3
「リファール、あなたが『焔を使わない理由』が分かったわ。ヴァンパイアを倒す方法は、心臓に杭を打ち込むか、炎で焼き払うか、どちらかだと相場が決まっているのに……」
クロエは漂う粒子を
「リファール。闘いましょう。貴方と私で力を合わせれば、倒せない相手ではないわ」
クロエはリファールを励ますように言う。
「何を言ってる……。俺はお前を生け贄に差し出そうとしたんだぞ」
「貴方だって、『犠牲者』なのでしょう。ここで何が行われていたのか、分からない私でもないわ。目の前に自分の臣下でもない、他国の術士がいれば、迷わず差し出すのも、一国の王太子としてなら当たり前な話……」
リファールは心底驚いていた。
「お前、変わってるな」
「貴方ほどじゃないわ」
クロエは澄ました顔をして言う。
「……私たち、どこか似てるとは思わない?私には、あなたの気持ちが理解できる。私にもね、理性を保てなくなりそうな瞬間があるわ。一思いに、あなたの息の根を止めてしまいたいと願うような瞬間が……。水術士の本能ってやつかしら。私は貴方みたいに狂ってはいないから、そんなことは絶対にしないけどね」
クロエはこのような状況にも関わらず、くすりと笑った。
クロエの中にもまた、自らも持て余す『化け物』がいる。
リファールに狂気を感じながらも、彼に恐怖を感じなかったのはそのためだ。
くすくすくす……。
霧の中から笑い声が響く。
「随分悠長なことを言うじゃない……?あなたには絶対に私を倒すことは出来ないというのに……。抵抗するだけ無駄よ。大人しくしていれば、命だけは助けてあげる。貴女みたいな美味しそうな女の子、殺してしまうのはあまりにも惜しいもの……くす、貴女も、私への供物になりなさい!」
「
クロエは鋭く言う。
少女は霧になれるが、霧のままでは攻撃はできない。攻撃するために、形を成した瞬間に、切り刻めばいいだけだ。
「リファールお願い。私が彼女を惹き付けている間に、火焔で全てを焼き付くすのよ!」
「クロエ……前の気持ちは有り難いが、俺にはもうほとんど呪力が残っていない。こいつの能力は、『呪力の
リファールは口惜しげに言った。
「火焔なら、吐けてあと一回だ」
「一回きりのチャンスをものにしないといけないと言うこと……?」
クロエもさすがに焦る。
ヴァンパイアと言うから血液か、
くす……
「だから抵抗するだけ無駄だと言っているのに」
粒子が凝縮し、少女の形を成す。
クロエはその瞬間を捉えて再び刃を振るった。
ヴァンパイアは軽々とそれを
「間抜け。刃の振るい方がなってないわ。霧になるまでもない。そんなんじゃ一生私に傷など付けられなくてよ」
彼女の言う通りだった。
仲間の存在が恋しかった。
クロエには、サラのように敵と格闘する能力は無かった。
そしてユーシスのように、
エドガーのように炎で焼き付くすことも、チネのようにリファールの盾となる力も。
「おい!お前ら、いい加減にしろ……っ!今度はリファールとクロエかよ!昨日の今日だぞ?また僕の見てない間に、甲板でよろしくやってたってのか……!?」
「あら、私もエドガーも、『よろしく』はやってなかったわよ、楽しくお話してただけだもん」
「お前は結局、どさくさに紛れて俺に抱き付いてきただろうが……」
「私のリファール様をよくも
「みんな……」
クロエは、不覚にも涙が出そうだった。
大好きな、うちのパーティーのメンバー達だった。
「敵は漆黒の
ユーシスが何やら楽しそうに言う。
黄金の髪をたなびかせるヴァンパイアの美少女は、不敵に笑いながら言った。
「至高の純白……美味しそうだけど、今日はもう、大好きな王太子様の呪力をもらってお腹いっぱいだから、そろそろ帰るわね。また来てあげるから、その時は楽しく遊びましょう、みなさん。……それでは、ごきげんよう」
忌々しいことに、メリーウェザーは粒子となって姿を消した。
「また、倒せなかった……」
リファールは口惜しげに言って溜め息をついた。
「リファール、次は迷わず私たちを呼んで」
クロエはリファールの目を覗き込んで言った。
自分達はあなたの敵ではないということを、伝えるために。
「分かったよ」
リファールは耐えきれないようにクロエから目を離すと、叱られた子どものように言った。
「クロエ、悪かった……。もう、二度とあんなことはしない」
妙にしおらしいことを口にするリファールに、クロエは笑う。
「無理だと思うけどね、あなた、
状況の分からない残り四人は、困惑して二人の会話を見守っている。
「あの……詳しくはお話出来ないのですが、リファール様は、あの恐ろしいヴァンパイアに幼い頃から付け狙われているんです」
チネが当たり障りのない部分だけ説明する。
「アルバートの王子様はモテモテね。物凄い可愛い女の子だったじゃない、さっきの魔物。なんか、喋ってるし。ほんとの女の子かと思ったわ。喋れる魔物なんて初めて見た」
サラはサラらしく、呑気なことを言う。
「ヴァンパイアだのグールだの、
エドガーは、なぜそうしなかったのか、と言う顔だった。
「聖術で昇天させてあげるのが確実だよ。相手は
ユーシスは冷静な分析を加え、
「塵状態の敵にも聖術は有効なものかしら?」
クロエは不安げに言う。
「あのさ、ここで術談義はじめるの、やめよ。真夜中だよ、王太子様を休ませてあげなきゃ」
そして、サラが的確な突っ込みを入れ、全員撤収する運びとなった。
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