2章:周囲の目

俺たちの普通

俺が大和に告白してから早くも半年が経とうとしている。


その間に俺たちは映画を見に行ったり公園で時間を過ごしたり、遊園地に行ったり...数えきれないほどの思い出を作った。


ここだけの話、キスはまだしてない。俺としては早くキスしたいんだけど大和が


「ま、まだ恥ずかしい、から」


って顔真っ赤にして首を振るもんだから手が出せない。


そんなある日のこと、クラスで体育祭の話しがポツポツと出始めた。


「そういえばあと二週間くらいで体育祭だな」


「ほんとじゃん、宵待よいまちは出る種目決めたの?」


「あーいや、まだ何にするか決めれてないんだよね。なーんかめんどくさそうなのが多いんだもん。」


「そうだよなぁ。」


そっか、出る種目早く決めて自己申告しなきゃだめなんだった。


大和の席に近づいていく。


「大和~」


「どうしたの?斗真くん。」


「いや、体育祭の種目はもう決めたのかなっておもってさ。」


「うん、僕障害物競走にしたよ。」


「障害物競走か!なんか意外だな、大和が競争系選ぶなんて。」


「あはは...クラスメートに僕は小柄だから障害物抜けやすそうって言われて、じゃあやるねって言っちゃったんだよね。」


苦笑しながら大和は言う。


「それ、嫌じゃなかったのか?」


「うーん、最初はちょっと嫌だったかな。でも今はこの身体にしか出来ないことなんじゃないかって思えてるから結構楽しみなんだよね。」



「そっか、大和が楽しめるならなんでも良いけど...」


「そんな顔しないで~」


あの時みたいに大和が俺の頬を両手で挟んで揉んでくる。


こそばゆくて身体をよじると離してくれた。


「斗真くんは何にするの?」


「んーまだ決めてないけど借り物競争にしようかな。面白そうじゃない?」


「良いね借り物競争!ぼくが持ってるものだったら何でも貸せるからね!」


「頼もしいな、っとそろそろ授業が始まるな。」


「うん、また後で。」


✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦


「じゃあこれで六時間目の授業を終わるぞー、この後は終礼で体育祭の種目の最終確認をするから自分の席で待機しておけー。」


今日で体育祭の種目が決まるのか。まぁ借り物競争でいいかな?あんまり順位とか関係なさそうだし。俺身体動かしたりすんの苦手なんだよなぁ。走るのとか無理だし...


そんなことを考えていたら先生が入ってきた。


「はーい終礼始めるぞ、体育祭の種目決めてないのはあと佐野と宵待だけだぞ。もう決めたか?」


「うぇ、二人なんすか。」


「宵待は何したい?」


「ていうか後何が残ってるんですか?」


「借り物競争と玉入れだな。」


「あ、じゃあ俺借り物競争でも良い?宵待。」


「佐野は玉入れ嫌いか?俺は好きだから全然いいけど。」


「いや、別に嫌いなわけではないんだけどな。」


「二人共、もう決まったか?」


「はーい」


「大丈夫です。」


「じゃあ今日の連絡を---------」


✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦


「大和~一緒に帰ろうぜ」


「いいよー、あとちょっとで片付け終わるから待っててね。」


「おっけー」


俺は図書室で借りた本を読んできた。


「...これでよし、と。誰もいなくなっちゃったし帰ろっか、斗真くん。」


「ほんとに誰も居ないじゃん、みんな早いね」


「帰らないの?」


「あぁごめん、帰るけど、その前に...」


その前に? 聞いた大和の言葉を無視して俺は大和に抱きついた。


「!!/// どうしたの?斗真くん、こんなところ誰かにみられt...」


そこで大和の言葉が途切れた。


俺は大和を抱きしめていた腕を引いて大和が向いている方を見た。


そこには赤面している女子生徒が居た。


「あー...なんかごめん、ね?お邪魔しちゃったかな...?」


言いつつ下がっていく女子生徒に大和が声をかける。


「こっちこそごめん、忘れ物かなにかでしょ?取らないの?」


そういう大和の顔もとても赤い。


「いやぁ、なんかもうすごいもの見ちゃったから帰るね。」


その言葉に俺は引っかかりを感じた。


「それどういう意味だ?」


「え?」


「男同士のハグがそんなに物珍しいか?」


「だって普通そんなことしないじゃん!」


「俺たちの普通に口出すんじゃねぇよ!」


「でも...」


まだ何か言い募ろうとしていた女子を無視して俺は教室を出た。


今は大和とすら喋りたくない。


それを察してか、はたまた剣幕に呆気にとられたのか大和は俺のことを追ってこなかった。



...あとで大和に詫びのメッセージ送らないと、と思いながら夕飯を食べた。


食器を運んだ足でそのまま二階の自室へ入りメッセージアプリを立ち上げる。


目を刺すような緑色の背景はもう見慣れたものだ。


「放課後はごめん、なんか俺たちの気持ちがおかしいって言われてるみたいでイライラして先に帰った。嫌じゃなかったら明日からまた一緒に帰ろう?」


文字に起こすとなんとも幼稚な理由であるが仕方がない。


スマホをベッドの上に放り投げ宿題を進めていると通知がなった。


見れば大和からのメッセージの通知だった。


「別に僕は怒ってないから安心して?実際僕もあの女の子が言ってることに対してイラついたし...でもあの女の子が謝りたいって言ってたからもしかしたら明日以降話しかけに来るかも知れない、そのときは拒絶せずに話を聞いてあげて。」

「明日は一緒に帰ろうね!」


猫がバンザイをしているスタンプとともに送られてきた。


「ごめん、ありがとう。多分女子も悪い子じゃなさそうだもんね。」


そう送信し俺はゲームのキャラクターが腕で大きく丸を作っているスタンプを送った。

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