第162話 vs権蔵3
権蔵対万葉の戦いが始まる。
万葉はゴリゴリの近接戦闘タイプで、権蔵はゴーレム使いという中距離戦闘タイプのため、本来であれば今のような接近戦に持ち込まれた時点で万葉が有利だ。
剛志や権蔵のような中距離戦闘タイプは、遠近両方の戦闘が可能な代わりに、どちらも専門職には劣るというのが定石で、本来なら近距離タイプと戦う際は、何とかして接近を避け、遠距離戦闘に持ち込むことが正とされる。
しかし、そこは剛志のゴーレムも相手にしなければならない権蔵は、懐まで万葉という特大戦力の侵入を許してしまっている。本来ならこれは致命的であり、いくら権蔵だとしても焦るべき場面のはずだ。だが、当の本人は完全にこの状況を楽しんでいた。
「いいのう!やはり戦いはこうでなくては!最近は噛み応えのないやつらばかりだったから期待しとるぞ!」
「あんた馬鹿を通り越してキモいわね。参ったか情報提供以外はしゃべるなって言ったわよね。減らず口が止まらないなら、もうしゃべれなくさせてあげるわ」
権蔵の発言に心底気持ち悪そうにしている万葉は、そう吐き捨てると同時に行動を開始した。
瞬歩。よく漫画やアニメなんかで描かれる移動法で、実際の戦闘方法としても存在するその移動手段は、まず下半身の力を抜き、下方向へ重力によって落ちるスピードを生かして、そのまま前に移動するという歩行法だ。そしてその動きが認識に追いつかないため、瞬時に目の前に移動しているように錯覚するのが本来の瞬歩だ。
そして万葉が今行った動きも瞬歩である。しかし、こちらの瞬歩はスキルによるものであり、そのスピードそのものが段違いだ。違いとしては、スキルの補正により下方向への加速度が重力加速度にプラスされており、初速がまず段違いだ。そのうえ強化された身体能力により、その加速度を余すことなく前方向への加速度に変換し、一気に前進する。
その動き自体も瞬歩独特の理解しがたい前進移動であるが、そもそもそのスピード自体が一般の者では認識できないほど速い。
そしてそれは、日本最高峰の探索者であるが中距離戦闘職のステータスしか持たない権蔵にとっても同様だった。
一瞬の間に距離を詰め、そのまま斬りかかった万葉の攻撃は、権蔵の認識外の速さだった。だが、彼のゴーレムにとっては対抗可能だった。
万葉が放った斬撃は、権蔵の面前でまたしてもゴーレムの防御により防がれてしまった。今まさに権蔵の頭を叩き割ると言わんばかりの太刀筋だったのだが、権蔵と万葉の間に彼を守るゴーレムの腕が割り込み、そのまま防ぎ切ってしまう。
そのまま今回も、別のゴーレムが横から万葉に攻撃を仕掛けてきており、それを今度は体をのけぞらせることで回避する万葉。万葉の目の前ギリギリをゴーレムの腕が通り過ぎるが、これは何とか避けたわけではなく、完全に見切っているが故の距離感だ。
そして、ゴーレムの腕が通り過ぎていったことを確認した万葉は、そのまま第二、第三の攻撃に移る。いろいろと態勢を変えながらも権蔵を守る二体のゴーレムの隙間を縫うように権蔵へ攻撃する万葉。しかし、そのすべてがことごとく防がれてしまう。
埒が明かないと感じ、一旦距離を取ることにして再度バックステップを行う万葉。しかし今度は権蔵がそれを許さない。
「おいおい、つれないな!もっと楽しもうぞ」
そう言いながら、自身の周りに展開していたゴーレムたちに万葉を追うよう指示を出す。すると、今まで権蔵の周りにいて彼を守っていたゴーレムたちが万葉を追いかけて追撃を仕掛けてくる。
バーサーカースキルで強化されたゴーレムたちのステータスは、一体一体が万葉と戦えるだけのものになっており、その攻撃をかわすのは容易ではない。しかし、左右からゴーレムならではの完全に息の合った追撃をかわしながらも、万葉は頭の中でこの状況を分析し、チャンスだと感じていた。
(よし、厄介だったゴーレムたちがあいつの周りを離れた。速度で言うと私の方が早い。ここで少し距離を稼いで一気に本体を攻撃することは可能!)
そう考えながらも、徐々に権蔵から離れるようにゴーレムたちを誘導していく万葉。その間もゴーレムたちは万葉を追いかけ、追撃を浴びせ続けている。
そして、それなりに距離が離れ、万葉は十分だと感じる。そのタイミングで一気に、先ほどの瞬歩を用いて権蔵との距離を詰める。
背中の方には、まだ追いついていないゴーレムたちが万葉を追いかけているのが分かる。そして今まさに、勢いそのまま権蔵に攻撃が入ると感じたその時、万葉は違和感を覚えた。
(なに、この違和感。いくらなんでも順調すぎる?でも相性差から考えたら不思議ではない。何か見落としている?でも何を?)
自ら刃を振り下ろしている一瞬の間、まさに走馬灯のように引き伸ばされた時間の中で、万葉は思考を巡らせる。
(明らかに変だというほどではないけど、これで勝ってしまってはあっさりしすぎているという気もする。ただの気のせい?それとも野生の勘?何、この気持ち悪い悪寒は。それに明らかに一瞬の間に考えすぎている。まるで走馬灯よね。このままだと危険ってこと?いや、確かにおかしい!これは罠!)
斬撃の直前で気づいた万葉は、今まさに振り下ろしていた刀の勢いを弱めた。
その判断が、幸いした。
権蔵の肩から腰にかけて一刀のもとに斬り捨てるはずだった万葉の太刀筋は、途中で違和感を感じ取ったことにより、全力の一刀から様子見の一太刀に変わり、権蔵の体から「カチッ」という何かのスイッチが入るような音に気づくことができたのだ。
その瞬間、権蔵の体は大きな爆発を起こし、その爆風は権蔵がいた場所に直径3mほどのクレーターを残すほどの威力だった。
爆発の爆心地にいた万葉は、本来ならただでは済まない。しかし、直前で違和感を感じ取ったおかげで爆発の予兆にいち早く気づき、その瞬間、爆心地から距離を取り、襲い来る爆風を「斬る」という離れ業で一命を取り留めたのだ。
よく見ると、爆発によるクレーターは万葉の少し前で何かに阻まれたように変形し、ちょうど万葉を避けるように扇形に切れている。
万葉は爆風を切り捨てたが、巻き起こった土煙は浴びてしまったため、服や顔に若干の汚れを残しながら、剣を振り下ろした体勢で残心していた。
そこに、後ろから先ほどまで万葉を追撃していたゴーレムたちが襲いかかってきた。しかし万葉は振り向くと同時に、横一線に思いきり刀を振り抜き、そのまま太刀筋に沿って放たれた飛ぶ斬撃が、ゴーレム二体を真っ二つに切り裂いた。
「実に愉快。まさかあの爆発から生き延びるとは。生き延びたのはおぬしで三人目よ。長生きはしてみるもんじゃの」
「無駄に長生きはしてるみたいだけど、ダンジョンに入ってる期間はそんなに変わらないでしょ。いい加減、その年寄りムーブやめなさいよ。見ていて痛々しいわ」
「ちょっとほめてやったらこれか。可愛げのないガキじゃの。しかし、どうして気がついた?うまくだませていたと思っておったのだが」
そう言いながら、少し離れた場所から歩いてくる権蔵。さっきまで目の前にいた権蔵は、偽物だったのだろう。
それを横目で確認し、そちらに向けて刀を向けながらも、万葉は答える。
「違和感は二つあったわ。まずはあなたの偽物の動き。あれはかなり下手くそね。まず目線が追えていない。はじめはスピードが速すぎて追いついていないのかとも思っていたのだけど、いくら何でも目の前に刀が迫っていてまったく反応しないのは、狂ってるだけじゃ説明がつかないわ。
二点目はゴーレムの速度よ。私の計算では、ゴーレム二体を振り切ってあなたに攻撃を当てる際、かなりギリギリになるはずだったの。だから攻撃を当てた後、すぐに追いついてくるゴーレムに対応しようと考えていたのよ。それなのに思ったより遅くて、かなり距離が開いていた。これが二つ目の違和感よ」
万葉の説明を受け、権蔵は感心したような表情を浮かべた。
「なるほど!よくあの短時間に、高速戦闘をしながらそこまで考えられるものよ。それに多くの人間は、わしのことを何も考えない戦闘狂だと考える。まあ、そういう一面もあることは否めんが、それでもこの年まで生きてきただけあり、そこらの若造よりも頭は回るのよ。
だから、こういった絡め手を混ぜることで、多くの人間は騙されるのだが……よくぞ見破った! あっぱれ!」
そう言って拍手をする権蔵。それを受けて万葉は、またしても苛立ちを隠せない。どこまでも上から目線のこの老害に、いい加減うんざりしてきているのだ。
だが、そうも言っていられない出来事が、この後待ち構えていた。
「しかし、この手がばれてしまっては仕方がないな。次の作戦に移ろうか。この作戦は実はお気に入りでの。単純明快——“全力”じゃ!」
そう言い放ったその瞬間だった。
剛志のゴーレムたちに足止めされていた権蔵配下のゴーレムすべてが、一斉に膨れ上がり──次の瞬間、凄まじい爆発を起こした。
「っ……!」
地下60階層全体が揺れ、熱波が奔り、轟音が爆ぜる。
周囲に配置されていた剛志のゴーレムたちは、爆圧の余波のみで数体が吹き飛び、破片になって床へ叩きつけられる。
そんな地響きの中。
権蔵は、自身のゴーレム異空庫から”ある”ゴーレムと召喚し、その肩に飛び乗る
「こ奴は、わしの“スペシャリティ”じゃ。存分に暴れさせてもらうぞ!」
それはもはや“ゴーレム”という言葉では表せないほどの巨体だった。
地下空間がその質量に悲鳴を上げ、天井が微かにきしむ。
ズズ……ン……!!
闇の裂け目から姿を現したのは、
“全長50メートルを超える超巨大ゴーレム”だった。
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