変態小説(どんぶり茶碗)
森下 巻々
(全会話)
「いつも、わたしのママに怒られてたよね。ちゃんとじゃなくて、きちんとでしょ、きちんとした言葉を使いなさいなんて……」
「ああ、うん……」
「ああとか、うんじゃなくて、はいでしょ!」
「ああ、は、い。そうだったかも知れないね」
「いま、いい顔したね? ちょっとお、ウケるんだけど……。お兄さんさあ、ッていうか、もうとっくにおじさんだよね。おじさんが生徒で、先生だったママに叱られるのは分かるけど、いま言ったのは、わたしだからね。うんと年下のわたしに言われても、そんな顔するんだ……、へんたいだね」
「い、いや……」
「あッ、また顔変わった。ホント、キモいいい……。わたし、子供の頃から気づいてたよ。お兄さんは、わたしのママに何か注意されるたびに、頬っぺを赤くしてたんだよねえ」
「そんなことはないと思うのだけれど……」
「ほら! 鼻の下にビールの泡がいっぱいついちゃったよ。ぬぐってくださいよ」
「ああ、はい。そうだね……」
「ちょっとお! それ、わたしの使ったオシボリじゃないの? へんたい!」
「あああ、ご、ごめん!」
「ふふッ」
「え?」
「う、嘘だよお。自分の目の前にあるのが自分のオシボリに決まってるよ。ばかだなあ!」
「そ、そうか。そうですよね。少し、いま混乱しているみたいなんです」
「目、きょろきょろさせないでください。キモいんだけど……。えッ、もしかして、こういうこと? わたしがいろいろ言うから、夢見てるみたいになっちゃってるの? 頭回んなくなっちゃってるってことなんですか?」
「そんなことは……」
「ちょっとお、だったら、わたしがカラアゲ食べてるとこ見てないで、お兄さんもどんどん食べればいいじゃないですか?」
「は、はい……。」
「な、何?」
「い、いや、野菜もちゃんと食べてほしいなあと思いまして……」
「言ってることは有り難いけれど……、ちゃんとじゃなくてえ! きちんとじゃないですか!?」
「はい!」
「あれだけママに叱られていたのに、全然身に付いていないのではないでしょうか?」
「はい。……申し訳ない気持ちでいっぱいです」
変態小説(どんぶり茶碗) 森下 巻々 @kankan740
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