第28話 集う絆たち
「姫、ただ今お迎えに上がりました!」
会いたくてたまらなかった愛おしい人が、今、目の前にいる。
「レオ、どうして……」
「貴女が2度目に攫われたあの日、俺もすぐにあとを追いました。しかし、行く先で大規模な森火事が起こっており、それを鎮火しない限りK王国には近付けなかったのです。
姫、迎えが遅くなり本当に申し訳ありません……!」
「そ、そうじゃなくて! 私たちのこと、迎えに来てくれたの? どうしてK王国にいるって分かったの?」
「そこにいる賊の
レオはフレムドを睨めながら、私を抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「あの日……姫を攫った犯人をこの男だと察知した時、怒りで我を忘れそうになりました。冷静な判断が難しく、初めは火の海に溺れてでも単独でK王国に乗り込もうとしました」
そして、今度はレオがある方角へと目を向ける。
私は彼の言葉に不安さを覚えつつも、その視線を
すると、そこには黒ずくめの男たちを次々に仕留める、あの黒猫白猫の兄妹の姿が。
「ですがジュジュに、姫にはリヴィが付いているから大丈夫だと……自分たちのことをもっと信用しろと
今世における姫の幸せを願うのは、俺だけではないのだと」
私は少し眉を落とし、兄妹を見やる。しかしその時、不可解なことにも気付く。
「レオ……ジュジュとリヴィ、何だか腕に怪我してない?」
二人の戦闘能力が人間は
「ああ、あれは戦闘で負ったものではありません。二人ともが自身で付けた傷です。
ジュジュはK王国に我々が到着したことをリヴィに伝えるため、リヴィは姫の居場所を俺たちへ教えるために」
「えっ……」
「俺たちは獣人です。知っている者の血の匂いであれば、たとえそれが100キロ離れていようと嗅ぎつけることが出来ますから」
私は言葉が出なくなった。
「貴女がどこにいても、俺たちは必ず見つけ出します。必ず貴女を守り抜きます。どうか、それだけは忘れないでいて下さい」
レオが強い眼差しで私を見つめてくる。
その思いは揺るぎないものだと、まるでこちらに示すかのように。
「……君たちは、一体何なんだ?」
すると、フレムドが剣を地へと突き立てながら、ふらりと立ち上がった。
「どうして、君たちはそれほどまでに互いを信じ合っているんだ?
ルカもルカだけど、犬王太子。君が……君たちがルカと知り合ったのなんて、ほんのひと月前のはずだよね?
そんな浅い関係でしかないはずなのに、どうしてこの子のことを命懸けで守ろうとする?
どうして獣人の君が、人間であるルカのことをそれほどまでに愛しているんだ?」
フレムドが眉を寄せながら私とレオを交互に見やってくる。
「……どうして、だと?」
レオがフレムドを一瞥し、鼻を鳴らした。
すると、戦闘を終えたであろうジュジュとリヴィもこちらへと駆け寄ってきた。
彼らはレオと私の両脇に並び立つ。
「はっ、愚問だな。俺たちは姫に、100年以上前から信頼と尊敬の念を抱いている。
この人ともう1度巡り合い、彼女の幸せを守るため今世に生を受けたのが俺たちなのだ」
「100年……?」
「そうだ。だが実のところ、出会った時がいつか、共に過ごした時間がどれほどのものかなど、そんなことは関係ない。
俺の願いは姫の夢が叶うこと。
……今まで姫に刃を向けてきた者たちは、正直全員憎い。だが、この人が大陸の均衡と平和を望んでいるなら、余計な争いはしない」
レオが唇に手を寄せ、指笛を鳴らした。すると国境となる森の方から、世にも珍しい動物に跨るN王国騎士団の者たちが姿を現した。
「 "
「N王国の軍馬だ。……ああ、そういえばK王国では騎士団とは名ばかりだったな。見たところ、どうにも歩兵が多い」
「……どうしてそんなことを君が知っているのかな?」
怪訝な面持ちのフレムドだったが、次の瞬間、彼は開眼せざるを得なくなる。
N王国騎士団の後方から、今度は
肌に鱗を持つ彼らは、おそらく
そしてさらに、その上空には大きな鳥毛を羽ばたかせている者たちの姿も。
さすがにもう決定的だ。彼らはM王国出身の
「レオンハルト。国境付近に潜んでいたK王国の騎士たちですが、全て捕縛しましたよ」
「城下や郊外に移動中だった奴らもだ。
全く、こんな面白い話があるならもっと早く教えろってんだ!」
すると、その集団の中から爬人と鳥人の男性2人が、私たちの方へと歩みを寄せてきた。
「すまんな、2人とも。世話をかける」
「何だよ、水臭え……っと。この子が噂の、レオンハルトのお
「こら、突然近付いては娘さんが驚くでしょう? すみません、この者が失礼を」
レオと彼らはとても親しげに言葉を交わしている。
この2人は他のH王国、M王国の人たちに比べると比較的軽装。軍人ではなさそうだが、レオの知り合いなのだろうか?
「姫、申し遅れました。この2人は俺の友人、H王国で神官を務めるハリーファと、M王国の族長の1人、アデルという者です」
「あっ、えっと……初めまして、ルカ・ヒュギエイアと申します」
職業も身分もバラバラそうだが、なんとレオの友人たちとのこと。
私は腰を折ってお辞儀をし、2人と握手を交わした。
「……柔い手だな。人間の女ってのは、みんなこんな
「そんなことはありませんよ。……例え手が柔くとも、信念を持つ方々は心の核がとても強いのです」
そんなことを話す彼らを、思わずじっと見つめてしまう私。
完全なる鎖国国家で育ち、他国の人たちとの交流を全く持ってこなかった私には、この光景がとても不思議だった。
大陸の4国全ての人種が集まり、言葉を交わし、手を握り合うこの瞬間が。
「姫、彼らが協力を買って出てくれています。すぐに毒病患者の治療を開始しましょう。貴女が以前お作りになった大回復薬も持参しております」
とても温かく、心地良い何かを感じる。
さまざまな色彩が1つに溶け込めば、本来は黒灰色となるはず。しかし、この空間にそんな濁りは全くない。
「……はは、想像以上だったよ。本当に、ルカには驚かされてばかりいる。
君の花婿になるのは……ちょっと荷が重いかもしれないね」
皮肉げに、私へそう言葉を放ってきたのはフレムド。
彼は大きく息を吐き出した後、自身の剣を手放し、両手の平を私たちへと向けた。
「こうなったらお手並み拝見だよ。
この "毒病事変" にどんな終結の方法を取るのか、この混沌とした大陸にどうやって光を注ぐつもりなのかもね」
薄く笑うフレムドを、私は負けじと睨め返す。
「今の私はもう、1年前のようにたったの1人ではありません。
逃げなくても諦めなくても、いつだって
さらに、目前にいる彼らへと声かけた。
「みなさん、どうか力を貸して下さい。
大回復薬を
それと城下や郊外でも毒病を
でもあなた方も感染しないよう、くれぐれもお気を付けて。鼻と口もとには必ず、布を巻いて行動して下さいね」
皆は真剣な面持ちで、しかと頷いてくれた。私はお礼を言って、各持ち場へと移動していく彼らを見送る。そして。
「レオ、本当にありがとう。あなたたちがいてくれたから、毒病に苦しむ人々を助けられる。
……あなたが私のことを魂ごと愛してくれるから、聖女に生まれたことも誇りに思えるようになった」
レオの瞳をまっすぐに見つめ、この言葉を伝える。
すると、彼はとても眩しい太陽のような笑顔を見せてくれた。
「決して姫を1人にはしません。ずっと、貴女のお
この美しい笑みが力を与えてくれる。
今の私にはもう、恐れるものなど何もない。
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