第161話 vs権蔵2
強化したゴーレムが作り上げた巨大な壁に飛び乗った権蔵は、実に楽しそうに笑っていた。まるで、戦うことが楽しくて仕方がないといった様子だ。
そして、権蔵が次に取った行動は、自身のゴーレムを展開することだった。
「わしもおぬしほどではないが、それなりの数のゴーレムは出せる。この程度が、本来の高レベルゴーレム使いの標準じゃよ」
そう言って、自身の隣にゴーレム異空庫を展開すると、そこから種類の異なるゴーレムが次々と現れた。火・風・水・闇・光のエレメントで構成された属性ゴーレム。巨大な大剣を持つ木製の剣士型ゴーレム、ハンマー、弓、槍を携えた戦闘型ゴーレム――エレメント系以外は、剛志の作るゴーレムの強化版のような個体も散見される。
数にしてざっと20〜30体ほど。剛志のゴーレム数と比べれば端数のようなものだが、その一体一体が強力であり、全員が壁の上に並び立ち、剛志たちを見下ろしている。
遠目にもわかるその迫力に、剛志たちは息を呑んだ。
「おい剛志、さすがに……お前のゴーレムとは個体の強さが段違いだな。敵に言うのも変だけど、あれ、一体一体がかっこいいというか、威圧感すごいぞ」
「うん、分かる。俺もさっきから同じこと思ってたよ。あれは、俺が目指すべきゴールの一つでもあるしね。それに、ここからさらにスキルで強化されることを考えると……さすがに骨が折れると思うよ」
そんな男二人に、万葉が一喝を入れる。
「何弱気なこと言ってるのよ。権蔵本体はそれほど脅威じゃない。それが、ゴーレム使い最大の弱点でしょ。こっちには私がいるんだから楽勝よ。剛志は、私に邪魔が入らないように他のゴーレムたちの足止めをお願い。健司は、何があるか分からないから剛志の護衛をお願いね」
頼もしいその言葉に、剛志と臼杵は無言で頷いて応えた。その目に迷いはない。
「さすがだな、うちの最高戦力は言うことが違う。万葉ちゃんがいれば百人力だ」
そう言って臼杵がおだてると、万葉は一言「一万人力よ」とだけ返し、すぐに移動を開始した。
ちょうどその頃、権蔵が展開したゴーレムたちも【バーサーカー】のスキルを付与され、強制的にステータスが上昇した状態で、壁の上から飛び降りて進撃を開始する。
壁の下には、剛志が展開した大量のゴーレムたちが控えていた。しかし、相手との力の差は圧倒的で、一対一では戦いにならず、まるで暖簾に腕押しのように蹴散らされていく。
だが、剛志の強みは、ゴーレムの「数」にある。剛志はすぐにイチロイドに指示を出し、戦線の維持を図った。
「イチロイド、さっきの話聞いてたよな? 数ではこっちが圧倒的有利だ。それに、積極的に倒す必要はない。むしろ、倒さない方がいいまである。とにかく、万葉の邪魔をさせないようにゴーレムたちを動かしてくれ!」
「『かしこまりました。お任せください』」
イチロイドはすぐにゴーレムたちを操り始めた。火のエレメントゴーレムが前線を焼き払い、倒れた場所にはすぐに次のゴーレムが現れて攻撃を継続する。攻撃一つ一つは権蔵のゴーレムにとって大きな脅威ではないが、数の暴力は徐々に傷を刻んでいく。
イチロイドの采配により、敵の属性に対して相性の良いゴーレムで的確に応戦し、味方の損耗も最低限に抑えられている。ふたを開けてみれば、時間さえ稼げれば、剛志一人でも十分対応可能なのではと思えるほどの戦況となっていた。
護衛役として残っていた臼杵も、戦況を見守りながら、改めて剛志の実力を感じていた。そして、ふと先ほど剛志が言っていた言葉が気になり、問いかける。
「なあ剛志、さっき『倒さない方がいい』って言ってたけど、どういうことだ?」
「ああ、そのことか。今は万葉がメインで突っ込んでくれてるだろ? 彼女はうちの中で唯一の近接戦闘型で、敵との相性もいい。で、彼女からの要請は“権蔵のゴーレムの足止め”だった。だから、倒さない方が都合がいいんだよ。
普通のゴーレム使いは、一度に持てるゴーレムの数に限りがある。だから戦闘中に破壊しちゃうと、新たに補充される可能性があるだろ? だったら、壊さずに足止めしていた方が、相手の手数を減らし続けられるってわけ」
その説明を聞いて、臼杵は自分の常識が少しずつ剛志によって書き換えられていることを実感した。ゴーレム使いという職業自体が珍しく、臼杵にとって最も身近な存在が剛志だったため、いつの間にかそれを基準として捉えていたのだ。
「なるほどな、言われてみりゃその通りだ。つまり、剛志のゴーレムたちが足止めし続ければ、権蔵は限られた戦力で万葉ちゃんと戦わなきゃいけないってことか。敵ながら……ちょっと同情するな」
そう呟きながらも、臼杵は真剣な眼差しで戦況を見つめる。剛志もまた、険しい表情を浮かべながらポジティブな意見を口にした。
「理想としては、10分耐えきれれば儲けもんだ。そうなれば、ほぼ勝ちじゃないかな」
「【バーサーカー】が切れるまで粘るってことか! 確かに、それが終わればこっちの勝利は確定だな。短期決戦型の権蔵にとっては、時間稼ぎの得意なお前みたいなタイプが一番相性悪いわけか……いや、こりゃ本当に大きなアドだぜ。気は抜けないけどな」
そう話していた二人だったが、その間にも剛志のゴーレムは少しずつ数を減らしていた。先ほどまでの楽観ムードが、次第に不安へと変わっていく。
「剛志、理屈は分かったけど……あれ、本当に大丈夫か?」
「うん、大丈夫な“はず”ではあるんだけどね……」
「『計算上は問題ありません』」
イチロイドが冷静に補足するが、それでも目の前の光景を見ていると、どうしても不安になってしまうのが人間というものだ。楽観と不安の波に揺れながらも、剛志と臼杵は万葉と権蔵の戦いの行方を注視していた。
その頃、万葉はすでに権蔵のもとへと歩みを進めていた。剛志たちから離れ、権蔵の周囲のゴーレムが離れたタイミングを見計らい、一気に駆け出すと、一瞬で権蔵の目の前まで迫る。
その勢いのまま、渾身の力を込めて刀を振り下ろす万葉。だが、その一撃は届く前に、バキッという音とともに止められていた。
刃を止めたのは、権蔵が初めから傍に置いていた木製のゴーレムだった。そいつだけは常に権蔵の背後に控えており、万葉の超スピードに追従して攻撃を防いだのだ。
刀が止められた瞬間、万葉は次の攻撃を察知し、即座にバックステップを取って距離を取る。次の瞬間、彼女がいた場所を風切り音が貫いた。今度は別のゴーレムが現れ、腕を横に振りぬいていたのだ。
「いきなり斬りかかるとは、随分な挨拶じゃのう。嫌いではないぞ」
「そっちこそ、いきなり殴りかかってきたじゃない」
「こちらのは、正当防衛じゃよ」
「そもそも襲ってきたのはそっちでしょ? その発言、馬鹿にしてるわよね。……無駄口はここまで。あなたが口を開いていいのは、“参った”か“A.B.Y.S.S.について話す”ときだけよ」
そう言い放ち、万葉は再度攻撃を開始した。
近接戦闘において、ゴーレム使いより圧倒的に有利な万葉。しかし、相手は戦闘狂の権蔵。中距離職とはいえ、正面からの殴り合いを好み、それを得意とするスタイルである。侮れば命取りだ。
日本最強クラスの探索者同士による、真剣勝負が今、幕を開けた。
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