五人は、帝都の南にある、深い森の中を歩いていた。今回のクエストは二日がかりである。

 朝、帝都を出てきて、騎馬で森の手前まで移動し、森に着いてからは馬を停めてひたすら歩いてきた。

 途中、昼食も採った上、クエストの舞台となる洞穴どうけつに辿り着くのは、夕方になると言われていた。


「今日も可愛いなあ、クロエは……」


 チネのすぐ後ろを歩くユーシスは、先頭を行くクロエを見ながら、サラに耳打ちした。


「もう。討伐パーティーまであんたと一緒になるなんてね……!まったく忌々しい。いい加減そのバカな考えは捨てなさい。クロエがあんたみたいなクズのことを、相手にする訳がないでしょ?」


 耳敏く二人の会話に聞き耳を立てていたチネは、頭の中が大混乱だった。

 ユーシス・クローディアは、幼馴染みのサラの『親友』である、クロエのことを狙っているのか……?

 とんでもない三角関係ではないか……!?


「ユ、ユーシスはクロエ・カイルのことが好きなのですか?」


 チネは小声でこの外道っぽい男に話し掛けた。


「な、なぜそれを……?サラに聞いたの?」


 なぜかユーシスは慌てている。なんなんだコイツ。

 軽薄なクズ男のクセになぜこんな初心な反応なんだ?

 よーし、リファール様からクロエを遠ざけるために、コイツを応援することにしよう。

 クロエ・カイルがユーシス・クローディアとくっ付けば、万事解決じゃないか!

 サラ・オレインがユーシスのことをどう思っていようが、私には関係のない話だ。


「お、応援しますよ、ユーシス。貴方は見た目だけは人並み以上ですから、クロエさんとは、お似合いだと思います!」


 サラが吹き出す。


「『見た目だけは』だって、ユーシス!チネちゃんも、可愛い顔して言うこと言うじゃん。もっと言ってやってよー!コイツ、本当に、人の風上にも置けないような男なんだからさー」


「おい、そんな大きい声で言うな!クロエに聞こえるだろう?」


 ユーシスは相変わらず慌てている。


「今さら遅いわよ。あんたが『人間のクズ』だってことは、もうとっくに学年中、いや、学院中の知るところなんだから」


 サラはばっさりと切り捨てるように言った。


「ひ、ヒドイこと言うよなー相変わらず。僕は、クロエ・カイルの魅力に気付いて、心を入れ換えることに決めたんだよ!僕はこれから、一途になる。クロエの心を射止めるその日まで……!」


「あんた、それ、何回目よ。新しい女の子見付ける度に同じこと言ってるじゃない。あんたは、ただのハンターなのよ。難攻不落な女の子を見付けて落とすまでが楽しいんでしよ。一度自分のものになったら満足して、さっさと次の女の子を漁り始めるんだから……!」


 そ、そうなのか……!

 本当に恐ろしい男だ。こういう手合いには本当に気を付けないといけない。チネは心の中のメモ帳にサラの言葉をしっかりと刻み付けた。

 やっぱり、エドガー・エレンブルグの言うことなど、全くアテにならないな。

 こんな様子で、まさかこのサバけたサラ・オレインが、クズに成り果てた幼馴染みのユーシス・クローディアのことを一途に思っているなんて、そんなことはバカげたことはさすがにないだろう。

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