第三巻「終幕」
私はとても臆病で傲慢な女の子だ。
ハルバール王国と戦争すると聞いてから私の心はざわついている。
もしこれがアトリシア公国だったらと考えれば考えるほどに。
隼人さんからの幸せと比例するように不安が募っていく。
どうしようもないことなのに考えてしまう。
どれだけ愛情を注がれても。
どれだけ周りから受け入れられても。
私が他国の姫君に変わりはない。
それは結婚したとしても同じこと。
私の中のアトリシア公国の血が絶えることはないのだから。
武力は前より格段に上がっている。
隼人さんの隣りにいることにも自信が出てきた。
たまに意地悪もされますが……それも愛しく思ってしまう。
そういう私の気持ちも筒抜けみたいで……本当にズルい人。
けど、そういう隼人さんも大好きなのでしかたないんです。
ただ戦争のことを聞いてから隼人さんが何を考えているのかわからない時があります。
食事をしている時も少し上の空で。
私が夕食を作っている間もたまに窓の外を見て遠くを見ている。
私と同じでもしお互いの国が戦争になったら……と考えているのでしょうか?
もしそうなら隼人さんの答えを聞いてみたい。
この胸のざわつきを落ち着かせるためではなく。
彼の心に触れたいから。
◆
深海のように暗い世界。
溺れるようにその場に座り込んで背中に感じる重みだけが存在を証明している。
息苦しいはずなのに矛盾するかのように心地よさを感じて。
相手がどこか遠くへ過ぎ去るのを待つばかりだった。
そんな俺の目の前で小さな白い光が灯る。
弱々しく光っているのに強い存在感を放つ。
その光に触れれば出口へと導いてくれるとわかっているが身体に巻き付いた見えない鎖のせいで躊躇ってしまう。
西園寺藍の言う通り俺は誰よりも強くなれる才能を持っている。
それこそ国一つを相手取れる程に常軌を逸した力。
溺れることがなかったのは自分のためでなく、生涯を賭して一人の少女を守ろうとした思いがあったから。
ただ今はその相手も変わり命を賭けるのではなく、共に笑い合って傍にいて欲しいから。
今の俺は自分のために使う力に戸惑っている。
このまま才能に身を任せて突き進み、唯一無二の力を得るか。
それともようやく出会えた特別な人と同じ歩幅で歩いて才能を枯らせるか。
どちらにしろ誰かを言い訳にしそうで選べない。
――じゃあ君は……何のために刀を振るうの?
少しはその問いに答えが出るかと思ったが……どうやらまだまだのようだ。
その問いに答えが出来た時。
鎖を引き千切って自分の足で立ち上がり、この場所を去るだろう。
三年間と短いがそれでもその間はお前のワガママを散々聞いてきたんだ。
そんなに長居はしないから。
だからそれまでは――ここに居させてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます