二人ー2 デートと地獄

「どうしてこうなった……」


 二人の仲が険悪になってしまったその日の夜、正太は部屋の中をウロウロしながら頭を抱える。自分の事を好きな女性二人が喧嘩をしている……本棚に並ぶラブコメ漫画の主人公はそんな状況でも特に困った様子は無く、俺の事を好きだなんてきっと勘違いだろうと鈍感っぷりを発揮していたが、正太の鈍感スキルは二人によって無理矢理ナーフされてしまったし、難聴スキルも持っていない。


「僕は彼女とかはもう少し大人になってからのつもりだったからいきなり好きだなんて言われても困るよ……」


 同級生に聞かれたら殴られそうな独り言を呟きながら、どちらかに刺される覚悟でどちらかを選ばなければいけないのだろうと、恋愛願望というよりは責任感から二人の好意に向き合おうとする正太。とりあえず現状分析をしようと、ノートに倫と紅露美のスペックや今までの思い出等を書き記していく。


「倫会長は純粋にスペック高いし、ルックスも整ってるし……でもちょっと真面目過ぎるっていうか……紅露美さんは一緒にいて楽しいし、何より無理矢理キスしちゃったけど、毎日相手をするのは疲れる気がするんだよね……ああ駄目だ駄目だこんな比較するような真似して最低だよ……」


 しかし倫や紅露美に負けず劣らず恋愛経験の乏しい正太は考えれば考えるほどドツボにハマってしまい、まともに答えを出すことができない。こういう時は専門家に話を聞こうとネットで恋愛関係のサイトを調べ始め、相性を確かめるために何度かデートをしようという一般的なアドバイスを参考にしようとするが、自分達は高校三年生で受験生。自分も倫も、紅露美ですらも受験勉強に励んでおり、そんな悠長な事をしている余裕は無い。時間効率も考えなければいけない正太の出した結論は、


「……三人で遊園地行かない?」

「三人で、ねえ……生徒会の任期も終わったし、息抜きにもなるし、私は別に構わないが、宝条さんはそんな事をしてる余裕があるのか?」

「おーおー生徒会長引退して優等生でいる必要が無くなったからって煽りますねえ? それがてめーの本性かよ……ウチは全然構わないぜ? 遊び慣れてない元会長様に正太を楽しませる事なんて出来ねえよ」


 三人でデートに行くという地雷原にダイナマイトを巻き付けてダイブするようなモノであった。再び集められてお互いを睨みつけ、バチバチと火花を散らしながらも二人はデートを了承し、週末に三人は遊園地に集う。


「ぼ、僕は特に行きたいアトラクションとかないから、二人が決めてよ」

「それじゃあお化け屋敷に行こう。文化祭の時は忙しくてお化け屋敷に行けなかったからな」

「はーこれだから自分の事しか考えない女は。お前はお化け屋敷に行ってないかもしれないが正太は行ってるんだよ、お化け屋敷の前で正太に出会って折角だし一緒に入ろうぜと誘おうと思ったら、クラスの友人達と一緒にいることに気づいて結局声をかけられなかったちょっと虚しい思い出があるからな……よし、今日は邪魔者もいないし一緒に入ろうぜ正太!」

「頭が悪いと自分の発言が矛盾している事に気づかないみたいだな」

「まぁまぁ二人とも仲良くしようよ、お化け屋敷は何度行っても楽しいからさ、僕は二回入るよ。ささ、倫会長、行きましょう」


 相性の良さを確かめるという意味でデートをするつもりだった正太ではあるが、二人の険悪な状態にそんな事を考える余裕は生まれず、とりあえず機嫌を取ることに徹しようと紅露美に睨まれながら倫の手を取ってお化け屋敷の中に入る。


「怖かったら私を頼っていいんだぞ。……ふむ、迷路になっているのか。いいか、こういう時は右手の法則を使ってだな……」

「倫会長、もう少しゆっくり見ませんか?」

「もう会長じゃないんだし、名前で呼び捨てして欲しいんだがな……むっ、あの井戸を見ろ、絶対に貞子っぽいのが出てくるぞ、ダッシュで駆け抜けよう」


 特に怖がる様子も無く、持ち前の頭の良さで迷路もすんなりと攻略した結果、特に叫び声をあげたりする事無く、非常に短時間でお化け屋敷を抜け出す倫と、彼女と手を繋ぎながらお化け屋敷を堪能しようとするも、倫があまりにも速いペースで進んでいくためきちんと見て回ることの出来なかった正太。二人の様子を見てうまく行かなかったことを悟り、ほくそ笑みながら次は自分と一緒に入る番だと正太の手を取る、というよりは軽く抱き着きながら、倫にキレられながらお化け屋敷へと入っていく紅露美。


「きゃーこわ~い」

「紅露美さん、別に怖がってないよね」

「お化けにビビッて抱き着かれるのは男のロマンだろ? こんな子供騙しのお化け屋敷、誰がビビるかってんだよ、まぁ恋人になるわけだし? サービスだよサービスぐぎゃあああああああああっ!? た、助けてくれ!」


 わざとらしく猫なで声を出しながら正太に抱き着く紅露美であるが、子供騙しという発言は強がりだったらしく突然井戸から出てきたお化けに絶叫してガクガクと正太の身体を揺さぶる。その後もお化けが出てきてパニックになったり、自信満々に迷路のナビゲートをしようとするも記憶力の低さから同じ場所を何度もうろついたり、倫の数倍の時間をかけて二人がお化け屋敷を出る頃には、両者とも疲れ果てていた。


「遅い! 一体どうやったらあのお化け屋敷でこんなに時間がかかるんだ……ま、まさかお前暗闇であることをいい事に正太を無理矢理」

「いやー、ウチもお化け怖がって抱き着いてたりしてたらさ、正太が発情しちゃって」

「話がこじれるから変な嘘つかないでよ……ささ、次行こう次」


 二人とも相性悪いのではと考えながらも、とにかく二人の機嫌も取りながら色々試してみようとその後も二人の行きたいアトラクションに従う正太。しかし倫と紅露美の仲が険悪な事もあり、楽しいデートとも相性を確かめる事が出来るデートとも言い難い展開が続く。


「ママー、何であの男の人、彼女が二人いるの?」

「しっ、見ちゃいけません」


 道行く子供に指をさされながら、無言の倫と紅露美に挟まれながらベンチで休憩をしようと提案する正太。正太としては三人で一緒に楽しめるアトラクションは三人で参加したかったのだが、倫も紅露美もそれを嫌がっているため正太が二人で参加を二回繰り返すことになり、結果として正太の体力だけがどんどん削れていく。


「ほら正太、スポーツドリンクだ。これを飲め」

「へへ、これでも飲んでまた二人で乗り物とか乗ろうぜ」


 ベンチに座りぐったりとする正太に、二人は気を利かせてそれぞれ飲み物を買ってくるが、同じタイミングで正太に渡そうとしたため、またもや喧嘩が勃発してしまう。


「疲れてて汗もかいている時にコーラなんて飲ませるな」

「はぁ~? アスリート気取ってる癖に知らないのか? 炭酸抜きコーラはエネルギー効率が極めて高いらしいんだぜ? それに炭酸が加わる事で最強なんだよ! そっちだってな、スポーツドリンクは角砂糖数個分の糖分があるって言うじゃねえか、正太を太らせる気かよ?」

「コーラの方がもっとあるに決まってるだろう……スポーツドリンクは塩分が入っていてだな……」


 どちらが正太に買ってきた飲み物を飲ませるかで言い争いをし始める二人。そんな二人の様子を疲れからぼーっと眺めていた正太であったが、気づけばその目元からは涙が流れており、ひくっ、えぐっ、と少しずつ嗚咽し始める。突然泣き始める正太に気づき、喧嘩を止めて心配そうに顔色を窺う二人。


「僕が、言っちゃ、いけない、セリフかも、しれないけれど……二人には、もっと、仲良く、して、欲しい、んだよ」


 そんな二人に対し、正太は泣きながら、二人の女性に恋心を持たれるとは思えないような情けない表情と嗚咽で途切れ途切れの声で、仲良くして欲しいと懇願するのであった。

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