わたしもかえる

ねむ

わたしもかえる(一話完結)

 ──私はガマガエルに似ている。

 ホームルームが終わり、帰りのあいさつが終わるとすぐに通学カバンを掴み教室、学校を飛び出す。一刻も早くここから解放されたいから。きっとこんな環境では私は生きてられない。どんくさくて、人見知り。これで可愛ければ救いようがあったかもしれないけど、自分の頬を触るとひどいニキビでぼこぼこだ。

(また今日も、ひとりぼっち)

 こんなことを思ってしまう自分が情けなくって、視界が滲む。自分自身を守るための「一人が好き」という思い込みも、そう上手くはいかないものだ。制服の袖で涙をぬぐう。と、

「きゅっ」

 何かの声?がした。そっちの方を見てみると

「うわっ」

 と今度は私が声を上げてしまった。でかいガマガエルがいた。歩道わきの草むらにどっしりと貫禄ある見た目。なんだか眠そうな顔をしている。

 そのぬらぬらした質感と、沼地みたいな色合い。それに、ぼこぼこした肌が、やっぱわたしに似ていて、

(君も苦しんでたりするのかなあ)

 そう思うとなんだかその顔が物憂げに見えてくる。きっと彼?もその容姿に、性格に、自分自身に思い悩んでいるのだろう。一度それが始まると出口はない。

 なんだか胸の辺りが重たくなってたまらずそこへしゃがみ込む。しかしそのガマガエルは私のことなんて気にせずにのこのこと歩き出した。そのすぐ横を小さな昆虫が追い抜かしていく。どこかで他のカエルが合唱している。それなのにそのガマガエルは鳴きもせず進んでゆく。

 そうしてそいつは表情も変えずにまた「きゅっ」と言うと、ゆっくりと草むらの奥へと姿を消そうとした、でも

「丸見えだ」

 柔らかな緑色の草の中、茶色でぬらぬらした身体がコントラストを作っていた。なんだかその様子がおかしくって肺の中の空気がぷはっと抜ける。それと一緒に胸の重みもなくなってしまったようだ。

 ガマガエルは少しずつ草の奥へと進み、やっとのことで姿は見えなくなくなった。

 ──きっと私とこいつじゃ何もかも違う。きっとこいつは私みたいにくよくよ気にしてなんかない。いや、カエルなわけだから何も考えていないというのが正解なのだろうけど。今はそれがなんだか羨ましい。

「…帰ろ」

 いつもより少しだけゆっくりとした足取りで家へと向かう。こうしてこれからも変わらないであろう日常をよたよたのこのこと過ごしていけばいいや。そう思うとどこかで「きゅっ」とあいつが鳴いた、ような気がした。

                            終わり

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わたしもかえる ねむ @nemu-san

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