第2話 夜弁

ベンベべーン

どこからか琵琶の音が鳴り……


ワオーン


日暮里、谷中の……

丑三つ時の墓地前に……

一体の武者霊が佇む……

ザッザッザッと、その闇夜に何者かの足音が鳴る……

その何物は、何やら独り言を呟きながら歩く女性……

「ブツブツ……うむ、鰻を馳走になったお返しじゃ、そちの恨み、義を持って私が晴らして見せよう、鰻だけに……ぶっぷっぷ……ブツブツ」


霊はその女性の前に立ちはだかり。

「うらめしや~」


「……」

その女性は、顔色一つ変えずにザッザッザッと足を鳴らし、その霊の真正面から重なりすり抜け、そのまま歩いて行く……


「……ち、ちょっと! ひょっとして無視でござるか!」


霊は、その女性の後を追う。


その女性は、墓地敷地内の観音堂前に腰掛けると、手に持つ袋をガサガサやり始め……

「鰻弁当~」と、やや抜けた様な声で呟きながら鰻の弁当を取り出し、無縁となっていると思われる墓の前に置かれた苔まみれの古い欠け湯呑みを見つめながら、黙々とその弁当を食べ始める……

それを見て幽霊は思った……


『今日は丑の日とは言え、丑三つ時に墓地で鰻弁当とは……それも二つ……イカれてる……鬼の我、そもそもの人選を間違えたわ」


丑の日の

 丑三つ時の

   谷中にて

     鰻喰らい見

       幽鬼消えせり……


そう歌うと幽霊は、腹を切る仕草をし、薄らっと消えていった……


ベンー…… 完

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不思議で何か怖い・ホラー・ショート集 仙 岳美 @ooyama1252takemi

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