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昼休み。
学院の食堂で、ユーシスは男友達とつるんでお昼御飯を食べていたので、サラは食堂中を見回して、クロエの姿を探した。
いたいた。今日も学院の制服をきっちりと着こなし、サラサラの黒髪ストレートを肩に流している。ハーフアップにして紺のリボンを結んでいるところが、何とも清楚さを醸していた。
少し憂いのある青みがかった黒い瞳が、見るものを惹き付ける。まあ、ユーシスが夢中になるだけはあるよね。
学年トップの成績を納める、品行方正、真面目な優等生は、男子学生から絶大な人気を誇っていた。
「ここ、いい?」
サラはそんなクロエ・カイルのむかいに、昼食のトレーを持って座る。
「どうぞ」
クロエはにこりともしない。
斯く言うサラも、実はこの無口な友人のことが大好きだった。何が楽しくて生きてるのか分からないような顔をしている彼女の顔を、少しでもいいから綻ばせてあげたいと常々思っている。
「定期考査の結果、見たよ~!さすがクロエ・カイル様だね。学年二位じゃない」
クロエは豆のスープを掬おうとしていたスプーンを止めて、目線を上げた。温度の低い群青色の瞳と目が合う。
「わざと言ってる?それ……」
クロエの声は冷たい。
あっ、もしかして地雷踏んだ?
「アルバートの王太子様には敵わないよね……彼が来るまでは、クロエはずっと学年トップを走り続けてたのにね……」
ランサー帝国の南方にあるラサ山脈を越えたさらに南にある、都市国家アルバート王国の王太子、アルバート・ロムルス・リファールは、五年生の時に帝国学院に編入してきた。武者修行のためだと言われている。
ランサーと南方諸国の関係性は悪くなかったので、リファールは養成学院に好意的に迎え入れられていた。
クロエは忌々しそうにスープを口に入れて、優雅に粗食した後に言った。
「母親に、殺されるのよ……。『一位』じゃないと」
クロエは沈んだ声で言う。
サラが冷たい反応にもめげずにしつこく話し掛け続けているからか、氷の女王も、サラにだけは弱音を曝してくれる。
「大変だよね、カイル家の時期当主サマは………。私の実家なんて、給金を仕送りしてるだけで大喜びしてくれるのに……」
クロエは水術の名門カイル家の時期当主を担う存在として、田舎の貧乏商家の娘であるサラなどには及びもつかないほど、厳しく育てられている。
彼女が学年トップクラスの実力の優等生であるのに、そんな自分を追い込むように暗い顔をしているのは、そのせいだ。
「リファールにお願いしてみようか。少しはお手柔らかにしてくださいって。さもないと、カイル家のクロエお嬢様が、母親に殺されてしまいますって……」
クロエは顔色を変えた。
「やめて、そんなことは……恥ずかしい。一位か二位かなんて、そんな、些細なことに一喜一憂してるなんて」
痛ましい。彼女は実家の厳しい躾に追い詰められながら、それをおくびにも出さず、弱音も吐かずに学院の優等生を演じているのだ。サラは何とかして、この生真面目な氷の女王を救ってあげたかった。
この真面目で清楚な氷姫を、ユーシスの食い物になんか、絶対にさせるもんですか……!
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