第5話
僕の父は神官ながら、『破壊の戦士』という役職を神から与えられたカミス・ライニングという人物です。
まぁ、この役職のおかげで神官ながら回復術は使えなかったのですが、魔物対応という事でそれなりの地位はあったみたいです。
母はジェーン・ライニングという名で『女神の癒し手』という役職を授かっていた神官で、光の魔術や回復術に優れ、研鑽を積めば将来は蘇生術も使えていたかもしれないとされていました。
2人は同じ神殿で勤務していたことから出会い結婚したそうです。
結婚後しばらくしたら僕が生まれ、母も神殿勤務に復帰、母が神殿で勤務中は、僕は神殿内にある養護施設で預かってもらっていて僕も小さな頃の記憶は両親よりも養護施設の職員と遊んだ記憶の方が多いくらいです。
両親が勤務していた神殿は魔物との戦いを行っている前線地域に近く、優秀な回復術が使える母がいる神殿には、多くの怪我人が運び込まれてきていて、僕は知らなかったですが、かなりの激務だったらしくて、非番の日も両親はよく呼ばれていました。
父は回復術は使えないので、怪我人を運ぶ係として呼ばれていたみたいです。
母はよく父に
「こんなに働いても貴方の方が賃金が多いのよね。」
なんて言っていましたけど、父は魔物退治によく派遣されていたので賃金が多かったんでしょうね。
しかし、ある時、前線地域で魔物が多く発生して、人間側に劣勢になり、怪我人や死者が多く発生、一時的に両親が勤務するアネックス神殿まで後退し、神殿を拠点に再び元の前線地域まで進行をすることになりました。
この時に起こったのが、有名なアネックス神殿事変ですね。
前線地域から怪我人を抱えて後退してきた軍団は殿軍が上手く機能せずに、そのまま魔物に攻め込まれました。
神殿内部には近辺の住民も避難してきてましたので、神殿の門は固く閉ざしていたのですが、前線地域から退いてきた軍団長がかなり高位の貴族だったらしくて、神殿内に入れるように強く交渉してきたそうです。
神殿側は一度は断ったのですが、再三の交渉が行われて、最後には脅しともとれる発言が軍団側からあったせいか神殿内を開放したそうです。
どうせ入れるならグズグズせずに早く入れてしまえばよかったのですが、交渉を長々としていたせいか、魔物に追い付かれて殿軍が崩れてしまい、神殿内まで魔物が入り込んできました。
当時、僕も神殿内で保護されていた。
神殿内に入り込んできた魔物が近くまできたので、僕は母のところに逃げようとしたのですが、運悪く魔物に見つかってしまい、殺されそうになったところに父が助けてくれました。
母も僕を探していたところに魔物と戦っている父を発見し、僕を守りながら、両親は仲間のところにまで退こうとしていたのですが、前線部隊の軍団長が恐怖に駆られ、神殿内にある防衛区画の扉を閉じてしまったんです。
押し寄せる魔物に耐えきれなくなった両親は僕を庇って戦ってくれました。
僕は父や母が傷を負いながらも僕を必死に守ってくれる光景を泣きながら見ていたんです。
そんな僕を安心させるために両親は戦闘の合間に僕を見て笑ってくれたんです。
僕はその笑顔を泣きながら見るしかできなかった。
そして、父が倒れ、母も瀕死の重傷を負っても僕を守ってくれていたところに援軍がきて、魔物は討伐されました。
母は瀕死で自分自身に回復術も使うことができなくなっていました。
そして神殿内でそのまま亡くなってしまいました。
僕は父と母の遺産を受け取り、遺産の中には住んでいた家とかもあったのですが、まだ小さかったために神殿内の養護施設で引き取られることになり、僕は亡くなった父や母のような神官を目指して、見習いとして勤務していました。
成人しても、役職は発現しなかったのですが、ある時、魔物が大量発生し、人手が足りず、苦肉の策で見習いを含めて、多少なりとも戦える者は戦闘に参加することとなったので、僕も父の遺品のハンマーを持って戦闘に参加しました。
すると、父の戦っている時の印象が頭に浮かんできて、僕はかなりの数の魔物を退治することが出来たのです。
その戦闘の後、怪我人の手当をしていたら、僕は回復術が使えると思ったので、手当てを継続しながら、母のように回復術を使えるようって思ったら、回復術が使えたんです。
そこで、上司は僕の様子を一定期間見て、僕の能力が確かに発動できていると判断され、神殿長に上申、神殿長からは
「役職が発現していないのにも関わらず回復術の使用、魔物との戦闘でも高い功績を出すことができるのは将来かなりの役職が発現するに違いない。」
との推薦を受け、閃光の騎士の役職を授かったクリス様のパーティーに配属されました。
その時に、母親同士が仲が良かった幼馴染のラミアもクリス様のパーティーに配属されていたので今でも同じパーティーとして勤務しています。
僕が自分の生い立ちを話すとサイサリス様はその目に涙を浮かべており、僕の目を見つめて
「ご両親が目の前で亡くなられてさぞ辛かったでしょう。私は両親が健在ですので、貴方の気持ちは想像するしかできません。しかし、貴方の心の傷を少しでも癒すことができるようにしていきます。」
と言ってくれて僕の手を優しく包み込むように握ってくれた。
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