第5話 突然の雷雨と偶然の出会い
「思ったより良かった……」
「かなりアクションがあって見どころあったって感じ」
「初めて見ましたけど、あんな感じなんですね」
各々ショーを見た感想を言い合いながら駅まで向かって歩いていると。
「それに何より『推し』が手に入ったし!」
今も興奮が冷めないのか、水崎さんは嬉しそうに特典のグッズを見つめる。
「良かったわね」
「はい。良かったです」
ここまで喜んでもらえるとは思っていなかったので、水崎さんの様子を見ていると、結月の方まで嬉しくなった。
「やっぱりこういった引くランダム系は物欲センサーがない方が良いのかしら?」
何やら一人ブツブツと考え込む様に言う水崎さんに対し、聞きなじみのない「物欲センサー」について聞こうと寺本さんの方を向くと……。
「コレが欲しいって血眼になっている人よりもそういった事に興味のない人の方が良い物が当たりやすいって話」
その水崎さんの様子に呆れつつも親切に教えてくれた。
「な、なるほど。それが物欲センサー」
「寺本さんはあんまり知らなかったみたいだから。里穂の場合は欲しい! って気持ちが全面に出過ぎていたから……」
言われてみれば、あの時の水崎さんからはものすごい気合い……いや、気迫を感じたのは確かである。
「あ、お手洗い行って来ても良い? さっき行けなくて」
歩いていると、ちょうどコンビニが見え、水崎さんはこちらの方を向いた。
「良いですよ」
「結構並んでいたから仕方ないか」
実は会場にもトイレはいくつか設置されていたものの、ショーが終わったばかりだった事もあってかかなりの行列となっていたのだ。
「駅まではまだちょっと距離もあるし」
「そうですね」
ただどうやら水崎さんと同じ様に考える人はいたらしく、たった今入ったコンビニにも数人並んでいた。
しかし、会場の行列と比べればなんて事はない人数だ。
それを外で確認した水崎さんは「じゃあちょっと行ってからお菓子でも見て待ってて」とお手洗いに向かい、寺本さんと結月はお言葉に甘えて店内を見て回る事にした。
「――とは言っても、そんなに時間を潰す事ってあんまりないけど」
「そう……ですね」
言われてみればそうかも知れない。
結月の頭にパッと思い浮かぶのはせいぜい「立ち読み」程度で「商品をしっかり見て回る」という事は『コンビニ』という場所を限定して考えると……確かにあまり経験がなかった。
「うーん。じゃあ私はちょっと立ち読みでもしているかな」
「あ、はい」
そう言って寺本さんは雑誌コーナーに置いてあった習慣の少年誌を手に取り読み始めた。
「……」
一人残された結月は「さて、どうしたものか……」と思いキョロッと辺りを少し見渡したところで。
「あら? 結月ちゃん?」
「?」
突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、何気なく振り返ると……。
「珍しいわね。こんなところで会うなんて」
「じゅ、樹里亜さんこそ。コンビニ……来られるんですね」
「あらあら、私もコンビニ位来るわよ?」
「そうなんですね」
そう答えつつも内心はかなり驚いていた。それは「そもそもこんなところで会うなんて」という気持ちと先程言った通り「樹里亜さんもコンビニ来るんだ」という気持ちの両方からだ。
「それよりもどうしてここに?」
「え」
「結月ちゃんが住んでいる場所からちょっと離れていると思うのだけど」
「ああ」
確かにここから結月の家は結構距離がある。
そもそも電車に乗らないと来られないのだからそれなりの距離があるのは当たり前の話なのだが。
「それはですね――」
結月が今日ここに来た理由を説明しようと口を開いたタイミングで突然外がパッと光った様な気がした。
「え?」
「?」
あまりにも一瞬の事だったので思わず声をこぼし、そちらの方に視線を向けた瞬間……。
「っ!!」
「きゃあ!」
外に視線を向けたとほぼ同時に地面に響く様なものすごい音が響き渡り、その鳴り終わったくらいのタイミングで次は大量の雨がすごい勢いで降り始めた――。
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