第十四章:色気も大事なのかな……?それとも、可愛い系……?
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「あーーーどうしよう、クロエ。いろいろ見過ぎて分かんなくなってきた……っ!こっちかな、こっちかな……?大人っぽすぎる?でも、色気も大事なのかな……?それとも、可愛い系……?」
「どっちも、似合ってると思うわ」
クロエは、軽く一時間は繰り返されている会話に、溜め息をつきながら答えた。
「ユーシスは、どう思う?」
「もう、僕は帰るね……。これって、どんな状況?何が悲しくて、サラが『エドガーを落とすための勝負服』を選ぶ手伝いをさせられなきゃいけないのさ……」
「ま、待ってよ……!あんたを一番アテにしてるんだから!可愛い女の子と散々付き合ってきたんでしょ?私みたいなスレンダーな女子に似合う服はどれ……?」
ランサー帝都の旧市街の裏通り。年頃の女の子達が集まる西大陸の流行の発信地で、帝国学院の術士の卵三人が、仲良く買い物をしていた。
サラは長年コツコツ貯めてきた給金をはたいて、アルバートに着ていく服を選ぼうとしているところだった。
「はあ……」
ユーシスは盛大に溜め息をついた。
「これと、これと、これだね。あくまで『僕が個人的に』サラに着てもらいたい服だけどね……」
それだけ言い残して、げっそりした様子のユーシスは店を出て行った。
ユーシスが示したのはサラが手にしていた物とは全くテイストの違う服だった。
「完璧だわ」
ユーシスのお勧めを一つ一つ試着して行くサラを見ながら、クロエはユーシスのセンスの良さに舌を巻いていた。
一つは無地の、薄緑色のセットアップ。上はキャミソールで、下はサラサラとした素材のパンツ。
一つは総花柄のサマードレス。水色と、淡いオレンジのツートンだ。
それから、濃紺色のシンプルなノースリーブのワンピース。首もとがハイネックになっていて、これだけちょっと大人っぽい。
いずれも、夏のリゾートにぴったり、かつ、スレンダーで手足の長いサラの体型にぴったりのチョイスだった。
「なによユーシスのやつ。はじめから言ってくれりゃ、いいのにね」
サラはいそいそとユーシスのお勧め三着を購入しながら、ぶつぶつ文句を言っていた。
クロエはそんなサラを苦笑いしながら見ている。
ユーシスが個人的にサラに着てもらいたい服、全着お買い上げしてもらえたわよ、良かったわね、ユーシス。
クロエは微笑みながら、心の中でユーシスに告げた。
「クロエはいいの?」
「ええ、私は有るもので充分よ」
「えーー、そんなこと言わないでさ、一着だけ!わたしクロエにぴったりの服見つけたんだよねー!これこれ、これとね、この帽子、絶対似合うと思わない?」
クロエはサラにお勧めされて、思わず微笑んでいた。
たまには女の子同士で楽しくお買い物と言うのも悪くないものだ。
休日と言えば、日がな一日部屋に籠って勉強してるぐらいしかしてこなかったクロエにとって、サラやユーシスとわいわい過ごす休日は、新鮮な体験だった。
クロエはもはや、親の言い付けなど全て無視だった。この二人のお陰で、七年生の後期、首席に返り咲いたのだから。
リファールが留学して来て以来、三年ぶりのことだ。
クロエには自己肯定感と言う名の『自信』が必要、と言い切ったユーシスの言葉は正しかったということを、見事に証明したわけだ。
「楽しみだね、アルバート」
サラは洋品店の隣の小さなスタンドで冷たい飲み物を二人分購入してくれながら、言った。
クロエは頷く。
クロエの脳裏にはアルバートの王太子が『今ここで死んでくれ』と囁いたリファールの声が蘇っていたのだが、そんなことを、この浮かれている友人にわざわざ言う必要もない。
旅先で何かあったとしても、このメンバーならきっと、大丈夫だ。
「ユーシスとの約束……ちゃんと、覚えてる?エドガー・エレンブルグに想いを伝えるって」
クロエが言うと、サラは慌てふためいた。
「や、やだ……!クロエまでそんなこと言うの……っ?ユーシスに聞いたの!?」
クロエは頷く。
まったく、帝国最強の風術士の卵で、屠殺鳥に傷だらけにされて、血だらけになっても笑っていたくせに、好きな男の話になったら急に乙女になっちゃうんだから……。可愛い人。
「いつまでも、ユーシスを生殺しにしてたらダメよ」
「な、生殺しって……。使い方、合ってる……?」
サラは飲み物を噴き出しそうになりながら言う。
「これ以上にぴったりな表現はないわよ……。貴女はいつも無自覚なのね、やっぱり……」
クロエは溜め息をついた。
可哀想なユーシス。
この残酷な長期旅行によく付き合ってくれる気になってくれたものだわ。
自分がユーシスの立場であれば、絶対に行かない。
でもきっと……彼は心配性なのね。
アルバートでサラやクロエに『何か』あったら、と、色々な意味で心配してくれているに違いない。
「ユーシスは、あんなにいい人なのに……。世の中って残酷よね。どうして、みんなが、思った人と結ばれないのかしら……」
クロエは思わずぼやいていた。
「そう、言わないでよ……」
サラも飲み物を口に含みながら空を仰いでいた。
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