二人ー1 譲り合いと女の争い
「……というわけなんです。僕、どうすればいいんでしょうか」
高校三年生になってしばらく経ったある日。倫は正太に紅露美との関係について問いただし、正太はバレては仕方がないと色々と白状をしながら、そのまま倫に対し恋愛相談を持ち掛ける。自然な流れでフラれてしまった倫は悲しい目をしながらも、大きく深呼吸をして精神を統一させた後、
「責任を取って、宝条さんと付き合うべきだ。宝条さんはお前の事が大好きなんだ。ああいう普段は強気に吠えてるタイプは強引にされるのが好きなんだよ。今すぐにでも彼女の下に行って抱きしめてキスをしてやるといい。今後はあまり私とも一緒にいない方がいいな、色々と勘違いされる。それじゃ」
自分の恋心を打ち明けることなく、頼れる生徒会長として精一杯の笑顔を見せたのち、その笑顔が涙で溢れないうちにそそくさと生徒会室を出ていく。そのまま廊下で出会った生徒や教師にも笑顔を保ち続けていた倫であったが、個室のトイレに入った瞬間ポロポロと涙を流し始める。
「薄々は、感じてたんだ……自分の勘違いなんじゃないかって。でもそれをはっきりと聞く勇気も無くて、生徒会という立場を利用してなぁなぁでやってきて……その間に正太は宝条さんと友人として、男女として仲を深めていたんだ……私には勝てない。あの場で告白をして正太と付き合えたところで、うまくやっていく自信が無い。だからこれで正解なんだ、これで……」
倫が敗北宣言をしている最中、正太は尊敬する倫に言われた通りに紅露美を人気の無い場所に呼び出す。あの日以来かなり疎遠となっていただけに、久々に正太を真正面から見ることになり顔を背けながらも用件を聞く紅露美。
「いきなり呼び出して何の用だよ? 生徒会長と付き合うことになったからキスは出来ないって報告か? お幸せにな。キスはもういいよ、冷静になったし……わぎゃあ!?」
あの日の出来事で若干立ち直った紅露美はきちんと学校にも来ているしそれなりに真面目に将来を考えるようにもなっており、卒業式にキスをするなんて恥ずかしい約束はもう無かったことにしようと考えていたが、それを強がりと判断した正太は強引に紅露美を抱きしめて唇を奪う。数秒間されるがままとなっていた紅露美であったが、我に返り思いきり正太を突き飛ばす。
「な、何しやがんだてめー! 生徒会長が身体を許してくれないからってウチで代用しようってか? ふざけんじゃねー!」
「ごめんよ紅露美さん。僕の曖昧な態度がずっと紅露美さんを苦しめていたんだね。でも僕も男だ、責任を取るよ。付き合って欲しい」
「……どうやら誰かに入れ知恵されたみたいだな。説明しろ」
突き飛ばされてもすぐに立ち上がり、紅露美への愛を語る、日頃とはかけ離れたキャラとなっている正太に対し、第三者の介入があったことを悟った紅露美はキスをされたことで若干にやけながらも正太に事情を説明させる。
「……それで倫会長に紅露美さんとの関係を話したら、責任を取って付き合えって」
「お前、本当にどうしようもなく頭が悪いのな」
「失礼な。紅露美さんよりは遥かにマシだよ」
「いつも一緒にいる女が自分に恋してる事も気づかずに恋愛相談するような馬鹿が何言ってんだ。今すぐ生徒会長のところに行って土下座して告白しろ。んじゃな」
「……え?」
倫が正太に恋愛相談を持ち掛けられ、望みは無いと思って恋心を打ち明ける事無く自分と付き合うように誘導した……日頃の低い学力からは想像もつかないような察しの良さを発揮した紅露美は、倫が正太を好きだという今まで知らなかった情報に固まっている正太に倫と付き合うようにアドバイスをしてその場を去っていく。最初こそキスをされてにやけていた表情であったが、段々と目に涙が浮かび始める。
「あいつにとってウチは手のかかる妹みたいなもんなんだろうよ……だから付き合ったってうまくいかないに決まってる。ウチなんかより生徒会長の方が頭もいいし綺麗だし。正太だって、凄いいいやつなんだよ……あいつの人生、ウチがダメにしたくねえんだよ……う、ウチだって、Fランくらいなら一人で勉強してどうにかなるから、生徒会長と一緒に難関大学入って、エリートカップルになって、幸せになってくれよ……」
紅露美が自分に対する劣等感から敗北宣言をしている最中、正太はぽかーんとしながらも自分の家に戻り、部屋で冷静になって現状を分析する。ネットで恋愛のエピソードを見たり、部屋にあった漫画を読んだりと、今までの人生で無かった展開に色々と試行錯誤しているうちに、
「あ、これ誰も得しない展開だ」
自分が二人の女性から好意を寄せられているが、二人とも譲り合っているためこのままではどちらとも付き合えないかもしれないというバッドエンドルートに突入していることに気づいてしまう。彼女と作るために倫や紅露美と関りを持った訳ではないとは言えど、こんな結末は後味が悪い、倫の言う通り何らかの形で責任は取らなければならないと悩み始める。そして正太が解決のために取った行動とは、
「……えー、本日はお集まりいただきありがとうございます」
「……」
「……」
生徒会室に倫と紅露美を呼び出して、この三角関係をどうするかについて当事者達で話し合うという、地獄のような解決策であった。正太はこういうやつだもんな、と呆れ顔の倫と紅露美に対し、気まずさを感じながらも正太は恥ずかしそうに二人とも僕のこと好きなんだよね? と問いかける。
「……別に。正太が私の事を好きだと思っていたから、まぁそれなりに優秀な男だし、まんざらでもないかなって思っていただけだ。好き! って程じゃない」
「ウチも、ちょっと精神的にきつかった時期があったから、支えてくれる男が一時的に欲しかっただけで、その時近くにいたのが正太ってだけだし。普通に男友達だって他にいるし、こいつじゃないとダメって訳でもねーよ」
すぐ近くに恋敵がいる状況で本人に好きという気持ちを伝えることが難しい二人は当初こそ恋愛感情はほとんど持っていないと譲り合おうとするものの、正太との思い出話をしたりと話が進むにつれて段々と二人の本性が剥き出しになっていく。
「私は宝条さんよりも遥かに昔から正太と一緒にいたし。生徒会室で二人きりで何度も和気藹々とお部屋デートだってしている。大体何だ? 万引きをしようとしたのを咎められたのがきっかけで知り合ったって。ふざけてるのか? その後も煙草を吸うだのお酒を飲むだの、私の正太を悪の道に引きずり込まないでくれないか?」
「正太は別に品行方正ないい子ちゃんじゃねえんだよ。本質はウチと同じようなダメな人間なんだ。生徒会長と一緒にいるのはたまに疲れるって普段から愚痴を聞いてるぜ? 放課後に生徒会室で一緒に作業? そんなもんがデートのうちに入るかよ、こっちはファーストフード店で一緒にご飯食べたり公園で駄弁ったりしてんだ、ずっと青春してるだろうが。正太をお前の真面目すぎる生き方にこれ以上付き合わせるな、解放しろ。それにな……ウチはこいつに初めて(キス)を奪われてるんだよ!」
「き、貴様……!」
正太への恋愛感情を隠すことなく、自分こそが正太にふさわしいと口論を繰り広げる二人。そんな二人に圧倒されて何も言えなくなっていた正太は意を決して仲良くしようよと宥めようとするが、
「「お前が思わせぶりな態度を取り続けた挙句ちゃんと選ばないのが悪いんだろうが!」」
当然ながら火に油を注ぐ結果となり、二人に正論を突き付けられて俯いてしまう。結局正太の取った作戦は、両者の仲を険悪にさせるだけで終わってしまうのだった。
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