そのうち、喋り疲れた五人は、翌日に備えて、コンパクトに折り畳めるシュラフを開いて横になった。ユーシスが結界を張ってくれているので、魔物に襲われる心配もない。


 季節は初春。温暖なランサー南部は、過ごしやすい気候だった。木々のざわめき、虫の声。

 いつの間にか、微睡みかけた時、チネは、シュラフから出て、一人座り込んでいる人影があることに気付いた。

 細くしたランプに照らされて、サラサラとした金髪に、空色の瞳の、天使のような可愛いらしい顔をした男――ユーシス・クローディアだった。

 『気になって夜も眠れない』と言うのは本当だったみたいだ。

 ユーシスの横顔は切なげだった。

 その横顔が一心に見つめるのは、ぐっすりと眠って、あどけない寝顔をさらしているクロエ・カイルだった。

 チネの位置からも、少し横を向いて、薄く口を開いて静かな寝息を吐いているクロエの、起きている時とは百八十度異なる無防備な姿が見えた。艶やかな黒髪が一筋、右頬に掛かっていた。

 チネは思わず、普段の軽薄な彼からはかけ離れた、切なげなユーシスの横顔に見惚れていた。

 クロエの頬に掛かった黒髪に、手を振れたくて溜まらないと言うような顔をしている。


 片想いの切なさは、チネにも分かる。

 チネは絶対に手の届かない人に、物心付いた頃から、十年以上ずっと、片想いしているのだから。

 チネの脳裏で、真剣な眼差しでシルヴィア王女を見詰める赤髪の王子の横顔が重なった。

 チネは片時もリファールの傍を離れず、ずっと、ずっと、その姿を見てきたのだ。

 ある日、二人の前に許嫁として現れた美しく優しいシルヴィア姫に、リファールが心を惹かれ、恋に落ちていく瞬間も、チネはずっと、王子の傍で、その様を見ていたのだから。

 チネは一筋涙が滲み出たのを払うことも出来ず、そのまま固く目を瞑って、眠りが誘いにくるのをひたすら待った。


 だが、チネはその夜、大きな思い違いをしていた。


 誰が、誰を好きなのか――ユーシス・クローディアが切なげに見ていたのは、クロエ・カイルではなかった。

 ユーシスが一心に見詰めていたのは、クロエではなく、その先にいた、彼の大切な幼馴染み、サラ・オレインの寝顔だったのだ。

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