第160話 vs権蔵
まだ敵が権蔵一人だと思っている剛志たち一行。
一応、この行動自体が陽動であり、罠の可能性も視野に入れてはいるため、完全に無防備というわけではない。だが、それでも今の状況は、彼らの予想をはるかに上回るピンチと言えるだろう。
そんな中、剛志はいつもの癖で、必要以上の戦力を展開していた。
「こんなに大量のゴーレムを出したところで、一度に戦える数には限りがあるけど……何があるかわかんないしね。備えあれば憂いなし、ってやつだよ」
そう言いながら、ゴーレムたちを次々と展開していく剛志。その数も驚異的だが、実は中身もかなりバージョンアップしている。先日の作戦会議、そして最近のモンスタードームによるレベル上げの成果をふんだんに活かした、剛志の最大戦力が今この場に展開されているのだ。
また、剛志自身も体中をゴーレムの鎧で覆っており、その性能も大幅に強化されていた。以前は、腕・足といった人間が認識できる程度の分割で作られていたパーツも、今ではさらに細分化され、より強力に。
これだけの数を自在に動かせるのは、イチロイドの頭脳があってこそである。
加えて、剛志自身のステータスも上がっているため、多少の動きには中身が耐えられるようになった。また、激しい動作時にも中の人を守る機構が充実してきたことで、今回の超強化が実現しているのだ。
「その全身鎧ゴーレム軍団も、今回が初の実戦投入だな。下手すりゃ、これだけで前線が作れるんじゃねぇか?」
そう声をかけてきたのは、すべてを把握している臼杵。そして、その会話に、最近は妹のことで忙しく、剛志の最新状況をあまり把握していない万葉が加わる。
「本当に剛志は、少し見ない間に変化がすさまじいわね。これはどういうゴーレムなの?」
「ああ、これはね、以前あった“全身を覆うタイプのパワードスーツ型ゴーレム”の改良版だよ。俺のゴーレムクリエイトは一体ごとの作成制限があるけど、これは複数体の合体方式だから、かなり強力なんだ。力を合わせて機能するタイプだね。たとえば、こんなふうに――」
そう言って、剛志は万葉にわかりやすく右手のゴーレムを分解して見せる。すると、剛志の右腕を形成していたゴーレムたちはバラバラになり、空中に数十の小型ゴーレムが浮かび上がった。
それらは透明な膜で繋がれており、剛志が意識すると、再び手の形へと戻って合体し、元の姿へと復元された。
その後も、剛志は最近考えた秘策や、新たに取り入れた仕組みについて万葉と情報を共有しつつ準備を進めていく。
そしてすべての準備が完了し、あとは待つだけとなった。万葉と臼杵は臨戦態勢で剛志の周囲に立ち、剛志も顔以外をゴーレムスーツで覆いながら、じっと地下60階層の階段入り口を見つめていた。
そして待つこと約10分。階段の下から人影がゆっくりと下ってくるのが見えた。ついに、権蔵の到着である。
権蔵は、巨大な木製ゴーレムに担がれたまま階段を上りきり、階段前のセーフゾーンでゴーレムから降り立った。
「ふぁ〜……ここまで来るのは、さすがに面倒じゃったの。暇すぎて退屈しとったところじゃ。やっと目的地に到着か。それにしても、聞いてはおったが……このゴーレムの数、ゴキブリみたいで気持ちが悪いのう」
余裕の笑みを浮かべながらそう言う権蔵。かなり距離はあるが、剛志は階段付近に通信用のゴーレムを配置しており、その声をしっかりと拾っていた。
そこで、剛志が会話を試みる。
「ゴキブリみたいってひどいですね……っていうか、こんな数のゴキブリ見たことあるんですか? どちらかというと、アリの方がイメージ近いと思うんですが」
「おいおい剛志、お前さ、命を狙ってきた相手に向かって最初に言うセリフがそれか? お前、変だぞ……?」
そんな間の抜けたやり取りに警戒を強めた権蔵だったが、すぐに通話用ゴーレムを通した声だと気づいた。
「ほう、これが三雲が言っておった“未知のスキルで作るゴーレム”ってやつか。確かに便利じゃな。それと、先ほどのダンジョン入り口で話しかけてきた男といい、お主といい……最近は、漫才を始めるのが流行っているのか? たとえ話なんて、どうでもよかろうに」
その正確な洞察力は、さすがは一流の探索者。とはいえ、今回に限っては完全に剛志が変なだけであり、返す言葉もない。そこで万葉が、会話の流れを変えるべく口を開いた。
「この二人は置いておいて――権蔵。あなたの狙いは分かってるわ。でも、思い通りにはさせない。前回は逃げられたけど、今回も逃げ切れると思わないことね」
宮本万葉の声が聞こえたことで、権蔵の表情が一変し、実に楽しそうな笑顔を浮かべた。
「おお、“武士姫”ではないか。お主もおったか。ならば今回は楽しめそうじゃ。前回も、わしは逃げたくはなかったのよ。作戦だから仕方なく撤退してやっただけ。命拾いしたのは、そっちの方じゃろ? 何を寝ぼけたことを言っておるのだ」
相変わらず挑発的な物言いの権蔵に、万葉も内心では怒りを覚えている。だが、今は感情を抑えることにした。とはいえ、この言葉が彼女の攻撃力に火を点けたことは間違いない。
そして、権蔵は万葉の存在を確認したことで、戦闘狂としての本能が騒ぎ出してしまったようだ。
「岩井とやら、面白いスキルを持っておるようだの。この数のゴーレムは、“所持制限無視”によるものだと聞いておるが、通信用のゴーレムについては説明がつかん。ぜひとも、戦いの中で教えてもらいたいものよ。ただ――わしは手加減が苦手でな。せいぜい、生き残ってくれたまえよ」
そう言った次の瞬間、権蔵が合図を出した。
今、権蔵がいるのはダンジョン内唯一のセーフゾーン。スキルの使用はできないが、ゴーレムを配置することは可能なようで、すでに控えていたゴーレムが階段を下って姿を現した。
「おそらくセーフゾーンを抜けた瞬間に集中攻撃をするつもりだな。……ならば、その道を作ってやる。行け!」
権蔵の指示を受け、姿を現したのは7~8メートルはあるアイアン系の巨体ゴーレム。腕と脚が大きく、ずんぐりむっくりとした見た目をしているが、意外にも移動速度は遅く、どすどすと地面を揺らしながら剛志のゴーレム軍団へと進んでいく。
(……まあ、本人が無防備に出てきてくれるのが一番楽だけど。これは想定の範囲内だ)
剛志はそう判断し、まずはこのゴーレムを対処する必要があると理解する。
ゴーレムがセーフゾーンから外に出たのを確認した剛志は、イチロイドを通じて命令を下す。
待機していた大量のメイジ型ゴーレムが一斉に詠唱を開始し、剛志の十八番とも言える“集団魔法”を放つ。
その魔法がセーフゾーンの外縁部に命中すると、大きな爆発が起こり、空間の境界線が視認できるようになる。その中心に、権蔵のゴーレムがいた。
土煙が収まると、円の境目に沿うように、巨大な壁が出現していた。その壁は綺麗に成形されたものではなく、何かの力で無理やり押し上げられたような形状をしていた。
「まずい……!」
剛志は直感的に、それが“防御壁”を構築するためのゴーレムだと理解し、その目的が権蔵をセーフゾーンの外へ安全に出すためであることに気づく。
急ぎ、周囲に待機させていたアイアン系ゴーレムに指示を出し、一斉に壁の破壊へと向かわせる。
だが、時すでに遅し。土煙が晴れたときには、権蔵はすでに木製ゴーレムに抱えられ、その即席の壁の中へと移動を終えていた。
「いいのう! ド派手な戦いは嫌いではない! 次はこちらから行かせてもらうとしようか!」
テンションの高くなった権蔵は、そのまま先ほどの壁を構築したゴーレムに【バーサーカー】のスキルを発動。強制的にステータスが10倍となったゴーレムが、再び地面を強打する。
その衝撃で地震のような揺れが発生し、地面が大きく盛り上がって押し出される。そして、気づけば高さ20〜30メートルにも及ぶ巨大な壁が眼前に立ちはだかっていた。
その縁に、権蔵とそのゴーレムが飛び乗り、遠目から剛志たちの様子を見下ろす。
「楽しい戦をしようぞ! まだまだ若いもんには負けられん! わっはっは!」
豪快に笑う権蔵。
戦いは、まだ始まったばかりだ――。
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