第2話 せーので叫ぼうステータス!!



「大変ご無礼をはたらき申し訳ございません」


 王女と皇女を間違えたことに藤原は頭を垂れて謝っていた。その様子を他の生徒達は黙って見守っている。


「いいえ。良いのです。勇者殿。むしろこのような礼を重んじるお方が今回呼び出されたことに私達一同も安心をしております」


 今回。ということはこれまでに1回以上は勇者を呼び出していることになる。皇女のあの安心した顔を見るに、以前来た勇者は随分と無礼だったようだ。


「お褒めに預かり、恐悦至極でございます。つきましては皇女殿下。何点かご質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 さすがは政治家の息子。一切言い淀むことなく、スラスラと口から言葉を出している。


「ええ、構いません。私に質問することを許しましょう」

「ありがたき幸せ。では数点、私よりご質問させていただきます」


 藤原はそう言って俺たちの分からないところを端的にまとめて聞いていく。この頭の回転の速さと順応力は藤原家の血がそうさせていると言っても過言じゃないだろう。もちろん彼自身の努力もあるのだろうが。


「なるほど。委細、承知いたしました。ありがとうござます」


 質問を終えた藤原は再度、頭を下げた。


 藤原が皇女から聞き出した内容それは俺たちにとって重要なものばかりだった。

 まず、なぜ俺たちはここにいるのか。それは召喚魔術で皇女が召喚したから。

 勇者とはなんなのか。それはこの世界に蔓延る悪辣なる魔王を倒す奇跡の人物。

 なぜ、このメンバー全員を召喚したのか。全員が勇者だから。

 勇者はなぜ複数人いるのか。複数人の勇者が協力しなければ倒せないほどに魔王は強大となっているから。

 これまでの勇者はどこへ行ったのか。強さを手に入れて、驕り高ぶり、油断して死んだ。



 こんなところだろうか。にしても、勇者は死んだ。ねぇ。

 俺はこれでもライトノベルやWeb小説をよく読む方だ。その中にある異世界転移ものは勇者とされるものには絶大な力があり、中々死なないと言うのが定石だ。

 しかし、この世界に来た勇者は死んだという。強大な力を与えられても尚、魔王には勝てなかったと言うことだ。


「では、勇者たちよ。一斉にステータス。そう叫びなさい。あなた達の現在の能力や技能、魔法が現れるはずです。それがあなた達の強さとなる」


 皇女殿下はそう言って仰々しく天を仰いだ。


「みんな、聞いていたな! 叫ぶぞ。せーのっ!」


 

 ステータスッ!!



 そう唱えると、どこからともなく、半透明の黒い液晶が浮かび上がる。そこには、レベル。そして魔力、力、俊敏性など様々な項目が数値として表されていた。そして、技能欄と魔法欄が設けられている。


「あなたたちの世界ではこういったものは現れないと聞いています。しかし、この世界ではそこに書いてあることが全て。数値が低ければ高い者には勝てず、逆に低い者には負けることがほとんどない。その数値を上げ、魔王を倒すのです」


 皇女はそう言って再び手を平げて天を仰ぐように振舞った。

 先程からしているあれは何なのだろうか。なにか意味があっての事なのか、それともただのパフォーマンスなのか。


「なぁ、京太郎。お前、どんなだった?」


 皇女の動きに関して観察していると、隣からでかい図体がぬっと現れた。


「京介。そういうお前はどうなんだ?」

「ほれ」

「おお、そんなことも出来るのか。スマホみたいだな」


 京介はステータス画面をスっと手で触り、横に指を動かした。すると、ステータス画面はくるっと周り、俺の方へと映し出されたのだ。


 なになに?


 【森本京介 (男) Lv17】

攻撃力:252

 俊敏性:173

 魔力:20

 知力:185

 器用さ:65

 技能:高速移動 身躱し 攻撃力アップ

 魔法:なし

 

 


 ほう。へぇ。俺のとは全然違うみたいだ。


「なぁ、京太郎のも見せてくれよ〜」

「んあ、もちろんいいぞ度肝を抜かすなよ?」


 俺はさっき京介がやったようにステータスを回転させようとした。


 その時、一段と騒がしくなる。

 声の方向に目を向けると、藤原のステータスを見て、みんながはしゃいでいたのだ。


「すごい! 藤原くん!」

「それほどじゃないよ。以前の勇者の方が高いかもしれない」

「でもでも! 私なんていちばん高い数値が140なのに、藤原くんいちばん低い数値が570じゃん!」

「さすがだ! さすが藤原だな!」



 いちばん低い数値が570か。さっきの京介の数値や、成績優秀で文武両道な竹下雪乃が言った140と言う数値から考えれば破格だ。


「ほ、本当ですか!それは!」


 竹下の言葉を聞いていたのだろう。皇女が焦ったように叫んだ。


「真実でございます。皇女殿下」

「み、見せてください!」


 皇女殿下は王座の近くからそう叫んだ。

 見せるっつったってどうやって見せるんだろう。さすがに寄ってこいって意味ではないだろう。


「…ステータス、公開って言えば見えるようになります!」「す、ステータス、公開!」


 藤原は皇女の剣幕に少しだけ怯んだ。あれだけの美少女かつ権力者に叫ばれれば誰だって萎縮するだろう。答えることが出来ているだけでもすごい。


「なっ…! こ、これは…!」



 皇女殿下は藤原のステータスを見て空いた口が塞がらないようだ。皇女に有るまじき顔で大きく映し出された藤原のステータスを見ていた。



 【藤原尊(男) Lv1】

 攻撃力:872

 俊敏性:689

 魔力:765

 知力:902

 器用さ:570

技能:限界突破 聖剣解放 魔族特攻

 魔法:光魔法

称号:天に立つもの



 そこには驚愕の数値が表されていた。Lvという恐らく数が増えるにつれて全ての数値が上がっていくであろそれが1。それでいながら全ての数値が異常なほど高い。そして、称号。


 皇女の驚きようからしても、以前の勇者もここまでではなかったと言うことだ。


「い、今すぐ、彼らのステータスを測りなさい!」


 皇女は近くにいた文官らしき老人にそういった。老人は慌てたように頭を下げると、周りの文官に指示を出し始めた。


 (まずいな…)


 俺は頭の中でどうするべきかを考える。

 先程見た俺のステータス。そして今見た藤原のステータス。その2つを見比べて俺は確信していた。俺のステータスは雑魚そのものだ。さらにそれだけじゃない。俺にもある称号欄に書かれていることがやばかった。


「では、勇者諸君! 順番にこちらにいる文官たちにステータスを見せてくれ給え!」


 老人の方を見ると、そこには文官が2人1組体制で、5箇所にいた。あの文官たちは何やら液晶のようなものを出して、光るペンのようなものを持っている。あれが、魔法だろうか。


「さ、みんな。行こう」


 藤原につられるようにして級友達は動き出す。


「行こうぜ、京太郎。…京太郎?」


 みんなに続こうとする京介は俺が動かないので怪訝そうな顔をする。


 (まずいな。どうしたものか)


 焦る。この焦りは誰かに分かるだろうか。いや、あのステータスを見ている俺しか分からないだろう。


「先、行っててくれ。後から行くから」

「? おう」


 京介の背中を見ながら頭を必死に働かせる。

 なにか方法はないか。なにか、俺のステータスを隠すものは…。


「ほら、竹中くん。君だけだよ」



 藤原に背中を押される。

 その声は今までのような明るい声ではなく、低く冷たい声。冷徹な天上人の声だった。


「あ、ああ」


 藤原の、いや、周りの級友達の蔑むような目。

 その目に包まれながら俺は文官の元へと向かった。

 そして、俺の頭には何一つ、いい案は浮かんでいなかった。




 


 

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