第九章:お願い。神様。彼に、もう一度、会わせて。
1
短い春休みが終わり、四月から後期の授業が始まった。
陽術の一軍クラスでは、人間関係にちょっとした変化が起こっていた。
放蕩者のユーシス・クローディアが、浮き名を流していた数々の女子達ときっぱり関係を絶ち、たった一人の女の子を落とすために、行動を開始したのだ。
ユーシスのことをクズだなんだと言っていた女子達も、彼の変貌ぶりを見て、なんだかんだがっかりしていた。
まったく、現金なもんだ。
みんな結局、顔が良くて適当に遊んでくれるユーシスのこと、便利な存在だとでも思ってたってことなのかな?
サラはあまりのことに、少しユーシスに同情した。
ユーシスは真面目に勉強にも取り組むようになった。
元々地頭は良くて、聖術の才能にも秀でているんだから、彼が本気を出せば、クロエ・カイルやリファール・エレンブルグと比べても遜色がないほどの優秀さを示し始めることとなったのだった。
十代の少年少女と言うものは、ある一つの切っ掛けで、奈落に転落することもあれば、逆に大きく飛躍することもある年代である――動機はやや不純と言えたかもしれないが、ユーシス・クローディアに取って、この短い間に起こった一連の出来事は、彼の中のスイッチを切り替えるのに充分なものだった。
「ほんっと、どうしちゃったの?アイツ。前期までとエラい違いじゃない。天啓でも受けたのかな……」
この間、ユーシスがオパールとアリサに二股掛けたと言って、眉間に皺を寄せていた、陽術のクラスメートのニーナが、心底不思議そうな顔をしていた。
「さあね……何かあったのかな……」
サラにとっては心当たりがありありだったが、とてもじゃないけど、クラスメートにそんな話をする気にはなれなかった。
「なんかでもさ、カッコ良くなったよね、明らかに……私、クズには興味持てなかったけど、ちょっと、今のユーシスだったら、狙っちゃおうかな……」
「や、止めときな……!人間、根本的なところは、変わるもんじゃないし……っ」
サラは慌てて言った。
狙っちゃおうかな、じゃないわよ。
ユーシスは、クロエを狙ってるんだから……。
あんなに真剣になってるアイツを、いったい誰が止められるだろう。
はあ……。サラは何故か無駄に心をもやもやさせられている自分に気付いて、溜め息をついた。
何よ、ユーシスのやつ。悔しいけど、カッコいいじゃない……。
鈍感なサラはこの十七年間、ユーシスの気持ちには全く気が付いていなかった。
そして、その気持ち――実は彼に長年好意を向けられていたという事実に気付いた今、今さらになって、ユーシスの男の子としての魅力にも気が付いてしまったサラだった。
ユーシスの馬鹿。そんなことならもっと早く教えてよ。
遅すぎるんだよ、いまさら……。
って、馬鹿は私か……。
一途にエドガーのことを思ってたはずなのに、今さら、心揺るがされてるなんて……。
こんな気持ちには、しっかりと蓋をして固く封印しとかなきゃ。ユーシスに、申し訳がなさすぎるよ……。
斯くなる上は、ユーシスの恋が成就するように、祈ってあげなきゃ。
クロエと、付き合うことが出来ますように……。
そう思いながらも、なかなか望み薄かもな……と思うサラだった。
クロエにはどうやら、ユーシス以外に想い人がいるようじゃないか……。
お堅いおうちに生まれて、最強の水術士になるために自分をとことん追い込んでいたあのクロエの頬を染めて、慌てふためかすような、とんでもない伏兵が……。
いったい、本当に、どこの誰なのだろう?
クロエを恋する乙女に変えてしまったお相手と言うのは……?
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