第34話 反撃

振り返ったら、そこにはドリアーヌが立っていた。

攻撃魔術を打った後のような体勢?


さっきの衝撃はまさかドリアーヌの攻撃魔術?

どうして私は無事なのかと思ったら、

私の身体がうっすらと光っている。


そして、私の前に小さな猫。

黒猫が毛を逆立ててドリアーヌに威嚇していた。


「黒猫……?」


「なんなのよ!その気持ち悪い猫は!

 今のは、その猫のせいなの!?」


「魔女の使い魔だわ!?」


「そんなの、その猫ごと殺せばいいのよ!」


猫ごと殺す? 私だけじゃなく、こんな小さな猫を殺す気なの!?

ドリアーヌたちから猫を隠すように抱き寄せると、

にゃあんと猫が私の身体に吸い込まれていく。


猫が吸い込まれた??

あ、この黒猫が私を守ってくれていた精霊なんだ。


あぁ、考えている場合じゃない。走って逃げなきゃ。

精霊が助けてくれるとしても、何度も攻撃されたら無事ではすまない。


避暑地でドリアーヌに殺されかけた時、

もう死ぬんだとあきらめてしまったほど痛かった。

ドリアーヌの攻撃だけでもあんなにひどい怪我をしたのに、

二人から攻撃されたら助かるとは限らない。


真っ赤な火が飛んでくるのを、かわしながら逃げる。

こんな学園の中で攻撃してくるなんて。

どこで人に見られるかわからないのに、

二人はまったく気にしないで攻撃してくる。


「ドリアーヌ、もうやめて!

 騒ぎになれば人に見られるわよ!?」


「そんなの、もうどうだっていいのよ!

 アンクタン家は終わりなんだから!

 だけど、あんただけは許さない……」


「そうよ!あなたさえいなかったらよかったのに!」


こうなったらなるべく人がいそうな場所に逃げようとしたら、

方向を変えた先に火の玉がぶつかって、衝撃で倒れる


「きゃあ!」


「ふふふ。いい気味だわ。

 そのままじっとしていなさい!」


このままでは殺されてしまうだけ。

ジルベール様に止められていたけれど、魔術を使わないではいられない。


「もう我慢しない!

 ドリアーヌがその気なら、やり返すから!」


「はぁ?ふざけてんの!?」


「ふざけてない!このまま殺される気なんてない!」


どこまでやれるかはわからないけれど、

殺されるくらいなら、魔力を失って小さくなったほうがいい。


「やり返せるなら、やってみなさいよ!」


ドリアーヌの手のひらから火の玉が浮き上がる。

そのまま投げつけようとしたところを、

風魔術でドリアーヌの後ろへと飛ばした。


「っ!?何したのよ!」


「ドリアーヌ様、私にお任せください!」


今度は風魔術で切り刻もうとしているのがわかって、

それはそのまま跳ね返す。

跳ね返った風刃は令嬢とドリアーヌの服を切り刻んでいく。


「ひぃ!?」


「っ!こんなことするなんて、許さないっ」


許さないって言われても、それを私にする気だったんでしょう?

もうドリアーヌにおびえてなんていられない。

何を言われようとも、ここで殺されたくない。


だって、私は


「俺の妻に何をしている?」


「え?」


ふわりと風が吹いて、私の身体が浮き上がる。

そのまま吸い込まれるように、腕の中におさまる。

いつもの匂いにそれが誰なのかわかる。


「ジルベール様、どうしてここに」


「マリーナに知らせを送っただろう。

 大丈夫か?あぁ、少し魔力が減ったか。怪我は?」


「少し火傷したかもしれません」


「そうか」


私の状態を確認すると、ジルベール様はドリアーヌたちに向き直る。

令嬢はジルベール様が来たのを知り、真っ青になっている。


ドリアーヌだけはまだ私をにらみつけていた。


「ドリアーヌ、何度も警告はしたはずだ。

 シャルを傷つけるのなら、容赦はしないと」


「どうしてですか!

 そんな家族からも見捨てられていた女。

 ジルベール様には似合いません」


「そうか?家族が見捨てても、俺は見捨てない。

 シャルほど俺の隣にふさわしいものはいない。

 俺が、妻にと望んだのだからな」


「ジルベール様は黒に呪われているんだわ!」


エクトル様みたいなことをと思ったけれど、

きっと本当にそうだと信じているようだ。


「シャルリーヌを消せば、きっとジルベール様は正気に」


私がいるのはジルベール様の腕の中だというのに、

ドリアーヌは大きな火の玉を手のひらの上に出した。


「シャル、あれを消せるな?魔力で包むだけでいい」


「はい」


「やってごらん」


言われたとおり、魔力で包んでドリアーヌの魔術を取り消した。

大きいといっても、火属性の初期魔術だから大したことではない。

あの時は私を殺しかけた魔術なのに、今は怖くない。

反撃していいのなら、私に当たるはずがないから。


「ど、どうして」


何度も何度も火の玉を出そうとするから、

その度に魔力で包んで消す。

次第に火の玉は小さくなって、そして出なくなった。


「魔力切れか。

 どうだ?馬鹿にしていたシャルに力で負けるのは」


「嘘よ…嘘だわ」


「マリーナ、こいつらを捕縛して王宮騎士に突き出せ」


「わかりました。

 あぁ、シャル様、卒業式が始まりますので、お急ぎください」


「え、あぁ!卒業式!」


マリーナさんも一緒に助けて来てくれていたらしい。

すぐさま座り込んでいるドリアーヌと令嬢を縛り上げた。


「よし、シャル。行こう」


「はい」


あ、でも制服があちこち煤けて汚れてしまった。

それに身体が小さくなってる?


ジルベール様に抱えられて会場に急ぐ。

そのまま会場に行くのかと思えば、行先は控室だった。

他の服に着替えてから?と思ったら、

ジルベール様が魔術で制服を復元してくれる。


「すごい!元通り。こんなこともできるんですね!」


「マリーナの服だからな。自己修復機能がついている。

 それを少し早めただけだ。あとは」


「え?」


ひょいっと抱き上げられたと思ったら、

ジルベール様の唇が重なる。

少し急ぐようなキスに息ができない。

何度も胸をたたいて、ようやく解放される。


「苦しいです!」


「悪い。だけど、魔力を補充しておかないと卒業式出られないだろう」


「それはそうですけど……」


そっか。さっき魔術使ってしまったから、

身体の大きさをもとに戻すためにキスしてくれたんだ。

ちょっと急いでたせいか苦しかったけど。


「……心配した。もっと早くに反撃しろ」


「え?」


「どんなに小さくなろうと、俺が元に戻す。

 もうこんなことはないように守るが、

 万が一の時は迷わず反撃しろ。いいな?」


「はい……ごめんなさい」


「いや、シャルが悪いんじゃない。よく頑張った」


私を抱きしめるジルベール様の腕がいつもよりも力強くて、

心配させてしまったんだと気がつく。


「さぁ、卒業式に行こう。

 ……こっそり見に来るだけのつもりだったんだが」


「ふふ。ちゃんと最後まで見ていてくださいね」


「ああ」


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