4-1 いちゃつくカップルと健全なデート
「やあ副会長。昨日は休んでいたようだが、風邪を引いてしまったのか?」
「ええ、まぁ……」
記憶を失う程に飲酒をした正太は、翌日二日酔いでまともに動くことが出来ずに学校を休み、完治した翌日は何食わぬ顔で学校で出会った倫に挨拶をする。そんな二人とすれ違い様にチラッと見ながら、というよりかは正太を睨みつけながら、同様に学校を休み、今日もまだ二日酔いが抜けきっていないのかひどく調子の悪そうな紅露美。一日ぶりに正太と逢えて嬉しそうな倫ではあったが、紅露美が通り過ぎた後に怪訝な表情をしながら周囲を気にし始める。
「どうしたんですか会長?」
「いや……アルコールの匂いがしてな。さっきの金髪の女が怪しいと思ったが、どうもワインの匂いっぽいんだ。とてもじゃないがワインを飲むようには見えなかったからな」
「教師が前日に飲んだのが染み付いているのかもしれませんね」
紅露美に飲酒疑惑を向ける倫と、矛先を逸らそうとする正太。正太は全く覚えていないが倒れた紅露美の頭にワインをドバドバとかけたのが原因で、髪からワインの匂いが取れていないし今もまだ軽い酔い状態なのだ。紅露美はやられた事をはっきりと覚えているが余程屈辱的だったからか正太が何をやらかしたかを語ろうとしないため、加害者である正太はきっと僕が飲んでいるのを見て自分も飲みたくなって泥酔しちゃったんだろうなぁと見当違いの推理をしながらこの日の授業を終えて生徒会室へ。生徒会の業務はほとんど無かったため、まだ少し酔いが残っている気がするし帰って休もうかなと倫に別れの挨拶を告げようとする正太であったが、
「……清掃活動兼、見回りをするぞ! 今朝の飲酒疑惑金髪といい、風紀が乱れている気がする」
仕事が無いなら作ればいいというスタンスの倫はそう言って無理矢理正太を外に連れ出して、用も無く放課後に残る生徒に注意をしながら清掃活動をしていく。秋ということもあり、授業が終わった後に掃除をしたはずの校庭は落ち葉であっという間に見栄えが悪くなっており、いたちごっこだなと溜め息をつきながらも終わらない仕事と正太と一緒にいる時間に内心喜んでいる倫。
「それでさー修也の奴が……」
「えー、りっくんひどーい」
そんな正太と倫が掃除をしている中、近くのベンチではカップルがいちゃついており、正太とのムードあるデート? を楽しもうとしていた倫は別のカップルの甘い会話を聞かされ続けて、私怨混じりに怒りながらカップルに注意をし始める。
「こら! 学校で堂々といちゃつくな!」
「えー……生徒会長と副会長も学校で堂々といちゃついてるじゃないですか」
「わ、私達はそういうんじゃない! なぁ副会長」
「そうですね」
「(え、否定するのが速くないか?)……ほら、副会長も困っているんだから茶化すな、いちゃつくなとは言わないが、もっとTPOを弁えろ」
自分達よりも正太と倫の方がいちゃついていると指摘され、照れながら正太にパスをする倫。倫の思惑では正太も照れながら否定をしたり、あるいは『僕は会長といちゃついていると思われてもいいですけどね』と言うシナリオだったのだが、食い気味に正太が否定した事で動揺してしまう。それでも色んな人が見ているこんな場所でいちゃつくなとカップルに注意を続ける倫。
「だって俺達家がかなり離れてますし、いちゃつけるのなんて学校くらいなもんですよ」
「お金だって無いしねー。学校でお喋りならタダだし、そもそも学校なんて友達と駄弁ったり、カップルがいちゃつくための場所でしょ」
「勉強するための場所だ! とにかくだな、清く正しい交際をするんだぞ。生徒会室に戻ろう」
倫のお小言など気にもせずに二人の世界に入ってしまうカップルに嫌気がさした倫は、正太と共に生徒会室に戻る。今度こそ帰ろうとする正太であったが、
「……清く正しい交際って何だ!?」
倫は先ほどの自分の発言に悩んでしまったらしく、ホワイトボードに健全な学生のデートプランと書きながら、集合時間は何時がいいか、行く場所は何処がいいかと列挙していく。デートプランを気にするなんて会長も女の子なんだな、と正太はそそくさと生徒会室を出ようとするが、
「待て、副会長も一緒に考えよう。お前はデートでどこに行きたい?」
この流れなら自然に正太の好みのデートプランを聞き出すことが出来ると気づいた倫は、帰ろうとする正太を嬉しそうに引き留めてデートで行きたい場所だったりシチュエーションだったりを聞き出そうとする。そこまでこの話題に興味が無いため気が乗らないといった表情になる正太であるが、恋は盲目状態の倫にとっては、『自分が好きな人に理想のデートについて聞かれるなんて恥ずかしくて言葉に詰まっちゃうよぉ><』と脳内正太に喋らせては可愛いやつめと興奮して行く。
「あんまり人混みは好きじゃないですから、待ち合わせ場所も駅前とかじゃなくて、公園とかの方がいいですね。まずは遊歩道とかを散歩しながらお喋りとか。会長はどんな感じですか?」
「私もお前と同意見だ! 気が合うな!」
現時点では恋愛にそれほど興味が無いものの、日頃から倫は世話になっているので必死に考えて案を出す正太。倫にも案を出させて負担を減らそうとする正太ではあったが、倫は正太全肯定モードに入っているので自分からは案を出すこと無く、正太の理想のデートプランをホワイトボードに書き続ける。しばらくして、健全な学生のデートプラン、というよりは正太の理想のデートプランが完成する。
「こんなものか。それじゃあこれを……」
書きながら脳内で正太とのデートを妄想する倫。自然な流れで本当にこれが健全な学生のデートなのか、試してみようと言おうとする倫ではあったが勇気が出ず、倫の脳内では『理想のデートを好きな人としたいけど恥ずかしくて誘えないよう><』とあたふたしている正太も自分の理想らしいデートプランを眺めながら感心するばかりで、倫を誘う素振りは一切無い。
「さっきのカップルに提案して来る」
紡ぎかけた言葉のその先を言う事が結局できなかった倫は、顔を赤くしながら先ほどのカップルがまだ残っていればこのデートを実践して貰おうと生徒会室を出て行く。
「今日の会長はちょっと変だったな。宝条さんから出てるお酒の匂いで酔ったのかも」
倫を見送り、様子のおかしさに疑問を抱きながらも、とりあえずこのデートプランは将来誰かを誘う時に使えるかもしれないと、スマホでホワイトボードの内容を写真に撮る正太であった。
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