第2話 二人の関係
「ただいまー」
学校から帰り玄関で靴を脱いでいると、ちょうど畳み終えた洗濯物を持ってリビングから出て来た母と鉢合わせた。
「あ、おかえり。今日、バイトは?」
「今日は休み。明日はあるけど」
「そ、分かった。土日は?」
「土曜日は朝から夕方までで日曜日は昼から夜までの予定」
結月は高校一年生の二学期頃からアルバイトをしており、専門学校に入学した今でもそのアルバイトを続けている。
「了解。じゃあ日曜日は夜ご飯はいらないわね」
そう言う母の言葉に「うん」と頷き、母は「分かった」と言ってすぐに脱衣所へと消えて行った。
「……」
アルバイトを始めた理由は
部活動などをしていればそちらの方に情熱を注げばいいだけなのだが、結月は特に習い事をしていた訳でも熱くなれる何かがあった訳でもなかった。
高校に入学した当初はそれで特に問題はなかったのだが、夏祭り以降疎遠になってからは時間があるせいでふとした時に頭を過ってしまうのだ。
それだけ長い期間一緒にいたという事とあまりにもあっさりとした終わりのギャップで結月としてはとにかくその事実から目を背けたい一心でアルバイトを始めたのである。
「……ん?」
母と別れリビングに入ると、ちょうどテレビでは夕方のニュース番組やっていて、どうやら今朝やっていたニュースの新情報として「学生時代の友人関係のもつれが今回の事件に大きく関わっているのではないかと警察関係者からの証言で明らかとなりました」と真剣な表情の記者が言っていた。
「――あ、事件は確定なんだ……」
朝の時点では「現場の話と何があったのか」という事は言っていたが、そもそも事件なのか事故なのか分かっていない状態だった。
ただ、現場の状況や朝話していた記者の話を聞く限り「事件だろう」という事は何となく分かっていたので特に驚きはしなかったが――。
「さて」
そのニュースをボーッと眺めた後。テレビ画面を消して適当に飲み物を準備してそのまま自自室へと向かったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そうこうしてあっという間に迎えたお祭り当日――。
「……」
どうやら集合を予定していた時間よりも早く会場に着いてしまった結月は二人がどこから来るのか分からず時折辺りをキョロキョロと見渡しながらスマホを眺めていた。
「……」
さすが「お祭り」というだけあってなかなかの人通りである。場所は学校からは離れている上に山の方にあるのでクラスメイトと鉢合わせをする可能性は比較的低いだろう。
普通であれば……。
ただ、軽く調べて分かったのだが、どうやら今回水崎さんが推している戦隊ものはキャラクターとそれを演じている俳優がとても魅力的らしく、本来のターゲットである子供よりもお母さん世代だけでなく特に若い女性に人気らしい。
だからなのか辺りを観察していると、どうやら結月たちの様な年代の人たちも多く来ている。つまり、もしかしたら水崎さんの様に「周りには言っていないけど実は……」という人も来ているのではないだろうか。
しかし、それでも「水崎さんのイメージか」言われれば……それに関しては少し首をひねるところではある。
ただ、結月としては意外ではあったものの、生徒は美人で自分には無縁な人間だと思っていたところもあり、かなり好印象ではあった。
ちなみに今回お目当てのヒーローショーはこのお祭りの会場の特設ステージの序盤に行われる予定になっている。これは元々のターゲットである子供の為と言えるのだろう。
「あ」
そんな事を考えている内に可愛らしい笑顔と共に「竹本さーん」と結月の名前を呼びながら水崎さんが駆けて来た。
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
「いえ。私もつい先ほど着きましたので」
そう答えていると、少し遅れて寺本さんも息を切らしながら現れた。
「はぁ……はぁ」
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。すみません、遅れました」
結月たちと合流した寺本さんは膝に手を置いて肩で大きく呼吸をしている。
「杏樹ちゃん遅いよ」
「遅いよ、じゃない。いきなり走り出して……信号もまだ完全に青になってなかったでしょ」
いつもののほほんとした様子で言う水崎さんに対し、寺本さんはキッと睨みつけながら息を整えつつ怒る。
「えー? でも車道側は赤になっていたし、ほんのちょっとの差でしょ?」
「じゃあそのほんのちょっとの間待てばいいと思うけど」
「早く行きたかったのよ」
「交通ルールは守れって言っているの。小さい子の方がちゃんと守っていたでしょ」
「それはそうだけど」
どうやらここに来る途中にあった信号での出来事を話しているのだろう。
「……」
しかし……結月を誘った時から思っていたが、どうにもこの二人の関係は普通の「友人」とは違う様に結月には見えた。
何と言うか……どちらかというと「親子」とかそういった様に見えてしまう。
それだけ水崎さんが子供っぽいと言ってしまえばそれまでの話かも知れないが、結月の目にはそう見えた。
「と、とにかく。これからどうする? 時間までまだあるみたいだけど」
「そうですね。ちょっと見て回りますか? 色々と出店も出ている様ですし」
「そうする?」
結月たちの目的はヒーローショーとは言え、本来はお祭りだ。だから特設ステージの周辺には様々な出店が出ていた。
「それにしても、なんで大人と家族連れで時間が分かれているのかな」
「本来は子供向けだからでしょ」
「それは分かるけど……」
「ターゲットが子供な以上子供を優先すべきでしょ」
そう。ヒーローショーの入場受付は家族連れの場合はショーが始まる二十分前。大人は十分前となっていたのである。
これは多分、良い席を取ろうとするあまり子供よりも早く並ばせない為という事と通行の妨げを避ける為だろうと結月は何となく察していた。
「どうしても近くで見たかったら今度あるホールの夜公演に行けばいいでしょ?」
「それは、うーん。なんかオタクっぽいからなぁ」
どうやら水崎さんは周囲からの「イメージ」というのを相当気にしているらしい。それは結月もかなり気にしているので何となく水崎さんの言っている事が分かった様な気がした。
「それなら文句を言わずにちゃんと守りなさい」
「分かっているって」
二人と知り合って数日しか経ってはいないものの、二人の「ただの仲の良い友達」以上の関係に羨ましさを感じつつ適当に出店を見て回っていると……。
「――え」
ふと視線を前に向けた瞬間。信号を渡って来る人混みの中に高校一年の夏。一方的に連絡を絶ち結月に暗い影を落とした張本人『
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