吐き捨てたい過去
「ねぇ斗真くん。」
「んー?」
あくび混じりに俺は返す。
「僕の過去の話、聞いてくれる?」
「あ?あぁいいぜ、いくらでも聞いてやるよ。」
「あれはね、僕が小学5年生の時の話。」
✦ここからは一人称が斗真から大和に変わります✦
僕は昔っから背が低くて、体つきも男っぽくなかった。だからみんなは僕にこういうんだ。
「出来損ないのオトコンナ」
誰から言い出したのかなんて覚えてないけどその言葉ははっきり覚えてる。
言われ始めたのがちょうど5年生最初の始業式の辺りだった。
その日僕は少し体調が悪くて貧血で倒れちゃったんだ。
その時先生がこう言った。
「なんだ神薙、貧血なんかで倒れるって女子みたいだな。」
きっと先生は悪気なんてなかったんだと思う。
だって笑ってなかったから、目も、口も。
その後僕は保健室で休んでから早退した。
次の日からは壮絶だった。
朝学校に着くと僕の机が赤とピンクのリボンでぐるぐるにされてたんだ。
みんなが言うには女の子みたいな僕のため、だってさ。今の僕なら余計なお世話だ、なんて言えたかも知れないけど当時の僕は喧嘩なんか怖くてできないってタイプの子供だったから何も言えなかった。
ただ溢れそうになる涙をこらえてた。
机は女の子らしい可愛いリボンが付いてるのに体操服に着替えるのはもちろんだけど男の子と一緒だった。
それがクラスメートにはちぐはぐに写ったんだろうね、その時から僕のあだ名は
「出来損ないのオトコンナ」
だったんだ。
わかってる、今も男の子らしい顔つきも体つきもしてないし背だって低い。
僕は小学校に僕をおいてきちゃったんだと思う。
中学校に入ってから好きな人ができたこともないし、本当に親しい友人すらできない。
そういうところが出来損ないなんだろうね。
僕の口から自虐的に薄く息が漏れた。
不意に斗真くんがこっちを見た。
口を開く。
「今日、先生より俺が良いって言ったのってその話が関係してるのか?」
「うん、そうだよ。その日から僕保健室がトラウマなんだ。」
一人でいるときもしんどいけど一人でいるより先生といるほうがもっとしんどい。
勝手に口からこぼれ落ちた。
「俺と二人ならすこしは安心するか?」
「そうだね、ちょっとだけね?」
指で「ちょっと」を作りながらおどけたように僕は言う。
「大和?」
名前が呼ばれる。
「何?」
斗真くんが微笑んだような気がした。
「今、すごい優しい笑顔してるぞ。」
そういう斗真くんこそ優しい顔してるじゃん、なんて恥ずかし紛れに返す。
「へっ...」
みるみるうちに顔が赤く染まっていく。
...なんだか胸が一瞬だけどきどきしたような気がする。
気のせいだと自分に言い聞かせてみる。
胸の奥が緩く締められたような感覚に陥る。
まぁいいか。
「斗真くん、どうしたの?」
なんでもねぇよ...
顔をそらしながら絞り出すようにそう言ったっきり動かなくなった。
今度こそ胸がどきどきした、ような気がする。
「斗真くん、あのね」
ありがとう
お礼の声が小さすぎたのか、斗真くんはん...としか返してくれなかった。
胸の奥が痛い、また優しく締め付けられてるような感覚になる。
これってやっぱり
「好きなんだぁ...」
声に出たと気づくまで少しのタイムラグがあった。
「今、なにか言った?」
斗真くんの問いかけでやっとさっきの心の声が漏れていたことに気がつく。
「へっ!?な、なにも?!」
あははっ、大和慌てすぎと一つ笑ってから斗真くんは
じゃあそろそろ行くわ、大和はゆっくり休んでから来いよ?先生には俺から言っとくからさ。
なんて言いながら保健室を出ていった。
改めて僕は口に出してみることにした。
「と、斗真くん...好き。」
...
自分の発言に自分で悶えてしまった。
でも、いくらぼくが好きだからって、いくら男の子らしくなくたって
きっと僕は斗真くんの眼中に入ることすらできないのだろう。
そう思うと自然に涙が溢れてきた。
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