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「どうしたサラ……?なんかいつも以上にキレッキレじゃないか……?」
クラスメートのアロイが焦った声で言う。
「なんか文句ある……?」
サラはイライラしながら、風術の刃でアロイを思い切り切りつけた。
アロイは防ぎきれずにたたらを踏む。
実技の授業だった。
風術の授業は、詠唱するスペルのある術の練習か、地術士との攻防戦か、後は剣道のように、風術士同士の打ち合いが主だった。
今日は、実力が拮抗している者同士の互角稽古をしていた。
ひたすら打って打って打ち合い、相手の動きを見切り、隙を伺っては打つ。
季節は初夏だった。じわりと額に汗が滲む。
アロイが体勢を崩し、反撃を打ち損なったところで、サラは彼の懐に入り込んだ。
その胸元に刃を突きつけて、試合終了だ。
「相変わらずクソ強いなー」
アロイは悔しげに言った。
そして、飲み物を手にしてその場に座り込む。
「ユーシスのことか……?」
アロイは遠慮なく切り込んでくる。
サラはむすっとしたまま答えなかった。
図星だった。
今まさに、サラは目の端でユーシスを追っていた。
ユーシスはクロエと仲睦まじく、新たな術の習得に励んでいる。
最近、ずっとそうだ。二人は四六時中一緒にいる。
初めは大騒ぎしていたクラスメート達も、あまりに二人が堂々としているので、もはや突っ込む気にもならなくなったのか、完全に放置されていた。
「ほんと、びっくりだよなーあの氷姫が、まさかユーシス・クローディアと付き合うなんて……天地がひっくり返っても起こりそうにないことだ」
「ねえねえ、サラも知らないの?ユーシスがどうやってクロエを落としたのか」
興味津々と言った様子で、ニーナも話に入ってきた。
「知らないわよ、そんなこと……」
サラはため息をつく。
クロエが本命に振られて、気晴らしのために付き合ってるなんて、口が裂けても言えない。
「二人とも、何考えてるんだか。授業中だって言うのにイチャイチャイチャイチャ……目に余るのよ……!」
ひたすらもやもやしてくる……。
ユーシスにはそれほど興味がないと言うような、恋する乙女とは程遠い顔をしているクロエに対して、ユーシスは本当に優しく献身的に尽くしている。
今までのユーシスとは百八十度違う姿だ。
ユーシスが、女の子にあそこまで献身的で、お姫様を扱うみたいに優しく優しく接している姿なんて、子どもの頃からずっと一緒のサラだって、見たことがなかった。
「あちゃーこりや、重症だね……」
ニーナが額に手を当てて天を仰ぐ。
「サラ、ユーシスが他の女の子とどんだけイチャイチャしてても、鼻で笑って、呆れて見てるだけだったのにさ、相手がクロエだとダメなわけ?」
ううっ……。そんなこと、言われても。
「ユーシスも、今度こそ、きっと、ほんとに、本気なんだよ……」
サラは暗い口調で言った。
天使のように優しい顔をしたユーシスと、張り詰めて、今にも切れてしまいそうなクロエ……。物語の主人公とヒロインみたいに、最高にお似合いだ。
自分が、どす黒く染まっていきそうな心地だった。
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