第10話 いつも通り?
「どうしたの?」
あまりにも不自然だったので思わず尋ねると、二人共「ううん、何でもない」とだけ答え、そのまままたスマホを操作し始めた。
「……」
ニュース自体も新情報があったというワケでもなかったので別のものになり、二人はすぐに気を取り直した様な雰囲気になっている。
だが、結月としては二人が気になりつつも「何でもない」と口では言っておきながら、どう見ても気になっていた事を知っている。
そんな状態で「何でもない」と言われても説得力がない。
「……」
しかし、これ以上探りを入れようとしたとしても二人が話してくれるとは思えない。それに、どう聞けばいいのかも分からない。
ここは引いた方が良さそうだ……とエンタメコーナーが始まったテレビ画面の方に視線を向けると……。
「ごめんなさい。お待たせしちゃったわね」
ちょうどそのタイミングで樹里亜さんが高そうなティーカップセットと美味しそうな紅茶の香りと共に持って戻って来た。
「……」
この「別荘」と言える家にいる時点で頭では分かっていたつもりだったが、こうして分かりやすい物を出されると、嫌でも「私と住んでいる世界が違う」という事を思い知らされる。
正直「何を今更」と言わるかも知れない。ただ、小さい頃はそんな事に気を向ける事もなかったというにも事実ではある。
「……」
「……」
しかし、見た目からしてあまりにもお高そうな……いや、実際にお高いであろうティーセットを前に、結月だけでなく水崎さんも寺本さんも固まっていた。
そんな二人に対し、樹里亜さんは申し訳なさそうに「ごめんなさい」と呟く。
「え、どうして樹里亜さんが謝るのですか?」
「私ったら、突然席を外して飲み物の準備をしに行った上に、みんなの飲みたい物も聞かずに私の独断で勝手に紅茶にしてしまったから……」
どうやら樹里亜さんは二人が固まっていたのは、唐突に置かれた紅茶についてだと考えたらしい。
「それに、こんな雨の中を歩かせちゃったわ。いつもであれば雨の時は車を呼ぶのだけど」
言われてみれば確かに、樹里亜さんはアルバイトに来る時も帰る時もいつも車の送迎があった。
しかし、今日はこのあいにくの天気だ。しかも、警報が出るほどの大雨。その上、道路も渋滞している。そんな中で車を呼ぶのははばかられたのだろう。
そんな中で、すぐに温かい飲み物を準備しに行ったのは大雨の中を歩かせて体を冷やしてしまったという樹里亜さんなりの考えがあったからだそうだ。
「そ、そんなの――」
「むしろこうして提案してもらったおかげで私たちは途方に暮れる事もなかったので逆に感謝しているくらいです」
そう、二人が固まっていたのは「そこ」じゃない。
ただ、二人からの訂正が入った事もあり、結月はあえてそれを口にする事はなかった。下手に口に出してしまっては話が余計に面倒な方向に行きそうだった……というのもあった。
「そう? ありがとう。あ、二人共紅茶はお好き?」
「はい」
「大好きです」
二人はお高そうなティーカップに恐縮しながらも丁寧にゆっくりと手に取った。
そもそも、樹里亜さんにとってはこのお高いティーカップも結月たち視点の百円均一ショップの品物と感覚としては大差ないのだろう。
要するに、樹里亜さんのあの行動はどちらかと言うと「来客が来た時の日常」と同じだったというワケだ。
決して点数稼ぎとか『天然』というワケではない。ただ単純に樹里亜さんにとっての「当たり前」が結月たちとは違う。つまり、「感覚の違い」だたそれだけの話である。
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