第九話「激闘の果てに」

 言うなれば荒れ狂う激流。

 息をつく暇もない波状攻撃を息をするように繰り出すバケモノ。

 それが西園寺藍という陰陽師。

「先程までの威勢はどうしましたか?」

「抜かせ!」

 通常陰陽師は霊力を用いて祝詞を唱えることで不思議な現象を起こす。

 だが、この女は必要な工程を最小限に威力を最大限に発揮するから天才なのだ。

 それでも弱点のない人間なんていない。

「そこ!」

 たまに生まれる攻撃と攻撃の間の隙を見逃さずに接近するが。


 ――ガキンー!


 神の加護を受けし竜が割って入ってくる。

「ったく、邪魔な竜だな!」

 いくら愛刀を持っていてもこの竜を斬るのは容易ではない。

「珍しくオーソドックスな戦いじゃねえか。そんなに俺が怖いか?」

「その台詞は私に一太刀浴びせてからじゃないと負け犬の遠吠えですよ?」

「確かにそうだ……な!」

 ところどころで修羅の道行を使っているが去年とは違い勝ちが見えてこない。

 俺に負けそうになって相当鍛錬を積みやがったな。

 負けず嫌いが面倒くせえ!

「ただお前も決め手にかけるだろ?」

「まぁ、確かに。では、こういうのはどうでしょうか?」

 指に白い光が集まると五芒星を描く。

 出現したのは十数匹の狼の群れ。

「行け」

 西園寺藍の号令で一匹が吠えると統率の取れた動きで一斉に向かってくる。

 こいつらは……斬れる!

 物量はあれど対処可能なら問題はない。

 あとは西園寺藍から視線を外さずに狼達を仕留めていく。

 半数近く削ったところで異変に気付いた。

「――――――」

 聞き取れないが祝詞を唱えていることはわかる。

 更にドーム場の障壁を展開。

 ただ周囲の気配は変わらな――王竜はどこだ?

「上か!」

 はるか上空まで感知能力を拡大すると雲の奥に気配を発見。

 凄まじい霊力の渦は発射寸前。

 急いで残りの狼達を斬り刻み居合の構えを取る。

 てか、この女は会場を壊す気か?

 バカなの? 死ぬの?

「彼の者に裁きを――――蒼天の霹靂!」

 突如放たれた咆哮とともに雲を貫通してこちらに向かってくる。

 流星のように光輝き落ちてくる様は美しいが地面に衝突した際の被害を考えると頭が痛い。

「さぁ、どうします?」

 見下すのではなく試すような視線。

 期待と悪意が混ざり合うその表情に舌打ちした。

 避ければこいつは大目玉。

 これから先俺に偉そうな口が聞けないだろう。

 考えるだけで痛快だが……それは逃げだ。

 口では言わないが一生侮られるのは我慢ならない。

「心眼――修羅の道行」

 どんな攻撃にも弱点はある。

 少ない時間で観察し急所を探す。

 バカでかい霊力の塊だ触れれば簡単に弾け飛ぶのは想像に容易いが――――構わず突っ込んだ。

 速さは重さ。

 光と同等の速度で引き抜いた刀は光弾と同等の威力を発揮して押し合いに持ち込む。

 ただ高低差と重力のせいで振り抜けない。

 エネルギー体に接近しているせいで余波で身体に何年ぶりかの小さな切り傷のせいで血が流れている。

 護衛役の時はしなかった行動に笑えてきた。

 相手の追撃を考える?

 被害を最小限にするために軌道を変える?

 俺の思考は一つ。


 ――負けてたまるか!


 四肢に最大限の力を込めて徐々に押し込めて隙間を作る。

 その隙間を利用して刀を再加速。

 見事に振り抜いて天を割ったが衝撃を殺すことを考えなかったので今度は俺が流星となって武舞台の中心に流れ落ちた。

「さすがにあの技を防がれては決定打はありません。私の負けです。見事でした」

 西園寺藍は無様に床に寝そべる俺に手を差し伸べる。

 これじゃあ、どちらが敗者なのかわからないな。

「俺が避けたらどうするつもりだったんだよ」

「あなたは避けないだろうと思いました」

「そう言い切るほどの根拠がどこにあるんだか」

「私と一緒で負けず嫌いでしょう?」

「……あんた程じゃない」

「そういうことにしておきましょう」

「機嫌が良いのが不気味なんだが?」

「まぁ、こちらは最大火力で撃てましたから気分はいいですよ」

「ご丁寧に祝詞まで唱えやがって」

「簡単に防がれては屈辱的ですから」

「ボロボロな相手の姿にご満悦とは……さてはドSだろ」

「さて、どうでしょうか?」

 一瞬躊躇って手を引こうとすると強引に手を取られて起こされる。

 馬鹿力かと思ったが霊力を使ったようだ。

「傷を治して差し上げます」

「かすり傷だから気にするな」

「そうですか。なら、もう一戦しましょうか」

 この人あれだけの大技を放ってまだ余力があるのか。

「冗談です。続きは戦争の後にしましょう」

「俺としてはそっちも冗談にしてほしいんだが?」

「私は西園寺家であなたは風見家。勝ち逃げは許しません」

「最後の最後で家のことを持ち出すのはどうかと思うぞ」

「それが私ですから」

 初めて見る屈託のない笑み。

 やはり俺たちはこうすることでしかわかり合えないようだ。


 その後は応接室に戻って作戦会議。

 昨日までが嘘のようにトントン拍子で物事が決まっていく。

 模擬戦の後から終始上機嫌だったのが嫌悪よりかはいい。

 この人と組んで実力以外の不安要素がないのは不気味だが。

 

 ――悪くない。


 そう思えるぐらいには良好な関係が築けそうで安心した。

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