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「それで。あなたは、それでいいわけ……?」
その夜サラは、寮の食堂で夕食を食べ終わったぐらいのタイミングでユーシスを捕まえ、数時間前に明かされた事実について、くわしく問いただしてみることにした。
広い食堂のホールには、まだまばらに生徒達が残って、飲み物を飲んだり、話し込んだりしている。
「あまり、良くはないわな……」
ユーシスも、苦笑いしていた。
案の定、クロエはどうやら、彼女がはじめて好きになった相手と何か、決定的な出来事があって、傷付いて、その腹いせにユーシスと付き合うことにしたらしいと言うのだ。
「まあ、据え膳食わぬはなんとやらって言うじゃない?僕は、泣いているクロエが可哀想だなって思っただけだよ。思わず同情しただけ。誰かは知らないけど、ほんとに好きだった相手には、フラれちゃったらしい」
ユーシスは、頬杖を突きながら詰まらなそうに言った。相変わらず聖画の中の天使みたいな、中性的で綺麗な顔だ。
中身は天使とは似ても似つかないが。
「『据え膳食わぬは』ですって……!?相変わらず最低ね……っ!やっぱりあんたなんか、大っ嫌いだわ……っ!」
サラは怒り心頭で立ち上がった。
「ち、ちょっと、そんなに怒らないでよ、食ってない食ってない、さすがにまだ食ってない。僕は取りあえず付き合おうって言っただけだから。表現悪かったよね、ごめんごめん……」
「どっちでも、同じことよ!このバカ……っ!」
「サラってさ、……やっぱりお子ちゃまだよね……。サラももうちょい、恋愛した方がいいよ」
ユーシスは呆れた顔で言う。
「ば、バカにしないでよ……っ!もう、少なくとも、あんたみたいなクズよりは数倍マシよ……っ!」
サラはユーシスの頭をグーでポカポカ殴りながら言った。
「クロエはいったい、何を考えてるのかしら……」
サラは、たとえ第八学年になって、学院を卒業する時まで掛かったとしても、ユーシスにクロエは落とせないだろうと、タカを括っていた。
ユーシスが努力の末、クロエの心を絆して動かすか、もしくはこっぴどく振られるか、どちらかだろうと思っていたのに、こんな結末は、予想だにしていなかった。
そしてそれは、サラが思い付いたどんな結末よりも、後味の悪い結末だった。
サラは盛大に溜め息をついた。
あのクロエが、好きな男の子にフラれて、腹いせユーシスと、付き合う……?
頭が痛くなってくる。
胸の中のもやもやが止まらない。
「ユーシス、わたし……」
サラが言い掛けたことを遮り、ユーシスはサラの手をぎゅっと握って言った。
「サラ、約束は約束だからね……。僕がクロエと付き合うことが出来たら、エドガーに告白するんだったよね?」
ユーシスの顔はこの上なく真剣そのものだった。
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