第13話 糸
「レオ、重くない?」
「天使の羽かと思うくらい軽いです!」
私は今、レオにおぶわれながら森の中を移動している。
賊たちが一旦撤収したため、私たちもN王国への帰路に着いているのだ。
「レオもジュジュも、探しに来てくれてありがとう。それと……夜、勝手に外へ出ちゃって本当にごめんなさい」
「いいえ、姫を1人にしてしまった俺が悪いのです。……貴女を守ると言いながら、こんな目に合わせてしまって」
レオの声が少し震えている。
隣を歩くジュジュを見やると、彼は小さく息を付いていた。
「ルカ殿がご無事で何よりです。
それと、王太子殿下。今後の話がややこしくなる前に、先に例の誤解を解かれた方が良いのでは?」
「ハッ! そうだった……!」
レオは大きく深呼吸した後、ほんの少し私の方へと振り返った。
「姫。本日の夕暮れ時、俺の部屋にはアイリス嬢が来ていました」
「……うん、知ってる。その、2人はお付き合いする感じなの?」
「死んっっでもいたしませんっ! まっっっったくの誤解ですっ……!!」
そして悲痛な声で、私にこう訴えてくる。
「アイリス嬢は姫を魔女に仕立て上げ、火炙りの刑に処せようとした張本人。そんな
「そ、そっか……」
レオの気迫に押され、聞きたいことが一瞬全部飛びそうになってしまった。
「と、ところで。アイリスとは今日、どんな話をしてたの?」
「……昼に城下を訪れた時、アイリス嬢は今後、N王国にも毒病が広まることを示唆するような発言をしていました」
「えっ?!」
「しかも、それを謀っているのはK王国の魔女だなどとほざいたのです。そのため彼女には、そんな馬鹿げた失言ばかりするのであればそれ相応の因果応報を覚悟するようにと伝えました」
思わず、全身に力が
これ以上一体何のために、大陸へと疫病を蔓延させたいのか。
もし自分たちの私利私欲のためにそのような策を企てているというなら、絶対に許してはいけない。
「……アイリスとはそんな話をしてたんだね。話してくれてありがとう。実は私からも報告があるの」
今夜の出来事を1つ1つ頭の中で整理しながら、レオとジュジュに伝えていく。
「アイリスのお父さんが受け取ってたものは十中八九、毒病の元になる毒薬だと思う。さっきのレオの話で確信出来た」
「……なるほど。あとは、新月の夜に咲く "
「僕も実物は見たことがありません。花に毒の成分を含んでいるかもしれないというのも初耳です。……しかし、1つ気がかりなことが」
ジュジュは顎に手を添えながら言葉を紡ぐ。
「王太子殿下。先程貴方とやり合っていた者…… "
「そうだ」
「あの賊たちは宰相閣下の依頼で月無薬花を集めているとのこと。しかし、殿下が毒を喰らったことについては閣下には話していないと」
「そう言っていたな」
「ならば、宰相閣下と彼らは主従のような関係ではありません。
さらに、あの
「……あの男、どうもきな臭いな。やはり捕らえておくべきだったか」
確かに、不思議な人物だった。
「剣の腕前も他の者たちとは一味違っていた。自己流の荒いものではなく、ちゃんと師に教わっている太刀筋だった」
「そうですね。もちろん殿下の剣捌きには敵いませんが、それでも貴方の攻撃を何とか受け止めきれるくらいの腕はあったように思います」
「そうなると、絶対にあって欲しくはないがN王国騎士団に所属する者か、それとも上級、中級貴族の出か」
レオとジュジュの会話を聞きつつ、私はそう言えば……と思い出す。
(あの人。去り際に確か、古いナンパの決まり文句みたいなことも言ってたよね)
"オレたち運命で結ばれていたりしない?"
"君とは今日初めて会った気が全然しないんだ。前にどこかで出会っているのかも"
……けれど。
彼は私を地に押さえ込んで、死を
私は思わず身震いした。
「姫? どうかされましたか?」
レオに声をかけられ、ハッと意識を戻す。
どうやらいつの間にか、腕や足に力が入り込んでいたようだ。
「……姫、この話はまた明日にしましょう。良ければこのまま少しお休み下さい」
「……ごめんね、気を遣わせて。でも、2人だってきっと疲れてるはずだし、私だけ寝させてもらうのも……」
「姫。俺ではやはり、役不足ですか? もう貴女の抱き枕にはなれませんか? 今の俺の背中は硬くて、前世みたいにモフモフしていないからっ……」
「ええっ?」
戸惑いつつレオの顔を覗き込むと、彼は眉を下げて唇を尖らせていた。
……そんな姿を見て、私はちょっぴり笑ってしまう。
「ありがとう……じゃあお言葉に甘えて、少し眠らせてもらうね。あと、今世のレオもモフモフしてる所はあるじゃない」
私は彼の両耳へと手を伸ばす。
「相変わらず可愛い耳。ねえレオ、この左耳の傷はもう痛くないの? 大丈夫?」
「……はい」
「良かった」
やはりモフモフには癒し効果があるようだ。先程の嫌な記憶も少しずつ和らいでいく。
「レオ。あとね、言いそびれてたことがあるの。あなたにもらったブレスレット、どこかで落としちゃったみたいで……その、ごめんなさい」
「そのようなことで謝らないで下さい。姫がご無事だったことが1番大事ですから。
良ければまた、何か別のものでも見繕います。どうか今は何も気に病まず、お眠り下さい」
「……うん」
私はレオの胸前に腕を回す。
(レオの背中は昔も今も変わらないな。暖かくて、安心する)
そしてその広い肩に顔を
(……アイリスとは何でもないって聞いて、私すごくほっとしちゃってる)
私は自身の左手首にもう片方の手を重ねる。
(やっぱり、前世の時みたいにレオと突然離れ離れになるのはもう嫌だ。
この人と私を繋いでくれてる大事な糸が、今度こそ途切れないようにしたい)
そんなことを切に願いながら、私はゆっくりと
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「お
仲間の1人にそう声をかけられ、
「綺麗なブレスレットだね。これは琥珀かな?」
「こんな上等そうなもの、オレたちの中で付けてた奴なんかいます?」
「いや、どう見ても女性用でしょ。君たちの腕に通したりなんかしたら、間違いなくちぎれるよ」
「なら、あの
「きっとそうだろうね。……そう言えば、あの犬王太子君も同じようなものを付けていた気がする」
男は仲間からそのブレスレットを受け取った。
「まあ、それはそうと。あの子は今頃、大事なブレスレットをなくしたと思って悲しんでいるのかな」
そして、口もとにゆっくりと弧を描く。
「そうだ。これを持って、また近いうちに彼女を訪ねよう。
もう1度会えば、運命の赤い糸で繋がっている相手はオレなんだって、きっとあの子も気が付いてくれると思うな」
男はルカのブレスレットを指で弾きながら、ベロリと唇を舐め上げた。
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