第2話 声優 早瀬美結
美結が手錠につながれた男性に言った。
「あ、あの私、せ、声優の
「え、知りませんか? 例えば今アニメで大ヒットしているあの作品とかこの作品とか……」
「どんなのだっけ、ですって! じゃあ聞いて下さいよ!」
美結は自分の役を特別に披露する。一作品目……
「あなた達はこれまで必死に生きてきました。だから……幸せになる権利があるんです。諦めないで下さい。きっと、きっと素晴らしい未来が待っています。お願いだから諦めないで下さい!」
「……」男性に反応は無い。
「くっ――、こちらはどうですか!」
「ううう(涙)、あなたの事を愛してます。だから戦いに行かないで。もう戻ってこれないかもしれないから…… あなた無しでは生きていけない。 愛してる……」
「……」男性は口元が少しプルプルしている。
「じゃあこれは! とっておきですよ!」
美結はスーッと息を吸ってから美声を披露した。
「ミユは知っています。あなたはどんなに苦しい時でも、自分を顧みずに人を助けようとする人だってことを。ミユはいままで何度もあなたに救われてきました。あなたのその優しさが私を苦しみから守ってくれたんです。凍てついた心を、溶かしてくれたんです。ミユはあなたと一緒の未来しか考えることができません。ずっとついて行きます。あなたのことを信じています。どんなに辛いことがあっても、悲しいことがあっても、ミユはあなたのことを信じ続けます!」
「はあはあ、どうですか? 渾身の名セリフですよ?」
「え? 実は私の事知ってた? 言わせたかっただけ? うーん! 酷い人ですね!」
「あ、犯人がこっちを見てる! 大声出すなですって、あなたのせいです!!」
犯人達は、警察と交渉を始めたようだ。どうやら1億円のキャッシュと海外逃亡を人質解放の条件にしているらしい。しかも1時間経過する毎に人質を1組ずつ始末すると言っている。
「向こう端の2人が、どこかに連れていかれましたよ!! どうしましょう!」
「あの2人、殺されるんじゃないんですか? 怖いです」
「はい、確かに並びの順なら、私達は4番目でしょうけど、そんなのわからないじゃないですか!」
「落ち着く事なんてできませんよ。ほら手も震えて……」
涙目になっている美結に男性が手を握って頭を撫でて慰めてくれた。
美結は顔が真っ赤になる。
「え、あ、ありがとうございます」
「お陰様で少し落ち着いてきました」
「あの、肩に寄りかかってもいいですか?」
「じゃあ、すみません。汗臭くてごめんなさい」
「え、本当に臭うって? 怒りますよ💢」
「少しお話してもいいですか?」
「私、小さい頃から歌を歌うのが好きでアイドル歌手になりたいなあって思っていたんです」
「でも、そんなにルックス抜群じゃないし、歌手一本で行けるほど歌が上手いわけでもなかったし…… つまり、ちょっと難しいかなって思っていたんです」
「で、アニメとか映画とか見てたら、声優っていいなあって思ったんです」
「これでもかなり努力したんですよ」
「最初はなかなか仕事がいただけなくて……」
男性が『絶対に可愛いし、歌も抜群に上手い』と言う。
「そんなことないです。でも、ありがとうございます」
「あと私、お仕事はようやく色々いただけるようになってきたんですけど、人付き合いが少し苦手というか…… 私、何言ってるんだろ」
「ええ、なんか感情が変になってます。薬のせいかな? すみません」
「あ、2組目が連れていかれましたよ……」
2時間が経過した。並び順なら美結まであと2組。2時間後……
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