第6章 清算と旅立ちと
第35話 足跡〜sideシオン〜
この午後は忙しすぎて気持ちが追いつかなかった。
大人達をライラが殺して、何で?という気持ちと、とてつもない憎しみに駆られた。だけど、その後ライラの話を聞いて、大人達がそうなるべき理由があることが理解できた。
でもこれはあくまで理解できただけ。
腑に落ちるというか、納得はできなかった。
暫くして、よくわからないスーツ姿の大人が二人来て、ライラと話をしていた。
それからまた暫くすると、白と黒の車がどんどん入ってきた。車の上には赤いライトが載っていて、見たことのない感じの車だった。
ゾロゾロと制服を着た知らない大人達がやってきて、村中を色々調べて回っているようだった。
私の目には不思議な光景に写った。
知らない人や物がどんどん入ってきて、村中に広がっていくのだ。
日常が、当たり前だった事が崩れていくような感覚がした。
私達は礼拝堂を出て、今度は教室に集められていた。
制服姿の人とかスーツを着た人に色々話しかけられたけど、内容はよく覚えていない。
ずっと宙に浮いたような感覚がしていた。
ふわふわしてる感じ。
現実が現実じゃないような、夢の中にいるみたいな。
ほら、夢の中ってとんでもなく時間の流れが早くなったり遅くなったりするでしょ?あれに近いかも。
ぼーっとした感覚でずっと過ごしていたけど、ドアが開いて私はハッとなった。
開いたドアの向こうにはライラがいた。
その目は完全に疲れきっていた。
私は本もそんなに読まないから、どう言っていいか分からないけど、ライラは本当に疲れて見えた。
「みんな。準備ができたから、ちょっと…ついて来てくれるかな。」
心苦しそうにライラはそう言った。
何だろう。ざわざわする。
気持ちが、不安が押し寄せる。
ライラの誘導に従って外に出ると大きなバスが2台停まっていた。
それに乗るように指示されて、子ども達みんなでどこかへ連れて行かれれる。
道中、見た事もないような大きな穴?を見た。
何がどうなったらそうなるんだろうと不思議に思った。
その大穴を過ぎてすぐ、バスは道の途中で停車した。
一番前の席に座っていたライラが立ち上がって私達を振り返る。
「みんな。よく聞いてね。今目的地に着いた。降りてちょっと歩くと駐車場があるんだ。」
「白い建物があってね。そこで俺は……。俺達みんなは、その…。」
「さっき話したみたいな…拷問を受けた。とにかく酷い事をされたんだ。」
「たくさん子ども達がここで殺されてる。だからちゃんとみんなの遺体を見つけて、埋葬してあげて…ちゃんと天国に送ってあげたいんだ。」
「それと、みんなに何があったかきちんと知ってほしい。だからみんなについて来てもらったんだ。」
「でもね。ここから先は俺が殺した大人達の死体もめちゃくちゃあるんだ。すんごいグロいと思う…。多分吐くしトラウマになると思う。」
「だからそれでも行きたい人だけついて来て、みんなで手分けして、死んだ子どもた達を探してほしい。お願い…。」
そう言ってライラは涙を流しながら頭を下げた。
その姿を見てみんな椅子から立ち上がった。
そりゃ怖いだろうね。
見たくないだろうね。
でもみんな気持ちは一緒だった。
ライラの言う通り、何が起きたのか知りたかったし、大好きだったみんなの事をちゃんと天国に送ってあげたかった。
私よりも小さい子にはとっても難しい話だっただろうと思うけど、それでもみんなが立ち上がった。
ライラは涙をぐしっと拭いて。「ありがとう」と言うと私達を先導する形で施設の方へ誘導して行った。
駐車場に入ってからは、ライラが言う通り地獄そのものだった。
大人達がたくさん死んでた。
血もいっぱい流れてたし、とにかく酷い有様だった。
私達は泣きながらも、誰も足を止めずにライラについて行ったけど、一緒に来ていた大人達は何人かはそこでダメだったらしい。吐く人もいたし、泣いちゃって動けなくなる人もいた。
多分私達も普通だったらそうなるんだろうけど、それよりも殺されてしまったみんなの事の方が気がかりで、何とか足は前に進んだ。
白い建物に入って暫く進むと、ある部屋の扉の前でライラは止まった。
「どうしたの?」
私がそう聞くと
「……。」
少し下を向いたまま、ライラは口を固く閉ざしてしまった。
私にも分かる。
多分この部屋なんだろう。
ライラが酷い目にあって。お姉ちゃんが死んだ部屋は。
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