6
まったく……。変な約束をしてしまったものだ。
その夜、あまりに色々なことが有りすぎて、サラは寮の自室のベッドの中で、悶々としていた。
ユーシスの真剣な表情が蘇る。
ほとんど、七年越しの片想いなのだ。サラの、エドガー・エレンブルグへの想いは。
学院内での立ち回りを習得した最近でこそ、翠緑の中では上位を狙えるようになったけど、クロエやエドガーみたいな、術士家系の生まれでもなく、片田舎から出てきたばかりのサラは、はじめは完全に落ちこぼれ学生だった。
見た目だって、帝都で育った都会の女の子達に紛れたら、どれだけ田舎臭かったことか、想像するだけで恥ずかしくなる。
その間、サラはエドガーを、王子様に憧れる脇役みたいに、ずっとずっと目で追っていた。
豪胆で快活、好戦的なサラのエドガー・エレンブルグ様は、今も昔も陰術クラスのリーダーだ。焔術の腕前もさることながら、座学のテストもそつなくこなす。
王子様っていうよりは、牙の生えた地獄犬(ケルベロス)みたいな見た目だって、皆は言うかもしれないけど、誰が何と言おうと、私にとって、エドガーは「王子様」なんだ。
そんな、王子様への憧れは、サラが七年間、大切に大切にしてきた宝物だ。
彼がどんな女の子のことを好きになろうが、誰と付き合ってようが、そんなこと、お構い無しだった。
別に、学年中の人気者の王子様が自分に振り向いてくれることなんて、期待してたわけでもないし。
ただただ遠くから見てるだけで、それで良かったんだもん。
こんな、軽はずみな、賭け事みたいなきっかけで、どうにかしていいような話ではないのだ。
「エド……」
サラには一つ、夢があった。
それは、彼のことを、恋人みたいに『エド』って、愛称で呼ぶことだ。
「エド……」
私の、王子様。
「エド、だいすき」
サラは、ベッドの上で背中を丸めて、柔らかいコンフォーターにギュッと顔を埋めて呟いた。
言えないよ、こんなこと……。
上手くいきっこない。
「エドガー、私、エドガーのこと、ずっと、ずっと、好きだったの……学院に入学した時から、七年間、ずっと、好きだったの……憧れてたの……」
無理無理むりむり!……絶対無理だ。
気持ち悪すぎる。
こんな自分、普通に気持ち悪いよ……。
スマートでカッコいいサラ・オレイン像を一生懸命築き上げてきたと言うのに。
到底手に入るはずもない、みんなの憧れの王子様に告白して、見事玉砕する姿なんか、恥ずかしくて誰にも見せたくない。
痛すぎる、そんなの。
「馬鹿じゃん……。ユーシスの意地悪……。無理だよ……絶対に……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます