第七章:あんまりふざけたことばっかり言ってると、ぶっ殺すぞ……っ

「エドガー、感謝しろよ」


 ユーシスは不機嫌な顔で医務室のベッドに横になるエドガーに言った。


「……ったく、サラと言いお前と言い、アタッカーは後先考えないバカばっかりだから、ほとほと世話が焼けるよ……!」

 いきなりケンカ越しのユーシスに、エドガーは面食らっている。


「すまん……お前にそこまで言われるほど、考えなしの行動を取った覚えはないんだが……」


「僕たちが来るまで待ってりゃ良かったんだよ!カッコ付けて先走りやがって……っ」

 八つ当たりだということは分かっている。

 アタッカーならあの状況下に置かれれば、誰だってまずボスを攻撃するだろう。

 まさか、相手がコピー能力持ちだなんて、誰が思うことか。


「言っとくけど、お前の命を救ったのはサラ・オレインなんだからな……っ!アイツは、風術にコピーが有効か無効か、まだ判明していない状況で、ワームの身体に刃を突き立てたんだ。相当な勇気がいることだったと思うぞ。僕はあの瞬間、サラが死んだかと、本気で思ったんだからな……!」


 エドガーはユーシスのあまりの剣幕に、戸惑った顔をしていた。

 くそ……っ。

 サラがコイツのために身を呈して闘ったなんて、絶対に教えたくないことだったが、何も知らないコイツがのうのうとしているのもどうしても許しがたくて、ユーシスは腹を立てながらも真実を伝えることにしたのだった。


「おいおい……なんでお前がそんなに怒ってるんだよ……」


「別に……っ。怒ってなんかないよ、僕は!」


 エドガーは困った顔をしている。

 せいぜい困ってろ、頭の悪いヤツめ。


 どころが、エドガーはそんなユーシスの顔を見ながら真面目な顔をして言うのだった。


「ユーシス、お前も、いつまでも遊んでないで、いい加減、気付いてやれよ。かわいそうだろ、サラが……」


 かわいそうだろ、サラが……?


「それはいったい、どう言う意味……?」


 ユーシスはあまりのことに、うっかりそんな質問を、能天気なエドガーに返していた。


「サラはずっと、待ってるんだろ?お前がサラの元に戻ってくるのを」


「はあ……っ?」


 余りの愚かさに、ユーシスは頭に血が昇るどころか、逆に冴えたように冷静になってくるのを感じた。


「誰が、誰の元に戻ってくるって……?まさかお前、あのサラが、僕なんかを待ってると、本気で、そう思ってるのか……?」


 どこまで鈍いんだ、コイツは。

 僕が、いったい、どんな思いで、毎日毎日……


 サラが好きなのは、どっからどう見てもお前以外にいないだろうが……っ!

 ユーシスは心の中で全力で怒鳴ったが、そんなことはコイツにだけは、口が裂けても教えてやるもんか!と思った。


「寝言は寝て言えっ!エドガー・エレンブルグ……!あんまりふざけたことばっかり言ってると、ぶっ殺すぞ……っ」


 ユーシスは、それだけ言って、荒々しく医務室を後にした。


 ユーシスがどれだけクズと罵られようとも、サラと真逆のタイプの女子達と浮き名を流しているのは、一重に『サラ・オレインを諦めるため』だった。

 きっかけは、自分が他の女子に夢中になっている素振りでも見せたら、サラが少しは慌ててくれるんじゃないかと思ったことからだった。

 ところが、サラは慌てるどころか、他の女子達と同じように、ユーシスをクズと罵るだけだった。


 そこから先は、この通り、斯々然々で、いま、ここに至るだ。ユーシスのハンター稼業も、今やすっかり板に付いている。

 それは、それなりに楽しいけど、ただただ虚しさが募るだけの毎日でもあった。

 本気で誰かを好きになることが出来ればまだ良かったのだが、どんなに可愛い女の子と付き合ってみても、最後に自分が求めているのは、サラだと気付かされてしまう。


 そしてその間、当のサラはと言えば、一途にエドガー・エレンブルグだけをただただ見詰め続けていたのだから。

 サラの眼中には、初めから自分のことなど一切写っていないのだ。


 もう、いいんだ。

 僕は、サラのことを綺麗さっぱり諦めるために、クロエ・カイルを好きになることに決めたんだから。

 サラのことを諦めるのに、これ以上の相手もいないだろう。


 そろそろさすがに潮時だ。

 別にあんな陰気そうな女、好みでもなんでもないけど……これが、ほんとのほんとに最後だ。

 よりにもよって、サラの一番の『親友』であるクロエ・カイルを自分のものにすることが出来たなら……。


 やってやろうじゃん。指咥えて見てりゃいい。

 サラと言い、エドガーと言い、どいつもこいつも、アタッカーは、頭の悪いヤツらばっかりだ。

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