ところが、そのたった数週間後、事態は思わぬ展開を迎える。


「ち、ち、ち、ちょっと、待って……。お願いだから……、クロエ、あなた、本気なの?」


 サラは、あまりに驚き過ぎて、頭を抱えていた。


「なに、なんか、文句でもあるの?僕らが付き合うことになったら……」

 ユーシスは、クロエの隣で憮然としている。


 ある日の放課後だった。

 それは本当に、突然のことだった。

 クロエは、ご丁寧にもサラを捕まえて、『ユーシスと付き合うことにした』などと、真面目な顔をして報告してくれたのだった。


「いやだって!展開早すぎるでしょ!そりゃたしかに最近のユーシスは心入れ換えて頑張る素振りは見せてたけどさ……クロエ、あなたはそもそも、学院に入って恋愛にうつつを抜かすなんて、破廉恥な……って、恋する少年少女達をバカにしてたんじゃなかったの……?首席をとらないと、お母様に殺されるんでしょう……?」


 サラは必死に言い募った。


 やめて、お願いだから……私の中の崇高なクロエ像を打ち砕かないでよ……!


「悔しいけど、座学ではユーシスに敵わないんですもの。勉強は一人でやるよりも、彼と一緒の方が、効率がいいわ」


「はあ……っ?なにそれ、取り引きでも持ち掛けたってわけ、ユーシス……?」


「まさか……。僕は何もしてないし。そもそも付き合ってくれないかって、言い出したのはクロエの方からだし……」


 サラは開いた口が塞がらなかった。

 『付き合ってくれないか』ですって……?

 いったい、どういう風の吹き回しなんだ。クロエがユーシスを捕まえてそんなことを言うなんて。

 想像もできない。


 憮然とした顔をしているユーシスの隣にいるクロエは、どこまでも淡々としている。

 そもそも、付き合うと言ってる男女の雰囲気じゃない。

 クロエの顔には、いつかの恋する乙女のような表情は、まったく垣間見えない。


「クロエ……?あなたなんか変よ……何かあったんじゃないの……?」


 サラがどんなに問いただしても、やはりクロエは何でもないような顔をしたまま、何一つ説明してくれなかった。

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