ」
「中…」
体内に意識を向ける。まだ少しだけ痛みが残る脳。そして、妙に暖かいお腹。
?? なんでお腹が暖かいんだ?
俺は自分のへその当たりをさする。
「お腹がどうかしたのかい?」
「…お腹に何かあるような。じんわりと暖かい何かがその場で滞留しているような感覚があります」
「よし。それが魔力だよ」
これが魔力。
これを使って俺たち勇者は今後戦っていくのだろう。
でもなぜ急に??
「不思議そうな顔をしているね」
俺の疑問を見事に察知した先生は杖を腕の中に抱えながら腕組みをして立っている。
「魔力は通常、自分自身の体内に意識をとばし、ゆっくりと体内を流れている魔力を察知することで使えるようになる。そしてそれを育てていく。しかし。この方法は多少の時間がかかる。それこそ才能次第だね」
「はぁ」
「で、もう1つ魔力を認識する方法がある。それは外部から魔力を強制的に流し込むこと。まぁさっきみたいにすんごい痛みを伴うけどね。今回はこっちを選択したって訳だよ。こっちの方が早いしね」
「な、なるほど。でも、感じただけじゃ魔力は使えないのでは?」
確かにお腹の中に魔力は感じる。きっとここに核のようなものがあるのだろう。
だかしかし、魔力を感じても使えなくちゃ意味が無い。今はただ感じているだけ。操作も何も出来ない。
「それは簡単だよ。その魔力を指先に流すようにイメージしてごらん?」
「わ、わかりました」
言われた通りに、お腹の中へ意識を向ける。特に何かをする訳でもない。ただ、イメージをしているだけ。暖かい魔力が指先に向かっていくのを。
そうすると、確かに暖かいなにかが胸を通り、右手の指先に向かっていく。そして、指先で止まった。
「あの、魔力は流せたんですけどここからどうすれば?」
「そうだね。魔力を水に変換させるように混ぜてみなさい」
「混ぜる?」
「そう。指先で水になれと思いながら回転させるんだ」
「はい」
言われた通りに、指先で回転をさせる。
これは水になる。指先から水として出る。水として。出ろ!
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。
「で、出た…!」
指先から水が出た。少ししか出なかったが、確かに何も無いところから水を生み出したのだ。
試しに魔力を指先に集め続けてみる。すると。
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。
魔力を送り続ける限り、永遠と水が出てきた。
「うん。継続的に出すことをできるようだね」
「はい!」
「それが、魔力を変換するということだよ」
「? これは魔法では?」
これは魔法ではないのだろうか?
だって、指先から水を出すとかいう超常的なことをしたのに。
「ははっ。これは魔法ではないよ。これは魔力変換だよ。魔力をただの水に変換させたものだ」
「なるほど…」
「これから1ヶ月はこの水を出し続けてもらうよ」
え、魔法じゃないものを練習するのか…? 魔法じゃないのになんのために…。魔王を倒すためには魔法か剣が必要だと言っていた。ツルギは魔法使いということもあり、魔法を教えて貰えると思っていた。
「なんでって顔をしているね。単純に言うと魔力を増やすためだよ。…人はどんな時に魔力が増えると思う?」
先生は突然そんな問いを投げてくる。そんなのは簡単だ。ステータスにレベルと言う概念がある以上。
「レベルを上げること」
「その方法もある。他にはなにか思いつかないかい?」
他? 一体何がある?
…そういえば先生は1ヶ月はこれをやると言っていた。なら。
「魔力を使い続けること?」
「正解!」
うんうんと頷く先生。
本当だろうか? たったそれだけで魔力が増えるのなら多くの人は魔力が増大し、あまり差は無くなるはずだ。
「ただ」
ニヤッと先生が笑う。
「魔力が無くなり、死にかけるまで出し続けてもらう」
「…え?」
「魔力は使いすぎると魔力欠乏症という状態に陥る。非常に危険な状態で、魔力欠乏症になっても魔力を使おうとすれば最悪死ぬ」
「そ、それをやれと??」
「そういう事だ。人は魔力欠乏症から回復した時が1番魔力が上がる」
なんてことを言い出すんだこの人は…。
要するに死にかけて回復してまた死にかけろってことだ。もし、俺が死なないラインが分からず死んでしまったらどうするつもりなのか。
「そんな心配そうな顔をしなくていいよ。僕が見てるんだ。どうにでもなる」
だ、大丈夫だろうか。
「さ、そうと決まったら、今日も魔力を枯渇させようか!」
「っ! は、はい」
俺は魔力を水に変換させるために指先へと送り、水を出した。そして、魔力が尽きるまで永遠と出し続けた。
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