第一章:学院入学前の子ども時代からずっと一緒のユーシスには、サラが陰術クラスのエドガー・エレンブルグに長いこと片想いしていることもバレバレだった


 アラン歴一〇九二年。当時、ランサー帝国術士養成学院の学生は、一学年百人にも満たない程度しか居なかった。たいていの学年は、色別ではなく陰術か陽術の二つのグループに分けられ、その中で成績により一軍か二軍か、さらに二つのクラスに分けられる。


 サラ・オレイン十七歳。学院の七年生だ。


 サラの呪力の色は翠緑。座学も実技も、それなりに努力はしていたので、七年間一軍落ちしたことはなかった。


「かわいいよなークロエ・カイル」


「えっ……?」


 生物学の授業で隣に座ったユーシス・クローディアが、サラの斜め前に座っている黒髪の清楚系美人のうなじを見ながら溜め息をつくように言った。


「何よユーシス。あんな冷たそうな女には興味ないとか、言ってなかったっけ……?」


「そんなの、子どもの頃の話だろ?僕は、目覚めたんだよ……!お喋りで明るい陽キャな女の子より、クロエみたいな、おしとやかで物静かな女の子こそ、落としがいがあるってことに……!氷の女王みたいな彼女が、僕だけを見てくれて、僕だけに微笑んでくれて、落ち込んだ時は弱音も吐いてくれたり……最高じゃないか!妄想が止まらないよ……」


 はあ……。バカも休み休み言って欲しい。


 ユーシス・クローディアは、純白の呪力の持ち主のクセに、清純とは程遠い、とんでもないクズ男だった。陽術クラスの数々の女に手を出して、人間関係をめちゃくちゃにしておいて、本人は何の罪悪感もなく飄々と笑っているのである。


 天使みたいなかわいい顔をして、女の敵だ、こんなヤツ!


 それでも、ユーシスとは同郷なので、腐れ縁と言うヤツで、何かと一緒に行動しているサラだった。

 こいつとは絶対に男女の仲にはならないと分かっているので、変に気を遣うこともなく、気安く話せる男友達とも言える。


「彼女、絶対初心なタイプだよ。男の子のこと好きになったことなんか絶対ないでしょ」


「だからって、あんたみたいな軽薄な男のことを好きになることは天地がひっくり返っても、ぜっっったいに、無いって言い切れるけどね」


「あっ、そう言うこというんだね……。じゃあこうしよう。僕がもし、クロエと付き合うことができたら、サラも、エレンブルグのご長男様に告白しろよ……!」


 ユーシスは訳の分からないことを急に言い始める。


「はあーーー……っ?なに言ってんの。それっていったい、私にどんなメリットがあるわけ?」


 サラは鼻で笑う。


「メリット、大有りじゃん。意気地無しで自分の気持ちを伝えられないサラに、僕がきっかけ与えてあげようと思ってるんだから……!」


 ふん……何言ってるんだか。


「そんなの、絶対乗らないわよ。勝手にやってなさいよ、まったく、下らない……」


 学院入学前の子ども時代からずっと一緒のユーシスには、サラが陰術クラスのエドガー・エレンブルグに長いこと片想いしていることもバレバレだった。


 かれこれ四、五年にはなるだろうか。

 サラは自分なんかではとても釣り合わないと分かっているので、エドガーがその間、誰を好きになろうが、誰と付き合っていようが、お構い無しで、それでも一途に想い続けているのだった。


 だって……カッコいいんだもん。仕方ないじゃない。

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