第3話 殺害命令が出ました
「では、見せてください」
「はい。ステータス」
文官は俺の事など見ることも無く、ただそういった。ペンを走らせるために、液晶のようなものの上に手を置いている。
「…こちらに向けてください」
「…はい」
俺はギリギリまで考えたがやっぱり何も思いつかなかった。仕方なく、ステータスを開き、画面をスライドさせて文官に見せた。
「なっ!!!!」
文官が大きな声を上げる。
その声は静かな王の間には十分なほど響き渡り、こだましていた。
「どうしました! また規格外ですか!」
皇女が嬉しそうな、期待を我慢できないような目でこちらを見ている。
やめて欲しい。この後どうなるかは予測できる。
「そこの者! ステータスを私にも見せなさい!」
興奮したまま皇女は口を開く。
周りの級友からは「なんであいつが」とか、「下等なくせに」とか聞こえてくる。こいつらは俺のことを同じ人間だとは思っていない。いや、正しく表現するなら自分たちより生活レベルが低い奴らのことを人間だとは思っていない。
だからこそ、今も俺のことを蔑むような目で見ている。
だが、安心してほしい。お前たちが思っているようなことにはならない。むしろ、願っていることの方が実現するだろう。
「ステータス、公開」
藤原の時と同じように俺のステータスが空中てでかでかと表示される。
【竹中京太郎(男) Lv1】
攻撃力:20
俊敏性:35
魔力:52
知力:83
器用さ:60
技能:無能
魔法:無
称号:天に仇なす者
俺のステータスを見て、皇女は藤原のときと同じように驚いていた。藤原の時とは逆の意味で。
「ぷふっ!」
「ぶふっ!」
級友の中の誰かが、吹き出した。
それを皮切りにけらけらと周りの生徒たちも笑い始めた。彼らからすればこれ程面白いことはないだろう。普段からバカにしてきた奴が、数値上でも低かった。彼らは俺に嘲笑を向けた。
「…ふむ。これはあまりにも酷いですね…」
皇女ですらもそう言ってかぶりを振っている。
あの様子からするに、これまでの勇者でここまでの残念な数値を出したものは居ないのだろう。
「皇女殿下…」
先程の老人が何かを皇女に耳打ちしている。皇女の顔が酷く歪み、嫌悪感を顕にし始めたことからいいことでは無いのだろう。
「…貴様」
ほら見たことか。俺への呼び方が明らかに変わっている。目も睨みつけるように俺を見ていた。
「はい。皇女殿下」
「その称号はなんですか?」
やっぱりそこをつかれるか。
正直、数値が低いどけなら何とかなった。別に今でと同じでバカにされ、蔑まれるだけだ。
でも称号がいけなかった。さっき、藤原の見せたステータスに書かれていた『天に立つ者』という称号と俺の『天に仇なす者』という文言はまるで正反対だ。そして、さらには言葉が良くない。仇なすとか悪い意味でしかない。
藤原と俺。聖剣解放とかいういかにもな技能を持っている藤原と無能という明らかにダメな技能を持っている俺。いや、無能ということは持っていないのだろう。
「分かりません。私もこの世界に来たばかりですので」
「その称号は、そこの藤原と相反するものですよ?」
「…そのように見受けられます」
「…出ていってもらえますか?」
やっぱりこうなるか。
俺は分かっていたかのように踵を返して、扉へと向かう。
京介が俺に不安げな目を向けてくるが多くの人が居て、皇女からの命令である以上、京介も手が出せない。藤原が、言っていたように皇女は上位者だ。逆らえばどうなるかなんて分かりきっている。
…藤原のステータスが公開されて、俺がステータスを隠すことが出来なかった時点でこうなることは何となく想像していた。皇女からすれば、現時点で破格のステータスを誇る藤原と相反する称号を持つ俺。天秤にかけた時に俺を切るほうにしたのだろう。だれだって不安要素は無くしたいものだ。
そうだ。無くしたい…。まさか。さっきのは。
「何をやっているのです?」
皇女から俺を嘲笑うような声が飛んでくる。
…やっぱり、そういうことか。
「貴様にはこの世界から出ていってもらうと言ったのですよ」
そういった瞬間、兵士たちが剣を抜き、俺を取り囲んだ。
銀色の甲冑を来た彼らは皇女の言うことに従い、俺を殺すべく集まってきた。
「油断しないでくださいね。そいつは仮にも勇者として召喚されています。確実に殺してください」
「……」
兵士たちは何も言わず、何も答えない。ただ、任務を遂行する人形のように俺に剣を向けている。
この状況を級友達はどう見ているだろう。ふと、そう思った俺は級友達の方へと目を向けた。そして、後悔したのだ。
もしかしたら、誰か止めようとするかもしれない。そんな淡い期待は見事に打ち砕かれた。やつらは笑っていやがったのだ。俺が死ぬところを楽しみにしているように。普通なら人が死ぬところなんて高校生ごときが耐えれるはずないのに…。ああ、そうか。あいつらはやっぱり、俺のことは人間だと思っていなかったんだな。
諦めを胸に抱く。どうせこいつらは助けない。俺が死ぬのを笑って見ているのだろう。
ふと、京介が目につく。あいつだけは唇を噛み、血を流しながら怒っていた。今にも飛び出しそうな雰囲気だ。
なので、俺は首を振っておく。助けて欲しい。でもそれであいつが死ぬのは、死ぬ以上に嫌だった。あいつは高校に入ってから唯一俺のことを人として、対等な人間として扱ってくれた。そんなやつをこんなところでみすみす殺したくは無い。
俺の考えを汲み取ってくれたのか、あいつは俺から目を逸らして俯いた。
俺は銀の甲冑を着る兵士たちを見る。どうせ、こいつらは俺よりもレベルも、能力も上だろう。間違いなく殺される。
でも、俺もただで死んでやるつもりは無い。せめて、誰か一人でも道ずれにしてやる。
「殺しなさい」
皇女の合図を元に兵士たちが一斉に斬りかかってくる。
「っく!」
何とか、剣を避け、足元をくぐり抜けるように輪の外に飛び出た。
「まじかよ!」
飛び出たはいいものの、その先にも兵士がいた。
やっぱりそう上手くはいかないか…。そりゃ、兵士だもんな。言わば人殺しのプロだ。平和な世界でのんのんと生きてきた俺なんかがどうこうできる相手じゃなかったようだ。
窓から差し込む光を反射させながら、銀色の輝きを放つ剣が俺に向かって振り下ろされる。
やっぱりここは異世界なんだなぁ。王族の命令でこんなにも簡単に俺の命は消えていく。願わくば来世ではこんな事にはなりませんように……。そう思って目を閉じた。
「ちょっとっ、待ってもらおうか!」
知らない声が聞こえてくる。
そしてそれと同時にいつまで経っても自分を切り裂くことの無い剣を不思議に思う。
ゆっくりと目を開けると、そこには青色の髪を腰の辺りまで伸ばし、大きら白樹の杖を携えた若い男が立っていた。その男は、何をしている訳でもない。俺と兵士の傍に立っているだけだ。だがしかし、兵士の剣は空間の何かにぶつかっているように止まっていた。
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