「わーい、サラが帰ってきたー!」

「サラーお土産はー?」

「シシリアのクッキーは……?」

「オレ、ジャムがいい!」


 いつも通り、地元のプライマリースクールに通っている妹と弟達にたかられる。

 サラは家族が集まるキッチンに置かれた食卓の上に、トランクに詰められるだけ詰めてきたお菓子を並べてやった。

 オレイン家の次女のアリスは十四歳。彼女だけは、両親がやってる会社の事務所を手伝っているのでここにはいないけど、小学生のシャールとニアは、春休みだから家でゴロゴロしているのだ。


「ねえユーシスはー?ユーシスと遊びたいー」


「あいつね……。申し訳ないけど、しばらくうちには来てくれないかも……」


 サラは三人分のお茶を淹れながら言った。

 シャールもニアも、面倒臭がって妹弟の対応はいつもおざなりなサラよりも、優しいお兄さんぶってきちんと相手してくれるユーシスに、幼い頃からよく懐いていた。

 彼女達にとって、ユーシスはあくまで年上のイケメンのお兄さんだ。


「アリスかニアが、ユーシスと結婚したらいいじゃんね」

 サラはクッキーの箱を開けながら言った。


「するするー!ニア、ユーシスとなら結婚してもいいー!」 


 か、軽いなあ……。

 結婚してもいい、じゃないよ。

 ニアは今年八歳だから、九歳差か……。有りだな。

 って、いやいやいやいや、やっぱりダメだ。あんなどうしようもないクズ野郎に可愛い妹達は渡せない。

 見た目に騙されてはいけない。


「ユーシスはサラと結婚するんじゃなかったのか?」

 十一歳のシャールは不思議そうな顔で呟く。


「ちっちゃい頃の話でしょ。よくおぼえてたわね、そんなこと……」


 十一歳の弟にそんなことを言われて、幼い頃の記憶が、一気にどんどん蘇ってきた。


 そう言えば私、ユーシスに「大きくなったら結婚する」って何回も言ったことがある気がしてきた……。

 そんなこと、こっちはとっくに忘れてたけど。


 うわーん……。なんか、じわじわくるよ……。

 だってそんなこと、思わないよ。

 まさかあの、『スマートさ』を生きがいにしているようなユーシスが、七年以上前に私の言ったことを覚えてて、今でも本気で私のことを好きだなんて。

 そんなこと、ある……?


 いまだに、ついさっきあったことが、本当のこととは信じられない。

 サラの身体の上に載っていた、ユーシスの体重を思い出す。ユーシスが男の子だったことに、はじめて気付かされた思いだった。

 ユーシスが公共の面前で、女の子のみたいにぽろぽろ泣いていた姿が脳裏に甦って、呼吸が止まりそうになる。

 あんなの、全然『ユーシス』じゃない。

 あいつは、いつも飄々としてて、人前で本心を曝け出すようなタイプじゃなかった。

 何を考えてるのか全く分かんなくて、いつもチャラチャラ可愛い女の子のことを追い掛けてて、本気で誰かのことを好きになったことなんかないんじゃないの?って顔をしてたはずなのに……。


 七年間も、片想いしてたってこと?

 この私に?

 

「大丈夫?ねえちゃん、頭でも打った……?」

 シャールは本気で姉のことを心配している。


「打った打った。思いっきり打った。しばらく立ち直れそうにないよ、こりゃ……」

 

 

 

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