ううむ……。前途多難だ……。


 チネは頭を抱えていた。リファール様の煩悩をくすぐるような輩が多すぎる。この、エドガー・エレンブルグとか言う暑苦しい男にしてもそうだ。

 どいつもこいつも、口を開けば惚れただの腫れただの、いらん話ばかりをリファール様に吹き込みおって!


 たしかに、クロエ・カイルは美形だ。

 無口で感情表現が薄く、冷たそうな雰囲気だけど、ああいうタイプが、男心をくすぐるのは、なんとなくチネにも理解が出来る。

 それに、クロエと仲良しのサラ・オレインも油断がならない。二人とも七年生を代表するような美人なのに、なぜかこの二年半、二人とも一度も彼氏を作っていない。

 クロエもサラも、二人とも、誰でもいいから、早く誰かとくっ付け……!


「なーに、チネちゃん。難しい顔して。今日のクエストの心配かな……?」


 サラが明るい声で話し掛けてくる。

 チネがサラ・オレインを警戒している理由は、この人のこの明るさだ。サラの性格はなんとなくシルヴィア姫に似ている。

 ただ、サラの外見は、淑やかなシルヴィア姫とは真逆で、見た目からして活発そのものな姿をしている。

 光を受けてよく輝く、金に近い明るい褐色の髪を健康的なポニーテールにして、キラキラした切れ長の翡翠色の瞳は、コロコロとよくその表情を変える。

 中身と外見が一致した、パッと目に華やかな女性だ。


「ち、違います。……っていうか、違わないですけど……最近、パーティーが固定化されてきましたよね」


「そだね。まあ、毎回人が変わるよりは、お互い理解が深まっていいんじゃない?」


 七年生になってから、授業に『クエスト』が解禁された。

 魔物の討伐は実践形式の授業の最たるものだ。

 その実、ランサー帝国は、学生たちを、帝都周辺の平和のためにこき使おうとしているとも言える。


 チネのパーティーは、学年二位のクロエ・カイルがリーダーで、エドガー・エレンブルグ、サラ・オレイン、そして最近、サラが想いを寄せているとウワサの、聖術士ユーシス・クローディアがメンバーに入っていた。

 チネはいつも、リファール様と同じパーティーになれないことが残念でならなかった。

 シルヴィア姫に、リファール様の元を片時も離れないと約束したと言うのに……。


 パーティーは深紅、純白、紺碧、翠緑、褐色の五色が、バランスよく入るように、個々の能力を考えて教師が調整するので、生徒に文句があろうと、それに口を挟むことは出来ないようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る