無能な俺は異世界転移したらこの世界の頂点に立つ人に誘拐されました。
@anaguramu
序章
第1話 異世界転移
私立紀見ケ丘高校。
都内にある名門進学校だ。親は社長、芸能人、資産家などこの国の裕福層の子供たちが多く在籍している。むしろ、そうじゃない生徒なんて居ないのが普通だった。
これまでは。
「うえ〜い」
身長は180cm後半くらいだろうか、大柄な単発の生徒が小柄な生徒にガシッとのしかかった。首に腕を回し、クイクイと腕を動かしている様は、傍から見ればいじめそのものだろう。
「なんだ。京介」
「なんだよ、つれないな〜」
2人にとってそれは決していじめの現場などでは無かった。
この学校で唯一の一般家庭出身。竹中京太郎。それが俺だ。
そしてこいつは何故か俺に優しくしてくれる森本京介。父親はプロボクサーだ。そして母親は裁判官。その両極端な両親から生まれたこいつは運動神経とその頭脳を見事に引き継いだ。
「つれないも何も、お前の大きさでのしかかられたら俺は潰れてしまうぞ」
「ひっで〜。じゃれてるだけなのに」
「大型犬が小型犬にじゃれると襲っているようにしか見えないのと一緒だよ」
「なっ。まさかの犬扱い」
「例えだ例え」
わざとらしく仰け反って驚いたように見せる京介。
こいつだけがこの学校で俺を対等として扱ってくれる。その事に感謝しながらもやっぱりうるさいこいつを俺は邪険に扱うのだった。
※※※
「というわけで、源義経は実は中国に逃れたのではないかと言う説もある」
昼休み後の歴史の授業。
まるで強力な催眠術でもかけられているような猛烈な眠気。それを感じでいるのは俺だけではなく、周りを見るとほとんどの生徒が撃沈していた。どれだけ進学校でもこういうことはある。
「さらに、そのあと中国で義経は」
歴史の教師、谷やんは黒板の方を見て話を展開していく。まるでオタクが自分の好きな分野に対して話すような感じで、ノリノリだ。
だから俺たちの大半が寝ていることに気づいていない。
(みんな寝てんじゃん。俺も寝ようかな…)
その時間は余程眠かったのか。俺以外の全員が寝ていた。
まぁ、午前中に水泳があったし別に不思議ではないか。
俺はそう思いながら念の為、寝ているように思われないように悩んでいるふうに肘をつき、おでこに手のひらを当てて、静かに目を閉じた。
※※※
「…い!…ろよ!」
何か声が聞こえる。
「んあ…?」
体を大きく揺さぶられた俺は目を覚ました。
…たしか俺は歴史の授業で寝て…。
俺の体を譲っている人物を見ると、それは京介だった。京介の席は俺の席から遠いはずだ。なんでこいつが起こしに来ているんだろう…。
「なんだ。京介。もしかして歴史の授業終わった??」
まぁ恐らくそうだろう。じゃないとさすがに谷やんも授業中に歩いている生徒がいたら怒るはずだ。
「何言ってんだ! しっかりしろ! 京太郎!」
ベチンっと俺はビンタされる。
筋肉がしっかりと付いている彼のビンタは思った以上に重く、痛かった。
「っつぅ…。…てめ! なんで急に…」
ビンタに顔を顰めながら、京介を糾弾しようとした時だった。周りの光景が目に入ってくる。
おかしい。俺は教室にいたはずだ。歴史の授業を受けていて眠ってしまったはずだ。
なのに、俺の目の前に広がっている光景は教室のそれとはあまりにもかけ離れすぎていた。
目の前にはざわざわと話している級友たち。いや、あちらからしたら級友でもなんでもないのだろうが。
そして、眼前に広がる、西洋風の壁や天井。全てが石で出来おり、それが滑らかに加工されていた。
そして、床には絨毯のようなもの。その絨毯が続く先には王座のようなものがあり、そこには誰かが座っていた。
「よくぞこられた。勇者たちよ」
玉座の横にいる、息を飲むほどの美少女がそう言って俺たちに手を広げた。
勇者。ゲームや小説でよく聞く単語だ。最近じゃあ、悪辣な勇者がほとんどだが。
級友達は、その美少女の言葉を聞いて、騒がしくなる。「ラノベで読んだ」だの、「選ばれたんだ」などと言っている。
「みんな! 一旦落ち着こう!」
そんな中、1人の生徒が声を上げた。
藤原尊だ。彼の言葉にはみんなが従った。それもそのはず。あいつの家系は代々政治家を排出しており、過去には総理大臣もいたという。名門中の名門だ。
彼自身もその大きすぎる家格に負けず、テストでは毎回1位。部活では剣道で全国優勝など華々しい経歴を持っている。
「な、なぁ藤原。落ち着くったって、こんなの初めてだしよ…」
彼の近くにいた生徒がごもっともな意見を上げた。
「いいかい、一条君。よく分からない時こそ、慌てず、落ち着いて状況を分析するんだ」
「お、おう」
「そして、さらに言うと俺たちは直ぐにあの女性へ返事をしなくてはいけない」
「なんで…?」
「彼女は俺たちよりも上なんだ。この場所での階級がね。だからほかの人たちよりも数段高いところから言葉を投げているし、玉座の一段下にいる。つまり、今、1番下にいる僕たちは彼女が死ねと言えば死ななくてはならない」
「え、そんな…」
藤原の言葉に一条と呼ばれた生徒はたじろぐ。
確かに藤原の言う通りだ。あの女性は恐らく玉座に座る人物の家族か、血縁者で間違いないだろう。もっと言えばこの国の王女の可能性が高い。
だからこそ、待たせてはいけない。まだ一般市民でしかない俺たちが王族を待たせるようなことはあってはいけないのだ。
「その出で立ち、美しきご尊顔。あなた様は王女殿下かとお見受けします」
藤原は一歩前に出て、膝をつき、そういった。
この行動力の速さと、それをこの場でやってのける胆力はやはり、藤原家の血を継いでいるのだ。
「聡い方なのですね。少し違いますが、その通りです。私がこの国、ラヘンザ帝国の第1皇女、エリザベス・ディ・ラヘンザです」
その美少女は持っていた杖を床に叩きつけ、音を出したあとそういった。
歴史は好きな方だが、ラヘンザ帝国などという国は聞いたことがない。そして先程の勇者という言葉。
もう、誰もが気づいただろう。
俺たちはどうやら異世界にやってきてしまったようだ。
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