「おいリファール、今日の試合、大丈夫なのか?」


 昼休み、午後イチでクロエ・カイルとの大一番があると言うのに、涼しい顔で昼食を食べているリファールに、エドガーは声を掛けた。


「なに、自分の心配より俺の心配か?」

 リファールはサラダのドライトマトをフォークで玩(もてあそ)びながら言った。


「そりゃそうだろう。学年首席のリファール対次席のクロエの試合は、学年中の注目の対戦カードだぞ。誰もオレみたいな、捻りもない力押しのアグロより、お前らの試合を見てる方が勉強になるだろう」

 

 ふふっ……。エドガーの言葉を聞いて、リファールは爽やかに笑う。

「自分で言うかな、そう言うこと」


「しかも今回は、なぜかお前のチームにユーシスがいるじゃないか。あんなに目に余るほどイチャイチャしてたクロエとユーシスが、いつの間にか別れたと思ったら、今度は学年イチの大一番で敵味方に分かれて闘う……?教師の嫌がらせ以外の何物でもないぞ、これは……」

 

 ホントに酷い対戦カードだ。

 これ以上酷い組み合わせもないだろう。


 クロエ対リファールってだけで注目されると言うのに、そこに、つい先日クロエと別れたユーシス・クローディア……?

 並の神経の持ち主だったら、熱出して自主休講するとこだ。


「ユーシスは、マトモにやれんのかね。今でもたぶん、クロエのことが好きだぞアイツは……」


 端から見ているエドガーにとっては、かなり驚異的なことだったが、ユーシスとクロエ、そしてサラ・オレインの陽術最強チームの三人は、ドロドロの修羅場を繰り広げてきたはずなのに、それを潜り抜けた先にアツい絆を築いたかのように、今まで以上に、四六時中一緒にいる。

 なぜそんなことが起こり得るのか、さっぱり理解ができない。

 そして、どうやら普段から、三人で膝を付き合わせて打倒リファールを目指し作戦を練っているらしいのだから。


「心配無用だよ、エドガー。ちょっとだけ、ユーシス・クローディアには脅(おど)しを掛けといたからね。……お前にも見せたかったなあ、あの、いつも済ました顔してる性悪の天使が、泡食って焦ってる姿……」


 ククク……。リファールは愉しそうに思い出し笑いをしている。

 やべぇな、コイツ。本気になってる……。


 エドガーも、薄々気が付いてはいた。


 爽やかな王子様を演じているリファールは、とんでもない『演技派』だ。

 リファールの『本当の姿』がどんな姿なのか、二年以上一緒にいるエドガーも、いまだに測りかねている。

 普段の爽やかな好青年の姿が、本当の姿なのか。闘志溢れる狂気的な姿が、本当の姿なのか。はたまた、全く違う何者かをその後ろに隠しているのか。


 いずれにしても、絶対に敵に回したくない人間であることだけは確かだ。焔術の腕前もさることながら、戦略を立てる能も尋常じゃない。

 エドガーもコイツにだけは、一生勝てる気がしないのだった。




「クロエ、今日はなんか、良い顔してる」


 午後イチの授業――リファール達との試合前、昼休みの時間を使って最後の作戦会議をしようと集まった席で、クロエはサラにそんな言葉を掛けられた。


「そ、そう……?」

 クロエは思わず頬に手を当てて聞き返す。


「うん、なんか、吹っ切れたって感じ……」


「貴女達のおかげよ。本当に」

 クロエは、まるで別人になったみたいだ。

 あんなに毎日毎日、死の瀬戸際に立たされているみたいな、暗い顔をしていたと言うのに。

 好きな人と出会って恋をして、それから、ユーシスに、手放しの優しさを注いでもらって……誰かに見付けてもらって、認めてもらえるというだけで、人はこんなにも変わるものなのだ。

 今のクロエなら無敵だろう。まったく、負ける気がしない。


「オレも光栄ですよ。この大一番に、プレイヤーとして参加させてもらえるとはね」

 ユーシスの代わりに、なぜだかクロエチームに入れられてしまった聖術士のフレイ・アサルは長い銀髪を、純白の元結できっちりと束ねながら言った。

 ふぁさりとポニーテールが出来上がる。


「めちゃくちゃ脇役感出てるけど、オレもいちおう、学年四位だってこと、忘れないでねー」


「わたしもよ、フレイ。脇役同士、せいぜい主役を引き立てて、頑張りましょうっ!」

 サラも腕捲うでまくりして言った。


 三人は、食堂のテーブルの上に右手を重ね合わせながら気合いを入れた。


「絶対勝つ……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る