第2章 狂人の産声
玉座の間は荘厳な静寂に包まれていた。高い天井から吊るされたシャンデリアが絢爛な光色を放ち、石造りの壁に影を落としている。グラヴシュタロハイムの女王は、豪華な玉座に悠然と腰掛け、その姿はまさに王の威厳を示していた。
「偉大なる女王陛下、私は初めての謁見で申し上げた通り、この世界よりも遥かに進んだ文明と技術を持つ未来からの使者として参りました。我が時代では、人民の声が政治に反映される民主主義が広く採用されています。この制度により、国はより強固に、人民の生活はさらに豊かになるのです」
ボクは冷静に言葉を選び、提言を続けたが、女王の表情は変わらない。
「人民の声が国を強くする……ですか? 勇者スサノシン、貴方の提案は興味深い。しかし、平民に統治の力を分け与えることで、王室の権威を弱めることにはならないのですか?」
「いいえ、むしろ人民の支持を得ることで、陛下の権威は強化されます。新しい体制を作ることで、経済はさらに発展し、人民も幸福になります」
女王はしばし黙り込んだ後、静かに口を開いた。
「勇者スサノシン、貴方の提案は確かに興味深いが、私は同時に非常に不愉快です。この国は長い歴史を王族が守り続けてきました。異邦人である貴方に、この国の伝統を変える資格を分け与えたつもりはありません」
その言葉にボクは心が折れそうになったが、なんとか挫けずに反論を述べる。
「陛下、仰る通り、歴史や伝統は重要です。しかし、人民が苦しんでいるのなら、それを変えるのが統治者としての役割ではありませんか?」
女王の瞳には冷たい光が宿っていた。
「貴方にはこの国の内政に干渉する権利はありません。私がこの国を治め、民を守るのです。それを他者が指図するなど、容認できません」
ボクはそれ以上反論できず、静かに頭を下げた。退室するボクの背後から、女王の冷ややかな声が響く。
「覚えておきなさい。私の国です。これ以上余計な口を挟めば、たとえ大陸を救った勇者であろうと追放せねばなりません。賢明な判断に身を委ねることを願います」
ボクは敗北感を抱えながら女王陛下の前から立ち去った。賛同を得られると信じていたボクの淡い期待は、この時、無情にも打ち砕かれたのである。
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