第33話 卒業式
心のどこかに引っかかるような不安をどうすることもできないまま、
気がつけば学園の卒業の日を迎えていた。
編入して半年だけの学園生活。
それでも生まれてからずっと家に閉じこもっていた私には、
何もかもが初めて見るもののように感じられて、
エレーナ様とミラ様にも会え、とても有意義なものだった。
卒業式の日、早めに学園に着くと、
会場ではなく控室に案内される。
最終試験で一位の成績を取り、
卒業生代表の言葉を述べることになっている。
その練習のために早く来ていた。
もう何度も練習して暗記してしまった言葉を、
誰もいない控室の中で読み上げる。
少し早く来すぎてしまったかもと思っていたら、
控室のドアをノックされる。
侍女控室に行ったマリーナさんが戻ってきたのかもしれない。
ドアを開けたら、相手は見知らぬ女性だった。
背の高い茶色の髪の女性。
まだ若そうだけど、制服ではないので事務員だろうか。
「あの……シャルリーヌ様。
ジルベール様がいらして学園長が対応しているのですが、
シャルリーヌ様を呼んできてほしいと」
「え?ジルベール様が?」
「はい。卒業式の前に渡したいものがあるそうで、
応接室でお待ちです」
卒業式前に渡したいものってなんだろう。
家を出て一緒の馬車で来たのに、忘れていたのかな。
卒業式に親族が出席するのは問題ないけれど、
めったに社交しないジルベール様が現れたら騒ぎになってしまう。
そのため、マリーナさんにも止められて、
今日は卒業式が終わるのを魔術院で待っていると言ってたのに。
他の学生たちが来る前に用事を済ませて、
ジルベール様は魔術院に戻ってもらわないと。
女性も慌てているのが急いでいるようだ。
置いていかれないように後について応接室に向かう。
女性の茶色い髪のひょろりとした後ろ姿を見ていて、
どこかで見たことのあるような気がしてきた。
少し早足の女性を後ろからついて歩いたことが、
以前にもあるような気がして……思い出す。
そうだ。あの時は、シルヴィ様の呼び出しだった。
おびえたような二学年の令嬢にお願いされて。
……この女性はあの時の令嬢?
でも、もうシルヴィ様は学園に来ていないのに、どうして。
このまま応接室に向かっていいのか迷い、
左腕の腕輪に右手でふれる。
こうすればマリーナさんに知らせが行くはず。
もし間違っていてもマリーナさんならかまわないって言ってくれる。
考えてみたら、この女性に頼んで私を呼び出すのはおかしい。
おそらく、ジルベール様ならマリーナさんにお願いする。
応接室がある本館に向かうために渡り廊下に差し掛かったところで、
ぐいっと手を引っ張られて外に連れ出される。
やっぱり、ジルベール様が呼んでいるっていうのは嘘だ。
「ちょっと、どこに連れて行くの?」
「いいから、来てください」
「あなた、前に私をシルヴィ様のところに案内した学生よね?
いったい何をしようとしているの?
ジルベール様が来たっていうのは嘘でしょう」
「……気がついていたのね」
裏庭まで引っ張っていかれ、ようやく足が止まる。
女性がくるりとこちらを向いたと思ったら、にらまれていた。
あの時のおびえた感じは消え、攻撃してきそうなほど悪意をぶつけられる。
「どうしてこんなことをするの?」
「どうして?」
「嘘をついて呼び出すなんて、誰に頼まれたの?」
「用事があるのは、私よ」
「え?」
誰かに頼まれたのではなく、この女性が私に用事?
どう考えてもまともな用ではなく、恨みを晴らしたいようにしか見えない。
「どうしても、許せないのよ」
「私が何をしたっていうの?」
「あなたが余計なことをしなければ、
私は学園に通い続けていられたのに!」
「え?……どういうこと?」
あの時、私を呼び出したということで、
エレーナ様が何かしたのは知っている。
でも、それはシルヴィ様に対してで、この令嬢にではない。
それもお茶会に呼ばれなくなるくらいのことで、
学園に通えなくなったといわれる理由がわからない。
「学園に通えなくなったと言われても、私は何もしていないのだけど?」
「……わざとじゃないから許せとでも?」
「そうじゃないわ、誤解だと思うの。
事情を説明してくれない?」
「そんなことはもうどうでもいい…… 。
謝罪されたいわけでもない。もう家は没落してしまったのだから。
だから、その罪はちゃんと償ってもらうわ」
「え?」
後ろから衝撃がと思ったら、はじき返したような感触がした。
火花が飛んで、目の前が光でいっぱいになる。
「何よこれ!?」
「魔術は使えないんじゃなかったの!?」
もう一人の声?
振り返ったら、そこにはドリアーヌが立っていた。
攻撃魔術を打った後のような体勢?
さっきの衝撃はまさかドリアーヌの攻撃魔術?
どうして私は無事なのかと思ったら、
私の身体がうっすらと光っている。
そして、私の前に小さな猫。
黒猫が毛を逆立ててドリアーヌに威嚇していた。
「黒猫……?」
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