4-2 パパ活と購入代金650円

「お前、絶対に打ち上げとかで酒は飲むなよ」

「だから僕は一体何をやったんだよ、教えてよ」

「絶対に教えてやんねー」


 紅露美の髪からワインの匂いが取れる頃、正太と紅露美は放課後にファーストフード店で食事をしながら世間話を続ける。その最中、正太は近くの席にいた中年男性と女子高生をやたらと気にしており、その二人がお店から出て行ったのを確認した後、さっきの二人見た? と紅露美に問いかける。


「全然似てない親子だったね」

「ありゃあパパ活だろ」


 二人が親子にしては全く似ていなかったことが気になっていた正太であったが、紅露美は二人が本当の親子では無い、パパ活をしている疑似親子だと推測する。


「単語はよく聞くけど具体的にパパ活って何をするの?」

「……まぁ、おっさんが金出して、デートすんだよ。カラオケとか、服買ったりとか」


 最近になってよく聞くようになった言葉ではあるが、実際には何が行われているのかを知らない正太は詳細を紅露美に尋ね無自覚なセクハラを行う。紅露美はお店の外に見えるラブホテルを見ながらも、正太に詳細を説明するのが恥ずかしいからか、援助交際を言い換えただけだとは説明せずにあくまで健全なデートだと説明をする。


「カラオケとか服買ったりとかも、結局男がお金を出すんでしょ? それなのにデートをするのにもお金が必要なの?」

「おっさんはそれくらいしてでも若い女とデートがしたいんだろ。お前もおっさんになればわかるんじゃねーか?」

「ふぅん……」


 お店の外でどこかへと、恐らくはラブホテルへと去って行く先ほどの疑似親子を眺めながら、正太はデートってお金出してでもやりたいものなのかなと考える。先日倫と一緒に自分の理想的なデートプランを考えはしたし、自分の事を好きだと勘違いした倫が、自身の恋愛経験も乏しいとは言えどあっさりと恋愛感情を抱くに至るくらいには女子受けは良い方だが今まで恋愛らしい恋愛をした事の無かった正太は、紅露美がぼかした説明をしていることを抜きにしてもデートの楽しさについて悩むことになる。


「……レシート持ってる?」

「あ? これか? 奢ってくれんのか?」


 悩んだ末、紅露美に今食べているハンバーガーセットのレシートを見せて欲しいと要求する正太。紅露美がトレーに置いてあるレシートを正太に手渡すと、財布から代金である650円を取り出して紅露美に差し出し、


「これで僕とパパ活しよう」

「……! ぶほぉっ! げふぉ、げほっ……」


 奢ってくれるのかとニコニコしていた紅露美に対し、これでお前を買わせろと宣言して飲んでいたコーラを盛大に噴射させるのだった。




 ◆◆◆



「このコーラ5つ分が、ウチの値段なのか……?」


 週末の公園。紅露美はベンチに座りながら、自分の5分の1の値段のするコーラ缶を眺める。自分でパパ活は健全なデートだと説明してしまった手前、ご飯を奢るからデートをしようよと誘っているにすぎない正太を拒絶する事が出来なかった紅露美は、こうして待ち合わせ場所である公園で正太を待つのだった。


「まぁ、ただのデートだしな。特別な意味は無い」


 自分でただのデートだ、と言い聞かせながらも、その視線は公園からでも目立つラブホテルの看板。紅露美は正太と違い今まで何度か男子とデートをしたり、すぐに別れてしまったものの付き合ったりと年相応の経験はあれど、そういった行為は経験が無かったので、正太にその気は無くとも自分はパパ活をしているんだという認識から顔を赤く染めて行く。


「……つうか何であいつは来ねえんだよ! ウチを買った犯罪者の癖に! ウチが楽しみにして早く来たみてえだろうが!」


 公園に設置されている、10時10分が表示されている時計を見ながら怒り狂う紅露美。集合時間である10時は既に過ぎており、これでは5分前に到着した自分が馬鹿みたいだとベンチに座りながら頭を掻いていると、


「お待たせ」

「うぎゃあっ!」


 ベンチの後ろから正太がひょこっと顔を覗かせ、不意打ちをされた事で紅露美は先日に引き続き飲んでいたコーラを噴射させる。手にもかかってしまいベトベトになった腕を水飲み場で洗いながら、遅刻をして来て悪びれもしない正太を睨みつける紅露美。


「あり得ねえだろ、誘った側が10分も遅刻なんて……」

「ごめんごめん、どうせ宝条さん遅刻すると思って、僕が先にいたら宝条さんが罪悪感を覚えちゃうかなと思ってあえて遅く来てみたんだよ」

「お前はウチに罪悪感をもう少し覚えろ。……んで、どうすんだこっから」


 学校にも定期的に遅刻をしているという紅露美に恥をかかせないように配慮をしたつもりの正太は、スマホを見ながら公園に10時集合という情報以外は何一つ聞かされていない紅露美にこれからのプランを告げる。


「えーと、まずは公園をぶらぶら歩いてお互いの話を色々する、だね」

「散歩デートねぇ……まぁ構わないが、お前スマホにメモするくらい詳細にプラン考えて来たのか? そんなにノリ気なのは悪い気はしねえな」


 正太は先日倫と一緒に作り上げた健全なデートプランのホワイトボードを写真に撮ったものを見ながら喋っているに過ぎないのだが、紅露美は正太が自分とのデートを成功させるためにプランを詳細に考えたと勘違いし、正太の遅刻もすっかり許して上機嫌になり我先にへと公園の散歩コースを歩いていく。


「宝条さんもこの辺に住んでるんだっけ?」

「まぁな。ほら、向こうにある団地の方だよ」

「僕はあっちの方にある住宅街なんだ。小中の地域は別だったんだね」


 並んで歩きながら、交友関係だったり趣味だったりお互いの事を喋っていく二人。二人が思っている以上に話は弾み、公園の散歩コースを何周もして歩き疲れた紅露美はベンチに座ってお腹をさすりながら空腹アピールをする。


「いやー、歩いて腹ペコだぜ。んで、どんな高級ランチを食わせてくれるんだ?」

「プランではお弁当交換なんだけど、宝条さんにお弁当を作るのは難しいだろうから、二人分作って来たよ」


 紅露美の隣に座った正太はカバンから作って来たお弁当を取り出すと、1つを紅露美に渡してお茶を買うために自動販売機へ。お茶を2つ買って戻って来た正太であったが、紅露美が不機嫌そうな表情をしているのに気づく。


「ごめん、高級ランチは僕のお小遣いじゃちょっと。でも味は悪くないと思うよ?」

「いや、そうじゃなくてな……お前『宝条さんにお弁当を作るのは難しいだろうから』つったな? ウチが料理出来ないと思い込んでるな?」

「だってどう見ても料理しなさそうだし……」


 お世辞にも女の子らしいとは言えない紅露美に恥をかかせないように配慮をしたつもりの正太であったが、紅露美からすればそれは大恥であり、そこで待ってろと正太をベンチに座らせたまま自分の家へと走り去っていく。数十分後、戻って来た紅露美は正太に作って来た二人分のお弁当を手渡すと、正太が自分で食べるつもりだったお弁当を奪い取って食べ始める。


「……まぁ、悪くはないけど、ウチの方が美味しいな」

「凄い、彩りとかもちゃんとしてる。料理するんだね」

「人を見かけで判断するなよな。お前はウチの作り立ての弁当を食べられるのに、ウチはお前が数時間前に作った弁当か。ずるいぞ、おかず寄越せ」


 揚げ物ばかりでは無くきちんとレタスやミニトマトのような野菜も入れている紅露美のお弁当に感心しながら、お弁当交換もおかず交換も達成する正太。しかし結果として二人とも二人分のお弁当を平らげたのでお腹がきつくなり、次の場所に向かう前に少し運動しようかと再び公園を周回するのであった。

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