胸の内

✦ここからは一人称が斗真に戻ります✦


大和、さっき好きだッつってたよな...


誰のことなんだろう。もやもやする。


ガラガラガラ


「佐野、おかえり。神薙は大丈夫そうなのか?」


「もうちょっと休んでから戻ってくるらしいです。」


「そうなのか。...佐野、悪いんだけど神薙にしんどかったら早退しても良いって伝えてきてくれないか?今から俺ホームルームだから行けないんだ。」


「あぁいいですよ、わかりました。」


ガラガラガラ


俺は大和のことが好きだ。でも大和が他の人のことを好いているなら俺はそれを邪魔することはできない。


でもあの口から紡がれる「好き」の一言を俺以外に向けられるのは嫌だ。


ノックをして一拍おいてからドアを開ける。


「大和ー居るか?」


「斗真くん?どうしたの」


「先生からの伝言伝えに来たんだよ。しんどかったら早退していいってさ。」


「そうなんだ、ありがとね。」


沈黙が訪れる。


先に口を開いたのは大和だった。


「あの、さ」


「ん?」


「斗真くんは好きな人、とか居たりするの?」


脈絡なくそんなことを聞かれたものだから遠慮会釈なく声が飛び出た。


「...へ?」


途端に大和が慌てだす。


「ほ、ほら!さっき僕言ってたじゃん、中学生になってから好きな人出来たことないって!だ、だから斗真くんは居たりするのかなってね?」


「あーまぁそういうことなら答えてやるけど...好きな人は居るんだが」


そこで言葉に詰まってしまった。好きな人に好きな人の話をするのはなかなかしんどいものがある。


大和が弾けたように明るい声を出した。


「居るんだ!誰?同じクラスだった?」


「誰かっていうのは答えられないけど、クラスは一緒だったぜ。」


「!! 良かったじゃん!」


「あぁ、って俺ばっかり話させられてるじゃん。大和は気になる人居ないのか?」


「僕は、僕も好きな人、出来たかも知れない。」


「...へぇ、良かったじゃん。」


声が震えないように努めて声を出す。


「ねぇ僕には聞かないの?」


「何を?」


焦れたように大和が言う。


「誰なのか、とか同じクラスなのか、とか。」


「その好きな人ってのは誰なんだ?」


「へへっ、秘密だよー!」


「聞けって言ったの大和なのに答えてくんねーのかよぉ...」


だって恥ずかしいんだもん。


大和が呟いた。


俺は聞かなかったふりをしてもう一つ質問を重ねた。


「じゃあクラスは一緒なのか?」


「一緒だよ?」


「良かったじゃねえか、お互い頑張ろうな。」


大和に気づかれない程度に唇を噛む。


自分がいたたまれなくなり、そろそろ行くわと大和に告げ出口に向かって歩き出した。


「あっ!」


焦ったように大和が声をあげた。


驚いて俺は歩みを止める。


「どうしたんだ?」


「...」


「? なにもないならもう行くぞ?」


「...もうちょっと僕と喋らない?」


「そういうこと、別にいいぜ?」


俺は大和が寝転んでいるベッドに寄っていく。


傍らに立って大和の方を向いていたら大和が


こっち、座りなよ。と言ってきたので俺はベッドに腰掛けた。


「ねぇ斗真くん。ちょっと聞いても良い?」


「いいぜ。」


「男の子が男の子好きになるってそんなに変なことかな。」


想像よりも切り込んだ内容の質問だったから俺は少したじろいだ。


少し考え俺は質問で返した。


「答えたくなかったら答えなくても良い。大和が好きなのは男子なのか?」


「そうだよ、僕多分女の子より男の子の方が好きなんだと思う。」


「そうか、俺は好きなら誰も何を言う権利なんてないと思うぜ。変じゃないよ。」


「斗真くんは自分が男の子に告白されたらどう思う?」


「嬉しいな、間違いなく。」


即答した。


「じゃあ、さ。」


俺の背中側で大和が身体を起こした気配がする。


「こっち向いてよ、斗真くん。」


上履きを脱いでベッドの上に足を置く。


ちゃんと目を見て大和が告げた。


「僕にもチャンス、あるのかな?」


いたずらっぽく笑う。


ドキッとした。


「大和、本気か?」


「どうだろうね。」


大和が少し傷ついた顔をした。


「さっきの発言、後悔すんなよ。」


大和が俺の目を覗き込んでくる。


「何が?」


「大和にチャンスが有るなら俺にもチャンスあるよな?」


「えっ?」


「大和が好きなやつ教えてくれよ。俺そいつより良いやつになって大和に告白するから。」


「...」


大和の顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「俺そんな変なこと言ったか?」


「...斗真くんそれ、もう告白してる。」


言われて自分の発言を思い返した。


俺そいつより良いやつになって大和に告白するから。


大和に告白するから。


告白するから。


告白、してる。


「っっっ~!!? ちょ、ちょっ今のなし!なし!」


「無しなの?僕嬉しかったのに。」


「え?」


「僕は斗真くんのこと好きなんだけど、斗真くんは僕のこと好きじゃないの?」


強烈なストレートを連続で叩き込まれてる。


息も絶え絶えになりながら俺は言の葉を育て上げていく。


「好き、だよ。大和のことが。」


「僕たち今日知り合ったばっかりなのに、ちょっと変だね?」


ころころ笑いながら大和が言う。


「そうだな、名前も今日知ったばっかりだしな。」


自然に俺も笑顔になる。


と、急に大和が訪ねてきた。


「で、斗真くんはいつ僕に告白するの?」


笑顔が固まった。


「えー...っと、いつにしようかなぁ...」


大和が俺の両頬を両手で挟んで俺の逸らした顔を大和の方に持っていく。


「今じゃ、だめ?」


自分より少し低い目線が上目遣いで聞いてきた。


それ反則だろ...


喉元までせり上がってきた言葉を飲み込み言葉を紡ぐ。


「大和。」


「はい。」


「一目惚れしました、付き合ってください。」


「喜んで!」


俺は、


俺たちは


多分とてつもないことをしたんだろう。


大和になんで俺のこと好きになったのかってことを聞いたら


「昔話のときに自分のことみたいに辛そうな顔してたのに、その後の笑顔とのギャップが凄くて  あぁ僕この人のこと好きだなって思っちゃった。」


なんて最高の返事が返ってきた。


斗真くんは?と聞かれて俺は恥ずかしさのあまり何も喋ることが出来なかった。


喋るかわりに大和を抱きしめると最初ビックリしたあと大和の腕が俺の背中に絡みついてきた。


「答えはこれでも良い?」


大和が笑いながら答える。


「一番うれしい返事だよ。」

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