第6話 世界の頂点
「さて、じゃあ君に色々教えていこう」
「はい、お願いします。先生」
「ふふ、いい響きだね」
俺たちは机に向かい合って座っている。とにかく強くするためにこと世界のことを教えると言うのだ。確かに俺はこの世界についてよく分かっていない。
「じゃあまず初めだ。君は勇者とはなんだと思う?」
「確か、魔王を倒す力を持った奇跡の人だったかと」
男から出された問に、先程の皇女の言葉を思い出し、そのままに答えた。
「その通りだ。じゃあ、魔王を倒す力ってなんだと思う?」
「魔法とか、剣とか?」
これまでのゲームやラノベで魔王を倒してきたのはそういった類のものだ。
「うん。正解だ。ただ、正しくは勇者の魔法や剣だ」
「…?」
「さっき言ったね。勇者とは魔王を倒すことの出来る力を持った人だと。裏を返せば勇者以外にあの魔王を倒すことは出来ないんだ」
「どういう…」
「勇者でないものがどれだけ攻撃をし、魔王を傷つけてもあいつの核は絶対に傷つけることはできないんだ」
「だから、勇者が必要」
「そう。そして勇者はこの世界の人間ではなることが出来ない」
「なぜ…?」
「それは分からない。女神の選択か、魔王の仕業か。とにかく勇者は別の世界から呼び寄せるしかない」
「それで俺たちが…」
「そういう事だ」
なるほど。あの皇女が俺たちを召喚した理由。それはあの時言われた通りだったのか。
「次の話に移ってもいいかな?」
「あ、はい」
「じゃあ次はステータスについてだ。ステータスについてどこまで把握しているのかな?」
「個人の能力値を表すものだとしか」
「なるほどね。間違っていないよ。それぞれの数値と項目が何を表すかは?」
「かかれている通りとしか…」
ステータスに記載があるのは、攻撃力、俊敏性、魔力、知力、器用さ、技能、魔法、称号だ。
日本語で書かれているからその通りの意味でしか受け取っていない。攻撃力は攻撃力。俊敏性はすばやさって感じに。
「じゃあ説明しよう。まずは攻撃力だね。これは物理攻撃を行う時に重要となる数値だ。高ければ高いほど大きな威力となる」
「はい」
「うん、俊敏性はその名の通りだね。どれだけ素早く動けるかだ。そして魔力も同じく、どれだけの魔力を持っているかだね」
「大体は言葉通りですね…」
「そうだね、ただ、知力と器用さは違うよ。知力は魔法の威力を決定する数値だ。そして、器用さは魔法や技能の習得スピードを表している」
「器用さが高ければ習得が早いと?」
「その通りだね。だからほかの数値が低くても器用さが大きければ油断はできないね。それだけたくさんのものを習得している可能性が高い」
「確かに…」
「そして魔法とスキルはそのままだ。スキルは主に物理攻撃に用いられるパターンやそもそもの特性と言った場合がある」
「魔法はどうやって覚えるんですか?」
「その話は後でしよう。最後に称号だね。これは2つ名みたいなものだ。何かを成す者、成す可能性が高いものについてる」
「なるほど。では俺は天に仇なすということですか?」
「さぁね、それは君次第だ。なにも称号は絶対では無い。称号通りのことをする者もいればしない者もいる」
「なるほど。ならば安心です」
俺は天に仇なす可能性があると言うだけで、称号に何か力がある訳ではないらしい。皇女も可能性があるという所を忌避したのだろう。
「さて、次にステータスの上限についてだね」
「上限?」
「ああ、この世界にはあまりにも強いものが、それこそ神を殺せるものが現れないように、数値の上限が設定されているんだ」
「人によってですか?」
「女神によって。上限は大体2000とされている。どれだけレベルを上げても数値は2000以上いかない」
2000。俺の数値からは程遠い数値だ。だが2000が上限だということは強者は同じような強さになると言うことだ。それはつまり、俺がアイツらを見返すためには2000まであげる必要があるということ。
「だが、これには例外が存在するんだ」
「例外…」
「稀に2000の壁を突破して数値を上げる者がいる」
「それはどうやって…?」
「たゆまぬ努力と類まれなる才能。1部の天才達が必死に死ぬ気で努力してたどり着く領域だよ。そしてその領域に達した者を人は『到達者』と読んでいる」
なるほど。やはりどこの世界にも規格外の者はいるらしい。しかしだ。そんな人達がポンポン出てきては敵わない。居ても世界に数人程度だろう。
「その『到達者』は何人くらいいるのですか」
「全部で5人だよ。東の大陸にあるティーチ帝国に1人。さっき君がいた帝国の隣。アズベルト皇国に1人。そして、世界のどこかに2人」
なにやら聞いた事のない国の名前や大陸が出てきた。
後からこの世界の地理についても学ぶ必要がありそうだ。
あれ? 全部で5人なのに、今4人しか言ってなくないか?
「あの、あと一人は…」
俺がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに彼は立ち上がって白樹の杖を鳴らした。
「あと一人は君の目の前にいる私! 魔法使い、ツルギ・ロドリゲスだ!」
皇女への態度。皇女の態度。そして、どこからともなく現れ消える魔法。
何となく、すごい人だとは察していたが、まさか世界に5人しかいない『到達者』と言われる人達の1人だったとは…。
胸が熱くなる。俺はそんなすごい人にこれからの1年間鍛えてもらうことができるのだ。
「ふふん。驚いているようだね!」
「はい、とても。教えて貰える事に感謝しなきゃですね」
「うん、いい心がけだね」
先生は満足したように頷き、ゴソゴソと椅子に座り直した。
まだ話を続けるつもりなのだろう。杖を置いて、腕をまくり、まるで総司令官のように肘をついた。
「じゃあ…」
その後も男は俺にこの世界のことを教え続けた。
途中で少しおしりが痛くなってきたが、教えるのが楽しいとばかり情報をバンバン出してくる男にそんなことは言えなかった。
「…という具合だね」
「ありがとうございました」
「いいよ。情報は大事だからね。知ってるのと知らないのとでは大違いだ」
約小1時間。男は喋り続けた。内容をまとめると大体こんな感じだろう。
この世界は4つの大陸で成り立っている。中央。東。南。北。その中で魔王がいるのが北の大陸だそうだ。極寒の地に居を構え、世界を蹂躙せんと機を伺っているのだ。
それぞれの大陸には国が複数存在し、互いに小競り合いをしているところも多い。昨今では、魔王を倒す勇者を呼び出すことに世界中が躍起になっているらしい。勇者を排出し、魔王をその勇者が倒せば世界での発言力が上がると考えてのことだ。
そして、今いるのは南の大陸の僻地。南の大陸は気候が穏やかであり、暮らしやすいためここにしたそうだ。
「じゃあ、今日はここまでにしておこう。本格的な指導を明日から初めて行くからね。結構きついと思うけど頑張ってね」
先生はそう言って話を終える。
明日から指導が始まる。この世界の頂点に立つ人が直々に教えてくれるのだ。戦闘が起こるこの世界においてこれ以上頼もしいことは無かった。
俺は、この時甘く考えていた。
先生は確かに言ったのだ。この1年間で全てを教え込むと。この世界の頂点に立つ者の全てを1年間で教え込まれる。その過酷さは俺が考えていた以上のものだった。
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