第4話 乱入者
突如、どこからともなく現れた、杖を携えた青髪の男。俺には何が起こったのか全く分からなかった。
そしてそれは級友達も同じようで先程まで笑っていたのに、今は口を開けてこちらを見ていた。
「あ、あなた…」
そんな中、皇女は男に向かって怨嗟の念を込めた視線を送る。どうやら皇女は、この人物が何者なのか知っているようだ。
「やぁ、エリザベス。久しぶりだね?」
「私の名を気安く呼ばないでください!」
皇女が激昂する。持っていた杖をガツンっと床に刺すように叩きつけ、怒りを露わにしていた。
「そうつれないことを言うなよ。たまたま面白いものを見つけたから寄っただけじゃないか」
「… 良くもぬけぬけと!」
「お〜怖い怖い」
目の前の男は皇女相手にふざけた態度をとっている。皇女も何故かこの男を殺すように兵士に命令をしない。それどころかまるで自分は何も出来ないかのように、拳を握りしめ、立っていた。
「なんの用でここに」
「さっきも言ったじゃないか。面白いものを見つけたって」
「面白いもの?」
皇女は不快感を顔に表しながらも男の話に耳を傾けていた。
「そうさ。それをちょっと貰いに来たんだ」
男は肩をすくめる。
どういう意味だろう。それと、俺の命を助けたことになんの関わりがあるのか。たまたま助けただけだろうか?
「それはなんだと聞いているんです」
「おお、そんなに睨まないで欲しいな。怖いからね」
「いいからさっさと言いなさい」
だいぶイラついているのだろう。皇女の言葉遣いがだいぶ乱暴になっている
下手なことを言ってまた怒らせる前にさっさと言った方がいいんじゃないだろうか?
そう思って、男を見ると、男も俺の方を見ていた。
そして、頭の上にポンっと手を乗せる。
「この子だよ」
「何…?」
え?
この男の言っていることが分からなかった。俺はこの人とあったこともなければ話したことも無い。それなのに、俺を貰いに来た?どういうことだろうか?
「だめです。その者はここで殺しておく必要があります」
酷く冷たい声を出しながら皇女は言った。その目は冷淡で冷酷で、俺の命など数ある中のひとつでしかないと思ってる。
「なんでさ。殺そうとしてたんだからいいだろ? もう君たちには必要がないって事なんだから」
「…そいつを持って行ってどうするつもりでしょうか」
皇女は何を考えているのか分からないこの男に怪訝な視線を送る。目的が見えないのだろう。
「決まっているじゃないか。私が育てるんだよ」
「なっ!?」
男が放ったその一言で王の間は騒然となる。王の前にならぶ文官達も、そして武官達もざわざわとし始める。
まるで衝撃的なことかのように、皇女の前にいるのも忘れて一斉に話し始めた。
「この子は勇者なんだろ? なら私が指導してもいいだろう」
「…これまで一切弟子を取らなかったあなたがどういう風の吹き回しですか」
「ただの気まぐれさ。そろそろ誰かを育ててもいいかなと思ってね」
男は杖をクルクルと遊ばせながらそういった。
その顔に一切の不安や焦りはなく、にこやかに笑っている。いや、自信満々にといった方が適切だろう。
皇女は男を睨みつけたまま、級友の方を指さした。
「ならば、その者ではなく、そこにいる藤原と言うものを弟子としなさい。その方がよっぽどいいでしょう」
皇女に名指しで呼ばれた藤原は一歩前に出る。
「ふうーん」
男は視線を皇女から藤原に移し、まじまじと何かを見定めるように観察した。
そして、片手を肩の辺りでひらひらと振った。
「だめだね。彼は面白みがない」
「……」
藤原は驚愕の表情で男を見ていた。
これまで誰かに拒否された事や認められなかったことなどないのだろう。よっぽど響いているようで、俺に冷たい目を向けている。
「で、いいかな?彼を貰っても」
「…いいでしょう。但し、貴方の手を離れたら彼は殺します」
つまり、この男性の弟子という立場が無くなれば、俺は問答無用で殺される。俺を殺すための人物が差し向けられるということだ。
「ははっ」
だと言うのに、この男は楽しそうに笑った。
「僕が育てるんだ。そんな弱くはならないさ」
「……」
皇女は男から目を背け、級友達の方へ目線を向けた。
単純にこの男から目を逸らしたのだ。
「さぁ、お許しも出たことだし、さっさとこの場からさろうか。え〜と」
「竹中京太郎です」
「なら、うん、キョウでいいね。さぁ捕まって、キョウ」
俺の名前は長すぎたのだろうか。まるであの映画のように俺の名前が短縮されてしまう。贅沢な名だねってか。
俺はそんなことを考えながら、言われた通りに彼の服の裾を掴んだ。しかし、どうやってここから去るのだろうか?
「じゃあね、エリザベス。またいつか来るよ」
「一生来ないでいただきたいですね」
「つれないなぁ。ま、この子は貰っていくからね」
「勝手にしてください」
「よし! じゃバイバイ!」
若い男はそう言って杖を2回ほど、円を描くように振った。
その瞬間、俺の視界は目まぐるしい渦の中へと飲み込まれていった。
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