第3話
1ヶ月後
僕は普段着慣れない神官の礼装を着て、王城で開かれているゴブリンロード討伐祝いの叙勲式とその後に予定されている立食パーティーに参加している。
神官業務を理由に参加を断ろうとしていた僕をクリス様とラミアは
『お前(貴方は)は何を言っているんだ(の)?』
というとても息のあった発言があった後、クリス様から、
「ゴブリンロードを討伐したお前が叙勲式に参加しなくてどうする!」
と諭され、ラミアからは
「只でさえ、『見習い勇者』などと陰で言われているのに、不参加であれば、役職だけでなく、礼儀すら身についていないか!と侮蔑されてしまうわよ。」
と冷静に告げられてしまうと、参加せざるを得ない。
2人の情報網では、この叙勲式やパーティーには他にも何かあるらしいが、不確定なことが多いらしくて、僕には何も告げられていない。
僕は勇者叙任式くらいでしか着たことがない礼装を汚さないように大人しく壁の花になろうとしていたが、僕が思っていたよりは勇者としての功名が大きいみたいで、ラミア、クリス様の後に、僕が紹介されつつ(単なる神官の僕が、クリス様やラミアの後に入場するわけには行かないなんて、一度は断ったけど、この叙勲式や立食パーティーを取り仕切る侍従長からは勇者様のための式典ですのでとにこやかに拒否されてしまった。)、入場したら、一応は温かい拍手の後、式典に参加している寛容な貴族様やそのご令嬢に声をかけられて
しまい壁の花には成れずじまいだった。
そして、僕の紹介が終わり一通り静かになったところで王族の入場があり、今回は国王陛下と女王陛下そして、第2王女殿下が参加されていた。
そして、国王が僕とクリス様とラミアを呼び今回のゴブリンロードとその軍団の討伐を紹介し、急造で作られた軍団に参加した騎士、神官、魔術士にはそれぞれ奨励金と勲章が、冒険者には奨励金が授与されたことを侍従長が発表、僕ら3人には国王と女王陛下からこの場で直々に勲章が授与されると告げられた。
因みに、国王陛下から叙勲されるのは僕とクリス様でラミアは女王陛下から叙勲される。
これは今回の勲章が首から下げるような勲章ではなく、礼装の胸に直接付けるタイプの勲章なので、国王がラミアの胸に勲章を付けることを楽しみにしていると侍従長に告げた数刻後、侍従長から式の流れを聞いた女王陛下が国王陛下の下に現れて、
「女性でありながら、討伐軍に参加し、目覚ましい功名を挙げた女性魔術士には、私が直接叙勲したいですわ。」
とニッコリ笑みを浮かべたことにより、国王陛下はがっくりと項垂れて式の流れが一部変更されたらしい。
そんなことは緊張しすぎた僕の頭からは吹っ飛んでいたけど、僕はクリス様の猛特訓のおかげで失敗することなく無事に叙勲式を終えて唯一の楽しみである立食パーティーに臨んでいる。
因みに、僕は神官服の礼装なので白を基調とした色合いなので、汚さないように真剣に料理を食べていた。
クリス様は騎士服の黒を基調とした礼装で(これも後から聞いたら僕が白の礼装なのであえて、目立たないように黒の騎士礼装を選んだとのことだった。)、ラミアは魔術士の礼装だと思ったら、白を基調に差し色にオレンジ色を入れたドレスにしてきていた。
これは魔術士服装の中にはスカートがなく女王陛下からの要望で遠目でも女性と判るようにドレスで、更に勲章が目立つように白を基調としたものと要望あったので、このドレスになったらしい。
いやはや女性は大変だね。
パーティーの終わり間際に、だいぶお酒を飲まれたのか、顔が真っ赤になっている国王陛下から発表があると告げられた。
拡声の魔術が使われて会場内の全ての参加者に届くようになった国王陛下の声が、
「この度、勇者ラーレよるゴブリンロード討伐について、余の配下からは叙勲だけでは足りないのではないかと意見具申があった。余も隣にいる女王もその意見には同意している。」
国王陛下は一息ついて、
「よって、勇者ラーレは余の娘である第2王女サイサリスとの結婚を結婚を認める。」
会場の参加者からはどよめきがあがる。
それはそうだ、国王陛下は女王陛下以外には側室はおらず、王太として王子がおり、すでに王太子妃が居られる、第1王女はすでに他国の王太子に嫁いでおり、次期女王として他国で教育を受けていて、第2王女は成人となった2年前から嫁ぐのか、それとも婿を取るのか、何も国民には知らされていない中で、僕との婚約が告げられたのだから、周囲も騒ぐのは当然だろう。
呆然とする僕の肩をクリス様が叩く。
「おいおい、ラーレ!何をぼーっとしているんだ。早く国民陛下の下に行け。」
ラミアも少し呆然としていたけど、
「そ、そうよ!ラーレ!早く行かないと!」
ラミアの目がどことなくキツくなっていたけど、これも僕が馬鹿にされないために早く国王陛下の下に行かせるためだろう。
一向に動かない僕に業を煮やしたのか、クリス様とラミアが僕の両脇から支え、国王陛下の下に行かせる。
「おう!勇者ラーレよ!よくきた。貴殿も聞いたであろう!さあ、我が娘、サイサリスの下に行くのじゃ!」
僕はクリス様に促されるままに国王陛下に頭を下げ、次に第2王女の下に行く。
ラミアが、密かに魔術を使い、僕にテレパシーで第2王女に告げる言葉を教えてくれので、僕はラミアに教えられるままに第2王女に告げる。
「第2王女殿下、先ほど、我が国の太陽であられる国王陛下より、貴女に愛を伝える許可をいただいた幸運な者、勇者ラーレです。貴女を支え、この国に繁栄をもたらせるように尽くしますので、どうか貴女の愛を私に分け与えていただきませんか?」
僕が間違えないようにゆっくりと第2王女に告げると、第2王女はその頬を真っ赤に染め、
「はい。貴方の愛が私だけでなく、この国の隅々まで行き渡り、国民へ幸せもたらせるようにしてください。そして、貴方の努力を私も支えられるように尽くします。」
と応えていただいた。
すると、国王陛下が再び拡声魔術が付与された声で、
「第2王女サイサリスと勇者ラーレの婚約はなった!これより1年後の吉日に2人の結婚式を執り行う!皆は是非参加して2人を祝福してくれ!」
と国王陛下が告げると、参加している貴族全員が頭を下げ、
「御意!国王陛下!万歳!第2王女万歳!勇者ラーレ万歳!」
と声を揃えて僕らの婚約を祝ってくれた。
どうやら、これが隠されていたことらしい。
「やったな。ラーレ!おめでとう!」
クリス様が僕の肩を叩き、祝ってくれる。
「よかったわね!ラーレ!幼馴染として、私も鼻が高いわ!」
ラミアも僕を祝ってくれた。
僕は、2人を見て、
「クリス様、ありがとうございます。ラミアもありがとう!」
と、笑顔で告げる。
そして、ラミアを見るけど、とても嬉しそうだ。
そのラミアの笑顔を見ると、僕はそう遠くない未来に言おう思っていた言葉を心の底に封じた。
『ラミア、昔から君のことがずっと好きだよ。僕と結婚してくれないか?』
もう告げることができない愛の言葉を・・・。
僕が気もそぞろにラミア達と話をしていると第2王女殿下の侍女が僕達のところにきて、僕に話しかけてきた。
「勇者ラーレ様、第2王女殿下がお話したいことがあるとのことです。至急の話ではないのですが、よろしければ、このあと別室でとのことです。」
侍女は僕の応えを待っているが、僕はクリス様とラミアの顔をみる。
侍女も心得たもので、僕の視線に気付くと、
「第2王女殿下は閃光の騎士様と焔神の申し子様がご一緒でも構いませんとのことです。」
ラミアは侍女の言葉を聞いたが、
「さすがに、婚約の契を交わした日に邪魔をするような野暮ではないですよ。失礼ながら、最近、討伐任務が重なったために研究が疎かになっています。勇者ラーレは婚姻の関係で、しばらくは討伐任務にはつかないと思いますので、この際、研究を進めたいと思いますので、これにて失礼致します。」
ラミアは一礼して出口に向かう。クリス様は、じっとラミアの後ろ姿を見送ると、こちらを向き、その美貌に相応しい笑顔を浮かべ、
「小官も武骨な騎士なれど人の恋路は分かっておりますので、ご遠慮いたします。それに侍女殿もご存知のことと思いますが、小官は勇者ラーレには及ばないですが、美しき令嬢や侍女達から嬉しいお誘いを受けております。本日はこの辺で失礼いたします。」
と侍女に向かって優雅に一礼した。
第2王女の侍女はクリス様の笑顔に見惚れていたが、ハッと気付き、
「分かりました。では勇者ラーレ様だけご案内いたします。」
そう言って、僕を促す。
「クリス様、それでは失礼いたします。」
僕がクリス様に一礼すると、クリス様はひらひらと手を振って、
「第2王女殿下に失礼の無いようにな。」
とクリス様はニッコリと笑って僕を送り出してくれた。
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